【ストレスチェック義務化】50人未満の企業が労働安全衛生法改正に向けて準備すべきこと

【ストレスチェック義務化】50人未満の企業が労働安全衛生法改正に向けて準備すべきこと | 立ち仕事のミカタ | アルケリス株式会社

「うちは従業員が少ないから、ストレスチェックは関係ない」――そう思っていませんか? 2025年5月に成立した改正労働安全衛生法により、ストレスチェックの義務化が50人未満の事業場にも拡大されることが決まりました。これまで努力義務にとどまっていた中小企業・小規模事業場も、今後は法的な実施義務を負うことになります。

立ち仕事が中心の製造業や小売業、飲食業、美容業などには、従業員50人未満の事業場が数多く存在します。長時間の立位作業による身体的負担に加え、メンタルヘルスの課題にも向き合う必要がある今、この法改正の内容を正しく理解し、早めに準備を進めることが重要です。

本記事では、改正の背景から具体的な準備事項まで、2026年3月時点の最新情報をもとにわかりやすく解説します。

この記事でわかること

  • ストレスチェック義務化が50人未満の事業場に拡大された背景と経緯
  • 改正労働安全衛生法の具体的な内容と施行スケジュール
  • 50人以上の事業場との制度上の違い
  • 小規模事業場が今から取り組むべき準備事項
  • 活用できる公的支援制度と相談窓口

ストレスチェック義務化の50人未満への拡大|改正の概要

ストレスチェック制度とは

ストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした仕組みです。2015年12月に施行された改正労働安全衛生法(安衛法)第66条の10に基づき、事業者は労働者に対して心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を毎年実施することが義務づけられました(厚生労働省, 2015)。

具体的には、労働者が自記式の質問票に回答し、「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3領域について評価を行います。結果は本人に直接通知され、高ストレスと判定された労働者が申し出た場合には、医師による面接指導を実施する必要があります。

これまでの適用範囲と課題

2015年の制度開始以来、ストレスチェックの実施義務が課されていたのは常時50人以上の労働者を使用する事業場に限られていました。50人未満の事業場については「努力義務」という位置づけにとどまり、実施するかどうかは事業者の判断に委ねられてきました。

この結果、両者の間には大きな実施率の差が生じています。厚生労働省の調査によると、50人以上の事業場の実施率が84.7%であるのに対し、50人未満の事業場ではわずか32.3%にとどまっています(厚生労働省, 2024)。

50人未満の事業場は日本の全事業場の約9割を占めており、そこで働く労働者のメンタルヘルス対策が十分に行き届いていないことが、かねてより課題として指摘されていました。

2025年改正労働安全衛生法の成立

こうした課題を受け、2025年5月14日に改正労働安全衛生法が成立しました。この改正により、ストレスチェックの実施義務が全事業場に拡大され、50人未満の事業場も対象に含まれることになりました。

施行時期は公布の日から3年以内に政令で定める日とされており、最長で2028年5月頃までに施行される見通しです。具体的な施行日は今後の政令によって確定しますが、準備期間を考慮すると、早めの対応開始が推奨されます。

50人以上と50人未満の事業場|制度上の主な違い

今回の改正では、50人未満の事業場に対する負担軽減措置がいくつか設けられています。以下の表で、50人以上の事業場と50人未満の事業場の制度上の違いを整理します。

項目50人以上の事業場50人未満の事業場(改正後)
ストレスチェック実施義務(2015年〜)義務(改正法施行後)
実施頻度毎年1回以上毎年1回以上
労基署への報告義務義務なし(負担軽減措置)
産業医の選任義務義務なし
高ストレス者の面接指導医師による面接指導が義務医師による面接指導が義務
衛生委員会での審議義務義務なし(衛生委員会の設置義務がないため)
結果の集団分析努力義務努力義務

注目すべきポイントは、50人未満の事業場については労働基準監督署への報告が義務づけられない方針であることです。これは小規模事業場の事務負担を軽減するための配慮措置と考えられます。

一方で、高ストレス者への面接指導は規模にかかわらず義務です。この点が、産業医のいない小規模事業場にとって最大の課題となります。

50人未満の事業場が直面する課題

産業医・医師の確保が困難

50人未満の事業場には産業医の選任義務がありません。そのため、ストレスチェック後に高ストレス者が面接指導を希望した場合、面接を担当する医師をどのように確保するかが大きな課題となります。

特に地方の中小企業や、製造業・建設業などの立ち仕事が多い現場では、メンタルヘルスに対応できる医師へのアクセスが限られているケースも少なくありません。

実施体制の整備

ストレスチェック制度を適切に運用するためには、以下の体制整備が必要です。

  • 実施者の選定(医師、保健師、または厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師・精神保健福祉士等)
  • 個人情報の保護体制の構築(結果は本人の同意なく事業者に提供できない)
  • 実施事務従事者の指名(人事権を持つ者は就くことができない)
  • 面接指導後の就業上の措置を講じる仕組みの整備

従業員数が少ない事業場ほど、こうした体制構築のためのリソースが限られる傾向にあります。

コストへの懸念

外部機関に委託してストレスチェックを実施する場合、1人あたり数百円〜数千円程度の費用がかかります。少人数の事業場にとっては、費用対効果の面で負担感を感じることもあるでしょう。ただし、後述する公的支援を活用すれば、無料で実施できる方法もあります。

小規模事業場が今から始めるべき準備

施行日の確定を待たず、今から段階的に準備を進めることが推奨されます。以下に、具体的なステップを整理します。

ステップ1: 制度の基本を理解する

まずは、ストレスチェック制度の目的と流れを経営者・管理者が正しく理解することが出発点です。厚生労働省が令和8年(2026年)2月25日に公表した「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」は、50人未満の事業場に特化した実務的な手引きであり、必読の資料です(厚生労働省, 2026)。

このマニュアルには、以下のような実務に直結する情報が掲載されています。

  • 小規模事業場に適した実施方法の選択肢
  • 実施者の確保方法
  • プライバシー保護の具体的な対応策
  • 面接指導の実施手順

ステップ2: 実施方法を決める

50人未満の事業場がストレスチェックを実施する方法は、大きく分けて以下の3つがあります。

  1. 外部機関への委託: EAP(従業員支援プログラム)事業者や健診機関に委託する方法。費用はかかるが、専門的な運用が可能
  2. 「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」の利用: 厚生労働省が無料で提供しているソフトウェア。ダウンロードして自社で実施可能
  3. 地域産業保健センターの活用: 50人未満の事業場を対象に、無料で産業保健サービスを提供している公的機関

コスト面で不安がある場合は、まず地域産業保健センター(通称: 地さんぽ) に相談することをお勧めします。

ステップ3: 面接指導体制を構築する

高ストレス者が面接指導を希望した場合に備え、対応する医師を事前に確保しておく必要があります。

地域産業保健センターでは、50人未満の事業場を対象に、医師による面接指導やメンタルヘルス相談を無料で提供しています(独立行政法人労働者健康安全機構)。全国に約350カ所設置されており、最寄りのセンターに事前に連絡を取っておくことで、いざというときにスムーズな対応が可能になります。

ステップ4: 社内ルールを整備する

ストレスチェック制度を円滑に運用するために、以下の社内ルールを事前に定めておきましょう。

  • 実施時期(毎年いつ頃実施するか)
  • 対象者の範囲(パート・アルバイト等を含めるか)
  • 結果の取り扱い方針(個人情報保護の方針)
  • 高ストレス者への対応フロー
  • 不利益取扱いの禁止に関する方針の明文化

労働安全衛生法では、ストレスチェックの結果や面接指導の申出を理由とする不利益な取扱い(解雇、異動、降格等)は禁止されています。この点は全従業員に周知する必要があります。

立ち仕事の現場とメンタルヘルス

ストレスチェック義務化の拡大は、立ち仕事の現場にとっても重要な意味を持ちます。

長時間の立位作業は、腰痛や下肢の疲労といった身体的負担だけでなく、心理的ストレスの要因にもなり得ます。身体の痛みや疲労が慢性化すると、仕事への意欲低下や精神的な不調につながることが、複数の研究で報告されています(Waters & Dick, 2015)。

製造業、食品加工業、小売業、美容業、医療・歯科など、立ち仕事が多い業種には50人未満の事業場が数多く存在します。こうした現場では、身体的な負担軽減策とメンタルヘルス対策を一体的に進めることが、労働者の健康と生産性の向上につながると考えられます。

ストレスチェックの導入は、職場環境の改善に取り組むきっかけとしても有効です。集団分析の結果を活用すれば、作業姿勢や休憩の取り方、職場の人間関係など、ストレス要因を可視化して改善につなげることができます。

よくある質問

Q: うちの会社は従業員10人程度ですが、本当に義務化されるのですか?

A: はい。改正労働安全衛生法により、従業員数にかかわらずすべての事業場でストレスチェックの実施が義務となります。ただし、施行日は公布から3年以内に政令で定められるため、2028年5月頃が最長の期限です。具体的な施行日が決まり次第、厚生労働省から発表されます。

Q: 50人未満の事業場でも労基署に報告する必要がありますか?

A: いいえ。50人未満の事業場については、労働基準監督署への報告は義務づけられない方針です。これは小規模事業場の事務負担を軽減するための措置です。ただし、ストレスチェックの実施自体は義務ですので、実施記録は社内で適切に管理・保管してください。

Q: 費用をかけずにストレスチェックを実施する方法はありますか?

A: あります。**厚生労働省が無料で提供している「ストレスチェック実施プログラム」**をダウンロードして使用できます。また、**地域産業保健センター(地さんぽ)**では、50人未満の事業場を対象にストレスチェックに関する相談や面接指導を無料で提供しています。

Q: 産業医がいない場合、高ストレス者の面接指導はどうすればよいですか?

A: 地域産業保健センターを活用してください。全国約350カ所に設置されており、50人未満の事業場に対して医師による面接指導を無料で提供しています。事前に最寄りのセンターに連絡し、体制を確認しておくことをお勧めします。

まとめ

2025年5月の改正労働安全衛生法により、ストレスチェックの義務化が50人未満の全事業場に拡大されました。施行は最長で2028年5月頃ですが、準備には相応の時間がかかるため、早めの対応が重要です。

今回の改正のポイントを整理すると、以下のとおりです。

  • 50人未満の事業場も含め、すべての事業場でストレスチェックが義務化される
  • 労基署への報告は50人未満の事業場には義務づけられない(負担軽減措置)
  • 高ストレス者への面接指導は規模にかかわらず義務であり、医師の確保が課題
  • 地域産業保健センターを活用すれば、無料で面接指導や相談を受けられる
  • 厚生労働省の**「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」**が実務の手引きとして活用できる

立ち仕事をはじめとする身体的負担の大きい職場では、身体面とメンタル面の両方から労働者の健康を守る視点が求められます。今回の法改正を、職場環境の改善に取り組む好機と捉え、計画的に準備を進めていきましょう。

※本記事の情報は2026年3月時点のものです。施行日等の詳細は、厚生労働省の最新情報をご確認ください。

参考文献

  1. 厚生労働省, 「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」, 2015年. https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/
  2. 厚生労働省, 「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」, 2024年. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/h30-46-50b.html
  3. 厚生労働省, 「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」, 2026年2月25日公表. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055195_00010.html
  4. 厚生労働省, 「労働安全衛生法の一部を改正する法律(令和7年法律第●号)」, 2025年5月14日成立.
  5. 独立行政法人労働者健康安全機構, 「地域産業保健センターのご案内」. https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/333/Default.aspx
  6. Waters, T.R. & Dick, R.B., “Evidence of Health Risks Associated with Prolonged Standing at Work and Intervention Effectiveness,” Rehabilitation Nursing, 40(3), 148-165, 2015. https://doi.org/10.1002/rnj.166

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