【労働安全衛生法の歴史】1972年制定から2026年改正までの変遷を振り返る

労働安全衛生法の歴史は、日本の労働者の安全と健康を守るための挑戦の記録です。年間6,000人以上が労働災害で命を落としていた1970年代から、メンタルヘルス対策や化学物質の自律的管理が求められる現在まで、この法律はどのように進化してきたのでしょうか。立ち仕事に従事する方にとっても、職場の安全衛生を支える根幹の法令であるこの「安衛法」の変遷を、時代背景とともに振り返ります。
この記事でわかること
- 労働安全衛生法が1972年に制定された背景と目的
- 制定前史としての労働基準法(1947年)の安全衛生規定
- THP導入、リスクアセスメント義務化、ストレスチェック制度など主要改正の経緯
- 2025年公布・2026年施行の最新改正のポイント
- 50年超の変遷から見える労働安全衛生の今後の方向性
労働安全衛生法の歴史を概観する
安衛法とは何か
労働安全衛生法(安衛法) は、職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することを目的とした法律です。厚生労働省が所管し、事業者に対して安全衛生管理体制の整備、危険・健康障害の防止措置、健康診断の実施などを義務づけています。
安衛法は制定以来50年以上にわたり、社会情勢や労働環境の変化に合わせて幾度もの改正を重ねてきました。その歴史をたどることで、日本の労働安全衛生政策がどのような課題に直面し、どう対応してきたのかが見えてきます。
年表で見る主要な出来事
以下の年表は、労働安全衛生法の歴史における主な転換点をまとめたものです。
| 年 | 主な出来事 |
|---|---|
| 1947年 | 労働基準法制定(安全衛生規定を含む) |
| 1972年 | 労働安全衛生法制定(労基法から独立) |
| 1980年代 | 化学物質規制の強化、作業環境測定法との連携 |
| 1988年 | THP(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)導入 |
| 1996年 | 大改正:OSHMS導入促進 |
| 2005年 | リスクアセスメントの努力義務化 |
| 2006年 | 長時間労働者への医師面接指導制度 |
| 2014年 | ストレスチェック制度の創設、化学物質リスクアセスメント義務化 |
| 2019年 | 産業医・産業保健機能の強化(働き方改革関連) |
| 2022〜2024年 | 化学物質の自律的管理への段階的移行 |
| 2025年 | 改正法公布(個人事業者保護、ストレスチェック全事業場義務化等) |
| 2026年 | 改正法施行(4月・10月段階施行) |
前史:労働基準法の安全衛生規定(1947年)
労働安全衛生法の歴史は、1947年の労働基準法(労基法)制定にさかのぼります。戦後の新憲法のもと、労働者の権利を守る枠組みとして制定された労基法は、その第5章「安全及び衛生」において、事業者の安全配慮義務や危険防止措置に関する基本的な規定を設けました。
しかし、この時点での安全衛生規定はあくまで労基法の一部分にすぎず、急速に発展する産業社会の要請に十分に応えるには限界がありました。特に1950年代後半からの高度経済成長期には、建設・製造業を中心に労働災害が深刻化し、抜本的な法整備が求められるようになります。
労働安全衛生法の制定(1972年)
制定の背景:年間6,000人超の労災死亡
1960年代の日本は、高度経済成長の裏で労働災害が社会問題となっていました。1961年には年間の労災死亡者数が6,712人に達し、建設現場や工場での事故が後を絶ちませんでした(厚生労働省「労働災害発生状況の推移」)。
労基法の安全衛生規定だけでは、複雑化する産業構造と多様化する危険要因に対応しきれないという認識が広まり、安全衛生に特化した独立法の必要性が強く意識されるようになります。
安衛法の誕生
1972年6月、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号) が公布されました。労基法第5章の安全衛生規定を発展的に独立させ、より体系的・包括的な安全衛生管理の枠組みを定めたものです。
主な特徴は以下の通りです。
- 安全衛生管理体制の明確化: 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医などの選任義務
- 安全衛生委員会の設置: 労使が参加する委員会による審議体制
- 危険防止基準の整備: 機械・設備、作業方法に関する具体的な基準
- 健康診断の義務化: 一般健康診断・特殊健康診断の実施義務
- 安全衛生教育の体系化: 雇入れ時教育、特別教育、職長教育の義務づけ
安衛法の制定は、日本の労働安全衛生行政の大きな転換点となりました。以降、労災死亡者数は長期的な減少傾向に入ります。
1980年代:化学物質規制と健康増進への展開
化学物質規制の強化
1970年代後半から1980年代にかけて、職場で使用される化学物質による健康障害が新たな課題として浮上しました。有機溶剤や特定化学物質による中毒、じん肺といった職業性疾病への対策強化が求められ、作業環境測定法(1975年制定)との連携のもと、化学物質の管理基準が順次整備されました。
この時期の改正により、事業者には化学物質の危険性・有害性の表示義務やSDS(安全データシート)の交付義務が段階的に課されるようになります。
THP(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)の導入(1988年)
1988年の改正では、THP(トータル・ヘルスプロモーション・プラン: Total Health Promotion Plan) が導入されました。これは安衛法第70条の2に基づく労働者の心身両面にわたる健康保持増進措置であり、それまでの「災害防止・疾病予防」中心の安全衛生政策に、積極的な健康づくりという新しい視点を加えたものです。
THPの導入は、安衛法の守備範囲が「安全」から「健康」へ、さらに「予防」から「増進」へと広がっていく流れの象徴的な出来事でした。
1996年大改正:マネジメントシステムの時代へ
1996年の改正は、安衛法の歴史において特に重要な転換点の一つです。この改正では、OSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム: Occupational Safety and Health Management System) の導入促進が盛り込まれました。
従来の「個別規制型」のアプローチに加え、事業者が自主的にPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを回して安全衛生水準を継続的に向上させる**「マネジメントシステム型」のアプローチ**が推奨されるようになったのです。
この考え方は、後の2005年改正でのリスクアセスメント努力義務化にもつながる重要な布石となりました。国際的にもILO(国際労働機関)が2001年にOSHMSガイドラインを発行するなど、マネジメントシステムによる自主的管理が世界的な潮流となっていました。
2000年代:リスクアセスメントと過重労働対策
リスクアセスメントの努力義務化(2005年)
2005年の改正により、安衛法第28条の2としてリスクアセスメントの実施が努力義務とされました。事業者は、職場の危険性・有害性を特定し、そのリスクを見積もり、低減措置を検討・実施するという一連のプロセスを行うことが求められるようになります。
リスクアセスメントは、災害が起きてから対処する「事後対応型」から、潜在的な危険を事前に把握して対策を講じる「予防型」への転換を象徴する仕組みです。
長時間労働者への医師面接指導制度(2006年)
2006年には、月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる労働者に対して、事業者が医師による面接指導を実施する制度が設けられました。過労死や過労自殺が社会問題化する中で、長時間労働と健康障害のリスクを制度的に管理する仕組みとして導入されたものです。
この改正は、安衛法が働き方そのものに踏み込んで健康管理を行うという新たな段階に入ったことを示しています。
2014年改正:メンタルヘルスと化学物質管理の転機
2014年の改正は、2つの大きな柱を持っています。
ストレスチェック制度の創設
ストレスチェック制度(2015年12月施行)は、従業員50人以上の事業場に対して、労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施を義務づけたものです。
メンタルヘルス不調の予防を目的としたこの制度は、安衛法が身体的な安全・健康だけでなく、精神的な健康(メンタルヘルス)にも本格的に取り組む画期的な転換点となりました。
化学物質リスクアセスメントの義務化
一定の危険有害化学物質(SDS交付義務対象物質)については、リスクアセスメントの実施が努力義務から法的義務に引き上げられました。2005年に努力義務化されたリスクアセスメントが、化学物質分野では義務へと強化されたのです。
2019年改正:働き方改革との連動
2019年には、働き方改革関連法の一環として安衛法も改正されました。主な内容は以下の通りです。
- 産業医の権限強化: 産業医が事業者に対して意見を述べやすくする仕組みの整備
- 産業保健機能の強化: 産業医への情報提供の充実、衛生委員会への報告義務
- 労働時間の客観的把握: 管理監督者を含む全労働者の労働時間を客観的方法で把握する義務
これらの改正は、長時間労働の是正や多様な働き方の実現を目指す働き方改革の中で、労働者の健康管理をより実効性のあるものにすることを意図したものです。
2022〜2024年:化学物質の自律的管理への移行
2022年から2024年にかけて、化学物質管理の大転換が段階的に進められました。従来の「特定の物質を個別に規制する」方式から、事業者自身がリスクアセスメントに基づいて管理方法を選択する「自律的管理」への移行です。
具体的には、リスクアセスメント対象物質の大幅な拡大、ばく露濃度の管理基準の導入、化学物質管理者の選任義務化などが順次施行されました。この変化は、約2,900種類の化学物質を対象とする大規模なものであり、事業者の自主的な安全衛生管理能力がこれまで以上に求められるようになりました。
2025年公布・2026年施行:最新の大改正
2025年に公布された最新の改正法は、安衛法の歴史においても特に広範な内容を持つ大改正です。2026年4月および10月に段階的に施行される主な内容は以下の通りです。
- 個人事業者等の保護: これまで「労働者」に限定されていた保護の対象を、フリーランスや一人親方などの個人事業者にも拡大
- ストレスチェックの全事業場義務化: 従来の「50人以上」の要件を撤廃し、すべての事業場に実施を義務づけ
- 高齢労働者への安全配慮: 高年齢労働者の身体機能の変化に配慮した安全衛生対策の強化
- 業務委託先への配慮義務: 請負・委託関係における安全衛生上の配慮措置
この改正は、雇用形態の多様化や労働者の高齢化という現代の課題に安衛法が対応するものであり、とりわけ立ち仕事に従事するフリーランスや高齢の労働者にとって大きな意味を持つ変更です。
まとめ
労働安全衛生法の歴史は、日本社会が直面してきた労働環境の課題に法制度がどう応えてきたかの記録です。
- 1947年〜1972年: 労基法からの独立――高度経済成長期の労災多発を受けた法整備
- 1980年代〜1990年代: 化学物質規制の強化とマネジメントシステムの導入――予防型管理への転換
- 2000年代: リスクアセスメントと過重労働対策――自主的管理と働き方への介入
- 2010年代: メンタルヘルスと働き方改革――心身両面の健康管理の強化
- 2020年代: 化学物質の自律的管理と多様な働き方への対応――制度の対象と範囲の拡大
50年以上にわたる変遷を通じて一貫しているのは、安全衛生の対象が「命を守る」ことから「健康を増進する」こと、さらに「多様な働き方に対応する」ことへと広がり続けているという点です。
立ち仕事に携わる方にとっても、安衛法は身体的負担の軽減や作業環境の改善を支える法的基盤です。法の変遷を知ることは、今後の職場改善を考えるうえでの重要な手がかりとなるでしょう。
よくある質問
Q: 労働安全衛生法と労働基準法はどう違うのですか?
A: 労働基準法は労働条件全般(賃金、労働時間、休日等)を定める法律で、労働安全衛生法は職場の安全と健康に特化した法律です。1972年に労基法の安全衛生規定を独立・拡充する形で制定されました。どちらも厚生労働省が所管しており、労基法の特別法として安衛法が位置づけられています。
Q: 2026年の改正で立ち仕事の現場にはどのような影響がありますか?
A: 特に影響が大きいのは、高齢労働者への安全配慮義務の強化と、ストレスチェックの全事業場義務化です。立ち仕事は加齢に伴う身体機能の低下の影響を受けやすい作業形態であり、事業者にはより具体的な対策が求められるようになります。また、従業員50人未満の小規模事業場でもストレスチェックが義務化されるため、新たな対応が必要です。
Q: 安衛法の改正情報はどこで確認できますか?
A: 厚生労働省の公式サイト(安全衛生関係法令のページ)が最も確実な情報源です。また、都道府県労働局や労働基準監督署でも相談が可能です。改正内容の解説資料やパンフレットも厚労省サイトで公開されています。
参考文献
- 厚生労働省, 「労働安全衛生法」, e-Gov法令検索, https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057 (2025年7月閲覧)
- 厚生労働省, 「労働災害発生状況の推移」, https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/rousai-hassei/ (2025年7月閲覧)
- 厚生労働省, 「労働安全衛生法の一部を改正する法律(令和7年法律)の概要」, 2025年
- 厚生労働省, 「ストレスチェック制度導入マニュアル」, 2015年
- 厚生労働省, 「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」, 2022年
- ILO, “Guidelines on Occupational Safety and Health Management Systems (ILO-OSH 2001),” International Labour Organization, 2001.
- 厚生労働省, 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)」, 2018年
- 厚生労働省, 「THP(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)指針」, 1988年(最終改正2020年)

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