中高年のビジネスパーソンに起こる心身の変化【大原記念労働科学研究所✖️アルケリス コラボ企画 第一弾】

中高年のビジネスパーソンに起こる心身の変化 - 立ち仕事のミカタ
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はじめに

日本の労働力人口は約6957万人(2024年)ですが、このうち、約3分の1を55歳以上の人が占めています。定年となる年齢は、1980年代半ばまで55歳が一般的でしたが、幾度かの法改正を経て、定年という制度そのものが見直す機会も生じました。いまや70歳を超えて働いている人も珍しくありません。

「今の55歳はまだまだ元気」「昔と今では、仕事の量も質が違う」と思われる方も多いかもしれません。とはいえ、年齢を重ねる中で、私たちの身体は、じわじわと変化していきます。第一線で活躍されている皆さんの中には、年齢相応に、心身の負担を感じる方がいらっしゃるのではないでしょうか。これからも元気に働き続けるためにも、どのような変化が起こるのかを知って、その変化にうまく折り合っていくことが大切です。

労働力人口の3分の1を55歳以上の人が占めています。これからも元気に働き続けるためには?

身体が動かしにくい?

重たいものを持つことは、案外、年齢を経てもできている人が多いかもしれません。ただ、足がもつれたり、歩くのが若いころに比べると辛かったりすることはありませんか。上肢に比べて下肢の方が筋肉量の低下が起こりやすいと言われています。ただ、個人差もありますので、是非、今の自分の筋肉量を運動したり、食事に気をつけたり、睡眠をとったりして、できるだけ筋肉量の低下を抑えることが大事です。なかなか、運動ができない人は、移動や通勤に、階段を使うなど、日常的な行動を変えることから始めてみるのもよいでしょう。

また、肩関節、股関節などの柔軟性がなくなったと感じたりすることもあると思います。振り返るとき首だけを動かして痛めてしまうようなこともしばしば起こります。ストレッチをしたりすることも大事ですが、日常動作においても、急な姿勢変化を避けるなど、工夫を凝らしてみましょう。

日常的な運動やストレッチで、筋肉量の低下を抑えることが大事です。

バランスが取りにくい?

平衡感覚の低下そのものは、なかなか自覚しにくいものです。ただ、バランスを崩したときに、体勢を立て直すのが間に合わなかったり、踏ん張りがきかなかったりして、倒れてしまうことも経験しているのではないかと思います。

転倒による労働災害は、どの世代にも発生していますが、特に、中高年に差し掛かると増加する傾向があります。平衡感覚は、耳の機能、視の機能、情報処理能力、筋肉の機能など、様々な要素と関係していると言われています。測定サービスなどを通じて、自身の転倒リスクを定期的に知っていくのもよいでしょう。

目の見え方は?

働いているときに感じる変化として、なかなかピントは合わない、眼が疲れるといったことから、「ああ、もう老眼だな」と感じることもあるかもしれません。背景の色と、文字の色が近いと、文字が読みにくかったり、小さな文字がにじんだり、不便なこともあります。暗がり、夜間、夕方や早朝などは特に見えにくいなど、見え方にも変化が生じます。自身の「見え方」を把握して予防的に行動することも大切です。

老眼など見え方にも変化が生じます。

耳の聞こえ方は?

最近、チャイムの音が聞こえにくいな、とか、聞き間違いがよくあるな、ということがあるかもしれません。加齢にともなって、高い音や、S、K、F、Tなどの無声音が聞き取りにくくなることが知られています。例えば「レバーを下げて(sagete)」のSが聞こえないと「レバーを上げて(agete)」に聞こえてしまい、全く逆の意味になってしまいます。重要な伝達には、視覚情報と組み合わせるなどして、コミュニケーションをとるとよいでしょう。

大原記念労働科学研究所の取り組み

 1967年に斉藤一が示した「高年齢労働者の身体的能力指標」は、大変多くの方に参考にしていただけています。大原記念労働科学研究所では60年近くのときを経て、改めて、現代の高年齢労働者の身体的能力の研究を、厚生労働省の科研費の枠組みを用いて進めています。高年齢労働者と若年齢労働者の心身機能の比較結果を示し、転倒を始めとした労働災害防止対策に繋げることを目指しています。

公益財団法人大原記念労働科学研究所 wikipediaより引用 (c)Sid0327
大原記念労働科学研究所の拠点 桜美林大学新宿キャンパス (c) Sid0327

おわりに

人間工学の有名な書籍に「Fitting the task to the human」というものがあります。人が作業に合わせるのではなく、作業を人に合わせるという意味です。皆さんの職場、作業はいかがでしょうか。中高年にも働きやすい環境になっているでしょうか。使用している機材を見直してみる、補助的な用具を使用する、照明を増やしてみる、口頭だけでなく文字にしてみるなど身近な工夫も効果的です。

著者:松田文子
(公益財団法人 大原記念労働科学研究所)

公益財団法人 大原記念労働科学研究所

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アルケリス株式会社

※本記事は、公益財団法人 大原記念労働科学研究所とアルケリス株式会社 Webメディア「立ち仕事のミカタ」のコラボ企画の記事として執筆されました。

公益財団法人 大原記念労働科学研究所

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大原記念労働科学研究所 (c) Sid0327

労働者の健康と福祉の向上を目的に設立された研究機関です。労働環境や作業管理、人間工学などの分野で調査・研究を行い、安全で快適な職場づくりに貢献しています。倉敷紡績社長の大原孫三郎が「倉敷労働科学研究所」として設立。創立100年を超え、現在の拠点は桜美林大学新宿キャンパス内。公式HP

公益財団法人 大原記念労働科学研究所
大原記念労働科学研究所とアルケリスのコラボ企画 立ち仕事のミカタで専門家による記事を毎月連載中
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