【高年齢労働者の労災防止が努力義務化】2026年4月改正の内容と対応策

【高年齢労働者の労災防止が努力義務化】2026年4月改正の内容と対応策 | 立ち仕事のミカタ | アルケリス株式会社

2026年4月から、高年齢労働者の労災防止に関する措置が事業者の努力義務として法的に位置づけられることをご存知ですか?2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法により、60歳以上の労働者に対する安全配慮が、これまでのガイドラインベースから法律に基づく指針へと格上げされます。

背景には、深刻な数字があります。2024年の労災による休業4日以上の死傷者のうち、60歳以上が初めて全体の3割台に到達しました。高齢者の労災は過去20年で倍増しており、もはや見過ごせない社会課題です。本記事では、改正の具体的な内容から現場で取り組むべき対応策まで、事業者が知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。

: 本記事は2025年7月時点の情報に基づいています。省令・告示等の詳細は今後公布される予定のものを含みます。

この記事でわかること

  • 2026年4月施行の高年齢労働者の労災防止に関する努力義務の内容
  • 60歳以上の労働者の労災が急増している統計データと背景
  • エイジフレンドリーガイドラインの法的位置づけの変化
  • 事業者が取り組むべきハード面・ソフト面の具体的対策
  • エイジフレンドリー補助金の活用方法

高年齢労働者の労災防止が努力義務に――改正の概要

改正の背景:60歳以上の労災が過去20年で倍増

日本の労働現場では、高齢化の波が確実に押し寄せています。総務省の労働力調査によれば、60歳以上の就業者数は年々増加しており、定年延長や継続雇用制度の普及とあいまって、多くの職場で高年齢労働者が欠かせない戦力となっています。

しかし、その一方で深刻な課題が浮上しています。厚生労働省「労働者死傷病報告」によると、2024年の休業4日以上の労災死傷者のうち、60歳以上の割合が初めて3割を超えました。過去20年間で高齢労働者の労災件数はおよそ2倍に増加しています。

特に注目すべきは、年齢による労災リスクの男女差です。30代と比較した場合、60歳以上の労災発生率は男性で約2倍、女性で約5倍に達します(厚生労働省, 2024)。女性の労災リスクが著しく高い背景には、筋力やバランス能力の加齢変化に加え、食品製造業や小売業など転倒リスクの高い職種に女性高齢労働者が多いことが指摘されています。

改正のポイント:エイジフレンドリーガイドラインの法的格上げ

厚生労働省は2020年に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(通称:エイジフレンドリーガイドライン)を策定し、高齢者の労災防止に向けた取り組みを推奨してきました。しかし、このガイドラインは行政通達に基づくもので、法的な強制力を持っていませんでした。

今回の改正では、このガイドラインを労働安全衛生法に基づく指針に格上げし、法的根拠を付与します。具体的には、改正安衛法において以下の内容が定められます。

  • 対象: 60歳以上の高年齢労働者を使用する事業者
  • 措置の性質: 努力義務(罰則の対象ではないが、法律上「努めなければならない」と規定)
  • 措置の内容: 高年齢労働者の身体機能の低下等に対応した労働災害防止措置
  • 施行日: 2026年4月1日

「努力義務」とは? 法律上「〜するよう努めなければならない」と規定される義務です。違反しても直接的な罰則はありませんが、行政指導や労災発生時の安全配慮義務違反の判断材料となり得ます。また、努力義務は将来的に義務化される前段階として位置づけられることが多く、早期の対応が望まれます。

対象となる事業者・労働者

今回の改正は、60歳以上の労働者を使用するすべての事業者が対象です。業種や事業場の規模は問いません。

特に影響が大きいのは、以下のような業種です。

業種高齢者の労災が多い主な理由
製造業重量物の取り扱い、機械への巻き込まれ
小売業・飲食業店舗内での転倒、長時間の立ち仕事
建設業墜落・転落、重筋作業
介護・福祉腰痛、転倒
食品加工業床面の滑り、反復作業による筋骨格系障害
清掃・ビルメンテナンス転倒、高所作業

高齢労働者に多い労災の類型と加齢変化の影響

高年齢労働者の労災対策を効果的に進めるためには、なぜ高齢者に労災が多いのかを正しく理解することが重要です。

転倒災害――最大のリスク要因

高齢労働者に最も多い労災は転倒災害です。厚生労働省の調査では、60歳以上の労災死傷者の約3割を転倒が占めています。転倒の背景には、加齢による以下の身体機能の変化が関係しています。

  • 筋力の低下: 40歳以降、下肢の筋力は10年ごとに約10〜15%低下するとされています。特に大腿四頭筋やハムストリングスの筋力低下は、つまずきからの回復動作を困難にします
  • バランス能力の低下: 加齢に伴い、姿勢制御を担う前庭機能や固有受容感覚が衰え、不安定な姿勢からの立て直しが遅くなります
  • 視力の変化: 暗所での視力低下、コントラスト感度の低下により、段差や障害物の認識が遅れることがあります

墜落・転落災害

建設業や倉庫業では、高所作業中の墜落・転落も深刻な問題です。加齢による平衡感覚の衰えに加え、とっさの回避動作が若年層に比べて遅くなるため、高所作業のリスクが相対的に高まります。

腰痛・筋骨格系障害

長時間の立ち仕事や重量物の取り扱いによる腰痛も、高齢労働者に多い労災です。椎間板の変性は30代から始まりますが、60歳以降は脊柱の柔軟性低下と筋力低下の複合作用により、同じ作業でも腰部への負荷が若年者より大きくなります。

事業者に求められる具体的対策

改正法に基づく指針では、事業者にハード面(設備・環境の整備)ソフト面(健康管理・体制づくり)の両面からの対策が求められます。

ハード面:職場環境・設備の改善

転倒防止対策

  • 床面の滑り止め加工、段差の解消、手すりの設置
  • 通路の十分な幅の確保と整理整頓の徹底
  • 照明の明るさの確保(特に階段、通路、作業場の照度を上げる)
  • 滑りにくい靴の支給・着用の推奨

作業負荷の軽減

  • 重量物の取り扱いにおける補助器具(リフター、台車等)の導入
  • 立ち仕事における疲労軽減マット着座可能な作業環境の整備
  • 高所作業を減らすための作業手順の見直し
  • 作業台の高さ調整が可能な設備の導入

表示・サインの改善

  • 注意喚起の表示を大きく見やすいフォントで作成
  • 色覚変化に配慮したコントラストの高い配色を採用
  • 危険箇所のマーキングを強化

ソフト面:健康管理と体制づくり

健康管理の強化

  • 体力チェックの実施(筋力、バランス能力、柔軟性等の定期的な測定)
  • 健康診断結果を踏まえた就業上の配慮(作業内容や勤務時間の調整)
  • 高年齢労働者本人への健康教育(加齢変化への気づきと自己管理の促進)

安全教育・研修の充実

  • 高齢者特有のリスクに焦点を当てた安全教育プログラムの実施
  • 転倒予防体操やストレッチの日常的な導入
  • 管理者向けの高齢者特性に関する研修

作業管理体制の見直し

  • 無理のない作業ペースの設定と十分な休憩時間の確保
  • 高温環境での作業における暑熱対策の強化(高齢者は温度調節機能が低下するため)
  • 夜勤・早朝勤務のシフト配慮

エイジフレンドリー補助金の活用

高年齢労働者の安全対策に取り組む事業者を支援するため、厚生労働省はエイジフレンドリー補助金を設けています。今回の法改正を受け、令和8年度の概算要求額は9.5億円と前年度から25%増額されており、国としても本格的に支援を拡充する姿勢が見て取れます。

補助金の概要

項目内容
対象事業者60歳以上の労働者を使用する中小企業事業者
補助対象高年齢労働者の安全・健康確保のための設備投資や改善措置
補助率対象経費の1/2
上限額100万円(コースにより異なる)

主な補助対象の例

  • 転倒防止のための床面改修・手すり設置
  • 階段昇降機、リフター等の導入
  • 身体機能の低下を補う設備(作業台昇降装置、疲労軽減マット等)
  • 体力チェック機器の導入
  • 安全衛生教育プログラムの導入費用

補助金の活用は、コスト面での負担を抑えながら職場改善を進める有効な手段です。申請要件や手続きの詳細は、厚生労働省のウェブサイトまたは最寄りの労働局で確認することをお勧めします。

関連する法令・制度

今回の改正は、高年齢労働者の安全を守るための枠組みの一部です。関連する法令・制度を押さえておくと、対策の全体像が見えやすくなります。

  • 労働安全衛生法(安衛法): 職場の安全衛生に関する基本法。今回の改正の根拠法
  • 高年齢者雇用安定法: 65歳までの雇用確保義務、70歳までの就業確保措置(努力義務)を定める法律。雇用を確保する以上、安全も確保する必要がある
  • 労働契約法第5条(安全配慮義務): 使用者は労働者の安全に配慮する義務がある。努力義務に違反した状態で労災が発生した場合、安全配慮義務違反が認定されやすくなる可能性がある
  • 2026年労働安全衛生法改正の全体像: 高年齢労働者の労災防止は改正の5つの柱の一つ。フリーランスの保護拡大やストレスチェック全事業場義務化なども同時に施行される

まとめ

2026年4月の改正労働安全衛生法施行により、高年齢労働者の労災防止措置が事業者の努力義務として明確に位置づけられます。これは、20年間で倍増した高齢者の労災件数、60歳以上が労災死傷者の3割を超えた現実を踏まえた、待ったなしの制度改正です。

ポイントを整理すると、以下の通りです。

  • 2020年策定のエイジフレンドリーガイドラインが安衛法に基づく指針に格上げされる
  • 60歳以上の労働者を使用するすべての事業者が対象
  • 努力義務であるが、行政指導や安全配慮義務の判断に影響し得る
  • ハード面(設備改善・転倒防止)とソフト面(健康管理・安全教育)の両面から取り組む
  • エイジフレンドリー補助金(令和8年度概算要求9.5億円、前年比25%増)を積極活用する

高齢者が安全に、そして長く働ける職場をつくることは、人手不足が深刻化するなかで企業の持続的成長にも直結します。施行までの準備期間を活かし、自社の職場環境を今一度見直してみてはいかがでしょうか。

よくある質問

Q: 努力義務に違反した場合、罰則はありますか?

A: 努力義務に対する直接的な罰則規定はありません。しかし、努力義務に対応していない状態で高齢労働者の労災が発生した場合、労働契約法上の安全配慮義務違反を問われるリスクが高まります。また、労働基準監督署からの行政指導の根拠にもなり得ます。将来的に義務化される可能性も踏まえ、早期対応が推奨されます。

Q: 対象は60歳以上の正社員だけですか?パート・派遣も含まれますか?

A: 雇用形態を問わず、60歳以上のすべての労働者が対象です。パートタイム、アルバイト、契約社員、派遣労働者も含まれます。派遣労働者の場合は、派遣先事業者にも安全配慮の責任が及びます。

Q: 小規模事業場でも対応が必要ですか?

A: はい。事業場の規模にかかわらず、60歳以上の労働者を使用するすべての事業者が対象です。小規模事業場の場合、エイジフレンドリー補助金を活用することで、費用負担を抑えながら対策を進めることができます。

Q: エイジフレンドリーガイドラインと今回の法改正は何が違うのですか?

A: 2020年策定のエイジフレンドリーガイドラインは行政通達に基づく「参考指針」でした。今回の法改正では、これが安衛法に基づく指針に格上げされます。法的根拠が明確になることで、行政指導や監督の基準としての位置づけが強化されるとともに、事業者にとっても対応の優先度が上がります。

参考文献

  1. 厚生労働省, 「労働安全衛生法等の一部を改正する法律の概要」, 2025年5月. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/
  2. 厚生労働省, 「令和6年 労働者死傷病報告の概要」, 2024年.
  3. 厚生労働省, 「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」, 2020年3月. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_agefriendly.html
  4. 厚生労働省, 「エイジフレンドリー補助金」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/age-friendly.html
  5. 総務省, 「労働力調査」, 2024年.
  6. 厚生労働省, 「令和8年度労働基準局関係概算要求のポイント」, 2025年.

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立ち仕事の椅子「スタビハーフ」に座って仕事をする前立ち仕事の椅子「スタビハーフ」に座って仕事をする様子

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立ち姿勢では体重負荷が100%足裏に集中して、足や腰に負担がかかります。スタビハーフは体重を分散して支えるため、足裏への負荷を最大33%軽減することができます。

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実証実験において、スタビハーフによる体重分散効果が示されました。

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