【日本は特殊!?】海外の職場メンタルヘルス法制度との比較まとめ

職場のメンタルヘルスに関する海外の法律が、いま大きく動いていることをご存知ですか? EUでは「心理社会的リスク指令案」の策定が進み、職場のストレス要因そのものを法的に規制する動きが加速しています。立ち仕事が多い製造業や医療、小売業の現場では、身体的な負担だけでなく精神的なストレスも深刻な課題です。本記事では、職場のメンタルヘルスに関する海外の法律や制度の最新動向を整理し、日本のストレスチェック制度の国際的な位置づけを考察します。
この記事でわかること
- EU-OSHAが掲げる2026-2028年重点キャンペーン「心理社会的リスクとメンタルヘルス」の概要
- EU心理社会的リスク指令案の背景と、職場ストレスへの法的規制の方向性
- ドイツ・フランス・英国・豪州・韓国の職場メンタルヘルス法制度の特徴
- 日本のストレスチェック制度を国際比較した場合の位置づけ
- 心理社会的リスクマネジメントの世界的な潮流と今後の展望
職場メンタルヘルスに関する海外の法律が注目される背景
心理社会的リスクへの関心の高まり
世界保健機関(WHO)と国際労働機関(ILO)は2022年、職場のメンタルヘルスに関する共同ガイドラインを発表し、各国に対して心理社会的リスク(psychosocial risks)への法的対応を強化するよう勧告しました(WHO & ILO, 2022)。心理社会的リスクとは、仕事の量や裁量度、対人関係、ハラスメント、雇用の不安定さなど、労働者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす職場環境要因を指します。
EU-OSHA(欧州労働安全衛生機関)の調査によると、EU域内の労働者の約44%が「パンデミック以降、職場のストレスが増加した」と回答しています(EU-OSHA, 2022)。立ち仕事が中心の製造業や小売業、医療現場では、長時間の立位作業による身体的負担にこうした心理社会的リスクが重なり、労働者の健康被害が複合的に生じていることが報告されています。
EU-OSHAの2026-2028年重点キャンペーン
こうした状況を受け、EU-OSHAは2026年から2028年にかけて「心理社会的リスクとメンタルヘルス(Psychosocial Risks and Mental Health at Work)」を重点キャンペーンテーマに設定しました。EU-OSHAの重点キャンペーンは数年に一度設定される大規模な取り組みで、加盟国の政策や企業の実務に大きな影響を与えます。
このキャンペーンでは、以下のテーマが重点的に取り上げられる予定です。
- 心理社会的リスクの体系的なアセスメント手法の普及
- デジタル化・テレワークがもたらす新たな心理社会的リスクへの対応
- 中小企業向けの実践的なガイドラインの整備
- 好事例の収集と共有を通じた各国の取り組み底上げ
このキャンペーンは、後述するEU心理社会的リスク指令案の議論とも連動しており、欧州全体で職場のメンタルヘルス対策を法制度として整備する流れを強力に後押ししています。
EU心理社会的リスク指令案の動向
指令案の背景と概要
EU域内では、1989年の「職場の安全衛生に関する枠組み指令(89/391/EEC)」が労働安全衛生の基盤となっています。この枠組み指令は雇用者にリスクアセスメントの実施を義務づけていますが、心理社会的リスクに特化した具体的な規定は含まれていませんでした。
欧州議会と欧州委員会は、この法的な空白を埋めるため、心理社会的リスクに特化した独立の指令(Directive on Psychosocial Risks at Work) の策定に向けた議論を進めています。2024年には欧州議会が欧州委員会に対し、心理社会的リスクに関する立法提案を行うよう求める決議を採択しました。
指令案が規制を目指す主な領域
現在議論されている指令案では、以下の領域が規制対象として検討されています。
- 過重な業務負荷・長時間労働の制限: 業務量の適正化と休息確保の義務化
- 仕事の裁量度の確保: 労働者が業務の進め方について一定の自律性を持てるようにすること
- 職場のハラスメント・暴力の防止: いじめ、セクハラ、顧客からの暴力を含む包括的な防止義務
- 雇用の不安定さへの対応: 非正規雇用や短期契約が心理的ストレスにつながる問題への配慮
- 心理社会的リスクアセスメントの義務化: 物理的リスクと同様に、心理社会的要因を体系的に評価する義務
この指令案が採択されれば、EU加盟国は国内法を整備して対応する必要があり、職場のメンタルヘルス対策が「任意の取り組み」から「法的義務」へと大きく転換することになります。
各国の職場メンタルヘルス法制度を比較する
ドイツ:リスクアセスメントに心理社会的要因を含む義務
ドイツでは、2013年の労働安全衛生法(Arbeitsschutzgesetz)改正により、事業者が実施するリスクアセスメントに心理社会的要因を明示的に含める義務が規定されました。これは、物理的な危険因子と同列に精神的ストレス要因を法的に位置づけた画期的な改正です。
具体的には、事業者は以下のような心理社会的要因を評価しなければなりません。
- 業務量と時間的圧力
- 業務の裁量度と意思決定への参加
- 社会的関係(上司・同僚との関係、ハラスメント)
- 作業環境(騒音、照明、温度などが心理面に与える影響)
- 新しい働き方(テレワーク、デジタルツールの使用)
ドイツ連邦労働安全衛生機構(BAuA)のデータによると、法改正後に心理社会的リスクアセスメントを実施する事業場の割合は着実に増加しており、2023年時点で約65%の事業場が何らかの形で実施しています(BAuA, 2023)。ただし、中小企業における実施率は依然として課題が残っており、この点は日本のストレスチェック制度と共通する問題です。
フランス:バーンアウトの職業病認定をめぐる議論
フランスでは、労働法典(Code du travail)において雇用者に労働者の身体的・精神的健康を保護する一般的義務が課されています。加えて、2002年の労働法改正により職場のモラルハラスメント(harcèlement moral)を明確に禁止し、刑事罰の対象としました。
近年注目されているのが、バーンアウト(燃え尽き症候群)を職業病として正式に認定するかどうかをめぐる議論です。フランスでは職業病の認定基準が厳格で、バーンアウトは現在、正式な職業病リストには含まれていません。しかし、個別の事案において労働裁判所がバーンアウトを業務上の疾病と認定するケースが増えており、法制度の整備が求められています。
2023年にはフランス国民議会にバーンアウトを職業病リストに追加する法案が再提出され、議論が継続しています。仮にこれが実現すれば、バーンアウトと診断された労働者は労災保険の給付対象となり、雇用者には予防措置の強化が求められることになります。
英国:HSEのマネジメント・スタンダーズ
英国では、HSE(Health and Safety Executive:安全衛生庁) が2004年に策定したマネジメント・スタンダーズ(Management Standards for Work-Related Stress) が、職場のストレス対策の中心的なフレームワークとなっています。
マネジメント・スタンダーズは、以下の6つの領域でストレス要因を評価・管理することを推奨しています。
- 要求(Demands): 業務量、業務パターン、作業環境
- 裁量(Control): 業務の進め方に対する労働者の自律性
- 支援(Support): 組織・上司・同僚からの支援体制
- 関係(Relationships): 職場の対人関係、ハラスメント防止
- 役割(Role): 職務上の役割の明確さ
- 変化(Change): 組織変更の管理とコミュニケーション
英国の特徴は、このフレームワークが法的拘束力を持つ規制ではなく、ガイドラインである点です。ただし、1974年の労働安全衛生法(Health and Safety at Work etc. Act 1974)に基づき、雇用者には「合理的に実行可能な範囲で」労働者の健康と安全を確保する義務があり、HSEはストレスによる健康被害が生じた場合に執行措置(enforcement action)を取る権限を有しています。実際に、ストレス対策を怠った事業者に対する改善通知の発行事例も報告されています。
豪州:心理社会的ハザードの規制強化
オーストラリアでは、2022年から2023年にかけて各州が相次いで心理社会的ハザード(psychosocial hazards)に関する規制を強化しました。連邦レベルでは、Safe Work Australiaが2022年に「心理社会的ハザードに関するモデル行動規範(Model Code of Practice: Managing Psychosocial Hazards at Work)」を公表し、各州はこれに基づく法規制を整備しています。
特に注目されるのが、2023年4月に施行された連邦労働安全衛生規則の改正です。この改正により、心理社会的リスクの管理が物理的リスクと同等の法的義務として明確に規定されました。事業者は心理社会的ハザードを特定・評価し、合理的に実行可能な範囲でリスクを排除または最小化しなければなりません。
豪州の制度は、ドイツと同様にリスクアセスメントの一環として心理社会的要因を組み込むアプローチですが、より具体的で強制力のある規制として整備されている点が特徴的です。
韓国:感情労働者保護法
韓国では、2018年に産業安全保健法の改正により、いわゆる「感情労働者保護」に関する規定が施行されました(第41条)。感情労働(emotional labor)とは、顧客対応において自身の感情を抑制し、組織が求める感情表現を行うことが求められる労働を指します。
この法改正により、事業者には以下の義務が課されています。
- 顧客の暴言・暴力から労働者を保護する措置の実施
- 感情労働による健康障害の予防措置
- 被害を受けた労働者への休息付与・配置転換などの対応
- 苦情処理制度の整備
韓国の特徴は、「感情労働」という概念を法律に明記した点にあります。コールセンター、小売業、飲食業、医療機関の受付など、立ち仕事でありながら顧客対応を伴う職種にとって特に関連性の高い法制度です。韓国雇用労働部の報告(2024)によると、法施行後に感情労働者を対象とした保護プログラムを導入する企業は増加傾向にあり、特にサービス業での導入率が顕著に上昇しています。
| 国・地域 | 主な法制度・フレームワーク | 特徴 | 法的拘束力 |
|---|---|---|---|
| EU(指令案) | 心理社会的リスク指令案(策定中) | 心理社会的リスクに特化した独立指令 | 採択後、加盟国に法整備義務 |
| ドイツ | 労働安全衛生法(2013年改正) | リスクアセスメントに心理社会的要因を明示的に含む | 法的義務 |
| フランス | 労働法典・モラルハラスメント禁止規定 | ハラスメント刑事罰化、バーンアウト職業病認定議論中 | 法的義務(ハラスメント)/ 議論中(バーンアウト) |
| 英国 | HSEマネジメント・スタンダーズ | 6領域のストレス管理フレームワーク | ガイドライン(執行措置の権限あり) |
| 豪州 | 連邦労働安全衛生規則(2023年改正) | 心理社会的ハザードの管理を物理的リスクと同等に義務化 | 法的義務 |
| 韓国 | 産業安全保健法(2018年改正) | 感情労働者保護を法律に明記 | 法的義務 |
| 日本 | ストレスチェック制度(2015年施行) | 50人以上の事業場に年1回のストレスチェック義務 | 法的義務(50人以上)/ 努力義務(50人未満) |
日本のストレスチェック制度の国際的位置づけ
個人スクリーニング型と組織マネジメント型の違い
国際的に見ると、日本のストレスチェック制度には独自の特徴があります。各国の制度を大きく分類すると、個人スクリーニング型と組織マネジメント型の2つのアプローチに分けられます。
- 個人スクリーニング型: 個々の労働者のストレス状態を質問票で評価し、高ストレス者に面接指導を行う → 日本が該当
- 組織マネジメント型: 職場環境そのもののリスク要因を特定・評価し、組織的な改善措置を講じる → EU諸国・豪州が該当
日本のストレスチェック制度は、個人のストレス状態を「気づかせる」ことに重点を置いた制度設計であり、職場環境の改善は集団分析の努力義務にとどまっています。一方、ドイツや豪州の制度は、職場環境そのものを変えることを法的に求めるアプローチです。
海外の動向から見る日本の課題
日本のストレスチェック制度は、2015年の施行当時としては先進的な取り組みでしたが、海外の法制度の進展と比較すると以下の課題が浮かび上がります。
- 適用範囲の限定: 50人未満の事業場は努力義務にとどまっている(2026年の法改正で全事業場への義務化が予定されている)
- 組織的アプローチの弱さ: 個人のスクリーニングが中心で、職場環境改善への法的強制力が弱い
- 心理社会的リスクアセスメントの不在: ドイツや豪州のように、リスクアセスメントの一環として心理社会的要因を体系的に評価する仕組みが整備されていない
- 感情労働への対応: 韓国のような感情労働者保護の明確な法規定がない(2026年のカスタマーハラスメント防止義務化で一部対応予定)
ただし、日本のストレスチェック制度には、年1回の全員実施により高ストレス者を早期に発見できるという利点もあります。海外の制度が組織レベルのリスク管理を重視するのに対し、日本の制度は個人レベルでのセーフティネット機能を持っており、両者は相互補完的な関係にあるといえます。
心理社会的リスクマネジメントの世界的潮流と今後の展望
「身体のリスク」と「心のリスク」の統合管理へ
世界的な潮流として、物理的リスクと心理社会的リスクを分離して管理するのではなく、統合的に管理する方向に進んでいます。ISO 45003(職場における心理社会的リスクマネジメントのガイダンス)が2021年に発行されたことは、この潮流を象徴する出来事です。
立ち仕事の現場では、この統合管理の考え方が特に重要です。長時間の立位作業は腰痛や下肢の疲労といった身体的負担をもたらしますが、それが作業効率の低下やミスへの不安、さらには職場での評価への懸念といった心理社会的ストレスにつながるケースは少なくありません。身体的負担と心理的負担を一体的に評価・対策する視点が、今後ますます求められるでしょう。
日本の制度はどう変わっていくか
日本では、2026年に予定されている労働安全衛生法改正により、ストレスチェックの全事業場への義務化やカスタマーハラスメント防止措置の義務化が進みます。これは、海外の法制度の潮流と方向性を一にするものです。
今後は、海外の制度から学びつつ、以下のような方向への発展が期待されます。
- 個人スクリーニングと組織マネジメントの両立: ストレスチェック制度に加え、職場環境改善を法的に義務づける仕組みの導入
- 心理社会的リスクアセスメントの体系化: リスクアセスメント制度のなかに心理社会的要因を明確に位置づけること
- 業種・職種に応じた対策: 感情労働が多い立ち仕事の職種に対する、よりきめ細かい保護措置の整備
まとめ
職場のメンタルヘルスに関する法制度は、世界的に大きな転換期を迎えています。EU心理社会的リスク指令案は、ストレス要因そのものを法的に規制するという新たなアプローチを示しており、ドイツ、フランス、英国、豪州、韓国もそれぞれ独自の法制度で心理社会的リスクへの対応を進めています。
日本のストレスチェック制度は個人スクリーニング型として一定の役割を果たしていますが、海外の動向を踏まえると、組織的な職場環境改善や心理社会的リスクアセスメントの体系化といった課題が見えてきます。立ち仕事の現場では、身体的負担と精神的負担が複合的に生じやすいからこそ、両者を統合的に管理する国際的な潮流を注視し、自社の対策に活かしていくことが重要です。
参考文献
- WHO & ILO, “WHO/ILO Joint Estimates of the Work-related Burden of Disease and Injury, 2000-2016,” WHO, 2021. https://www.who.int/publications/i/item/9789240034945
- WHO, “WHO Guidelines on Mental Health at Work,” 2022. https://www.who.int/publications/i/item/9789240053052
- EU-OSHA, “OSH Pulse – Occupational Safety and Health in Post-Pandemic Workplaces,” 2022. https://osha.europa.eu/en/publications/osh-pulse-occupational-safety-and-health-post-pandemic-workplaces
- EU-OSHA, “Healthy Workplaces Campaign 2026-2028: Psychosocial Risks and Mental Health at Work.” https://osha.europa.eu/en/healthy-workplaces-campaigns
- European Parliament, “Resolution on a New EU Strategic Framework on Health and Safety at Work,” 2024.
- Bundesanstalt für Arbeitsschutz und Arbeitsmedizin (BAuA), “Psychische Belastung in der Arbeitswelt,” 2023. https://www.baua.de/
- HSE (Health and Safety Executive), “Management Standards for Work-Related Stress.” https://www.hse.gov.uk/stress/standards/
- Safe Work Australia, “Model Code of Practice: Managing Psychosocial Hazards at Work,” 2022. https://www.safeworkaustralia.gov.au/
- 韓国雇用労働部, 「산업안전보건법(産業安全保健法)」第41条(感情労働者の健康保護), 2018年改正施行.
- 厚生労働省, 「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査研究」, 2022年.
- ISO 45003:2021, “Occupational Health and Safety Management — Psychological Health and Safety at Work — Guidelines for Managing Psychosocial Risks,” 2021.
- 厚生労働省, 「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」, 2023年.

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