【2026年4月1日 労働安全衛生法改正】リスクアセスメント対象物質が約2,900種に拡大|主な変更点と取るべき4ステップ

【2026年4月1日 労働安全衛生法改正】リスクアセスメント対象物質が約2,900種に拡大|主な変更点と取るべき4ステップ |立ち仕事のミカタ | アルケリス株式会社

2026年4月から、リスクアセスメントの対象物質が約674種から約2,900種へと大幅に拡大されることをご存知ですか?塗装、洗浄、接着、消毒――化学物質を扱う立ち仕事の現場にとって、この変更は決して他人事ではありません。

これまでリスクアセスメントの義務がなかった物質が新たに対象となるため、多くの事業場で対応の見直しが求められます。厚生労働省のGHS分類の結果に基づくこの拡大は、化学物質による労働災害を未然に防ぐための大きな一歩です。

この記事では、リスクアセスメント対象物質の拡大の背景から、具体的な確認方法、事業者が取るべき対応ステップまでをわかりやすく解説します。

: 本記事は2025年8月時点の情報に基づいています。省令・告示等の詳細は今後変更される可能性があります。

この記事でわかること

  • リスクアセスメント対象物質が約2,900種に拡大される背景と根拠
  • 2026年4月施行のラベル表示・SDS交付・リスクアセスメント義務の変更点
  • 自社で使用する物質が対象かどうかの確認方法(「ケミサポ」の活用)
  • 化学物質管理者の選任義務との関係
  • 事業者が今から取り組むべき4つの対応ステップ

リスクアセスメント対象物質の拡大とは|2026年の変更概要

約674物質から約2,900物質への拡大

2024年4月時点で、労働安全衛生法に基づくリスクアセスメントの実施義務がある物質は約674種類でした。これが2026年4月以降、約2,900種類にまで拡大されます。対象物質が約4.3倍に増えるという、化学物質管理における極めて大きな制度変更です。

拡大の対象となるのは、以下の3つの義務すべてです。

  • ラベル表示の義務(安衛法第57条):容器や包装にGHSラベルを貼付する義務
  • SDS(安全データシート)交付の義務(安衛法第57条の2):化学物質を譲渡・提供する際にSDSを交付する義務
  • リスクアセスメントの実施義務(安衛法第57条の3):対象物質の危険性・有害性を調査し、労働者のばく露を防止する措置を講じる義務

つまり、新たに対象に加わる約2,200種類以上の物質について、これら3つの義務が一斉に適用されることになります。

拡大の根拠:GHS分類とは

対象物質の拡大は、GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:化学品の分類および表示に関する世界調和システム) に基づく分類の結果に根拠を置いています。

GHSとは、化学品の危険有害性を世界共通のルールで分類・表示するための国際的な仕組みです。国連が策定し、日本を含む多くの国で採用されています。厚生労働省は、国内で流通する化学物質についてGHS分類を順次進めてきました。その結果、危険有害性が確認された物質が新たにリスクアセスメントの対象として追加されるのです。

従来の個別規則(有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則など)で規制されていた物質は約120種類にすぎず、職場で使用される数万種類の化学物質のごく一部しかカバーできていませんでした。厚生労働省の分析(2024年)によると、化学物質による労働災害の約8割は、従来の個別規制の対象外の物質が原因でした。この深刻なギャップを埋めるために、GHS分類に基づく網羅的な対象物質の拡大が進められています。

リスクアセスメントの義務内容を確認する

リスクアセスメントの実施義務

労働安全衛生法第57条の3に基づき、対象物質を製造し、または取り扱う事業者にはリスクアセスメントの実施が義務付けられています。「努力義務」ではなく法的義務であり、対象物質を扱うすべての事業場で確実に実施しなければなりません。

リスクアセスメントの実施が必要となるタイミングは、以下のとおりです。

  • 対象物質を新たに採用するとき、または変更するとき
  • 作業方法や作業手順を新たに採用するとき、または変更するとき
  • 上記のほか、化学物質による危険性・有害性等に変化が生じたとき、または生じるおそれがあるとき

リスクアセスメントの手法としては、コントロール・バンディング(簡易的なリスク評価手法)、CREATE-SIMPLE(厚生労働省が開発した数理モデルベースのツール)、作業環境測定、個人ばく露測定など、事業場の規模や取扱い状況に応じた方法を選択できます。

リスクアセスメント結果に基づく措置

リスクアセスメントを実施するだけでは義務を果たしたことになりません。結果に基づいて、労働者のばく露を濃度基準値以下に抑えるための措置を講じる義務があります。

具体的な措置としては、以下が挙げられます。

  • 工学的対策: 局所排気装置の設置、全体換気装置の改善、作業工程の密閉化
  • 管理的対策: 取扱量の削減、作業時間の短縮、作業手順の見直し
  • 個人用保護具の使用: 適切な呼吸用保護具、保護手袋、保護眼鏡の着用
  • 代替物質への切り替え: より危険有害性の低い物質への転換

措置の優先順位としては、工学的対策を最優先とし、それだけでは不十分な場合に管理的対策や保護具の使用を組み合わせることが推奨されています。

化学物質管理者の選任義務との関係

2024年4月から、リスクアセスメント対象物質を製造し、または取り扱うすべての事業場において化学物質管理者の選任が義務化されました。これはリスクアセスメント対象物質の拡大と密接に関連する制度です。

化学物質管理者は、以下の業務を統括管理します。

  • ラベル・SDSの確認と管理
  • リスクアセスメントの実施に関する技術的事項の管理
  • リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択と実行管理
  • 労働者への教育・周知

対象物質が約2,900種に拡大されれば、これまで化学物質管理者の選任が不要だった事業場でも、新たに選任が必要になるケースが出てきます。自社で使用している化学物質が新たに対象に加わるかどうか、早急に確認することが重要です。

化学物質管理者の選任要件や具体的な役割については、「化学物質の自律的管理とは?|2026年安衛法改正で変わる管理の考え方」の記事で詳しく解説しています。

対象物質の確認方法|「ケミサポ」を活用する

労働安全衛生総合研究所「ケミサポ」とは

自社で使用している化学物質が新たにリスクアセスメントの対象になるかどうかを確認するには、独立行政法人 労働安全衛生総合研究所(JNIOSH)が運営する「職場の化学物質管理についての支援ポータルサイト(通称:ケミサポ)」が最も確実な情報源です。

ケミサポでは、以下の情報を確認・入手できます。

  • リスクアセスメント対象物質の一覧(最新の告示に基づく)
  • 対象物質のエクセルデータのダウンロード(CAS番号、物質名、GHS分類区分等を含む)
  • GHS分類結果の詳細
  • リスクアセスメント支援ツール(CREATE-SIMPLEなど)

対象物質の確認手順

対象物質の確認は、以下の手順で進めます。

  1. ケミサポのWebサイトhttps://cheminfo.johas.go.jp/)にアクセスする
  2. 対象物質一覧のページから、最新のエクセルデータをダウンロードする
  3. 自社で使用している化学物質のSDSを手元に用意する
  4. SDSに記載されている成分名やCAS番号を、ダウンロードしたエクセルデータと照合する
  5. 一致する物質があれば、リスクアセスメントの対象であることを確認する

特に注意が必要なのは、混合物の場合です。製品としてのSDS(混合物のSDS)には複数の成分が含まれており、その中に対象物質が一定の裾切値(カットオフ値)以上含まれていれば、リスクアセスメントの対象となります。成分ごとに確認する必要があるため、見落としに注意してください。

事業者が取るべき4つの対応ステップ

2026年4月の施行に向けて、事業者は計画的に準備を進める必要があります。以下の4つのステップに沿って対応を進めましょう。

ステップ1:対象物質の棚卸し

まず、自社で使用しているすべての化学物質を洗い出します。原材料、中間体、洗浄剤、接着剤、塗料、消毒剤など、業務で使用するあらゆる化学製品を対象にリストアップしてください。

棚卸しのポイントは以下のとおりです。

  • 購買部門の発注データを活用する
  • 現場のロッカーや棚に保管されている製品も見落とさない
  • 試薬や少量しか使わない物質も対象に含める
  • 直接作業で使用する物質だけでなく、清掃や設備メンテナンスで使う物質もチェックする

ステップ2:SDSの入手・更新

棚卸しが完了したら、すべての化学製品について最新のSDS(安全データシート)を入手します。SDSが手元にない場合は、供給元(メーカーまたは販売業者)に交付を依頼してください。

2026年4月以降は、対象物質を含む製品のSDSを譲渡・提供する側に交付義務があります。しかし、受け取る側の事業者としても、SDSを積極的に入手し、内容を理解しておくことが不可欠です。

ステップ3:リスクアセスメントの実施

SDSの情報をもとに、対象物質ごとにリスクアセスメントを実施します。事業場の規模や化学物質の取扱い状況に応じて、適切な手法を選びましょう。

  • 小規模事業場や取扱量が少ない場合: コントロール・バンディングやCREATE-SIMPLEなどの簡易ツールが実用的
  • 取扱量が多い、または有害性の高い物質を扱う場合: 作業環境測定や個人ばく露測定による定量的評価が望ましい

化学物質管理者を中心に、衛生管理者や作業主任者と連携して進めることが重要です。外部の専門機関(労働衛生コンサルタント、作業環境測定機関等)に相談することも有効な選択肢です。

ステップ4:措置の実行と記録

リスクアセスメントの結果、リスクが許容できないと判断された場合は、速やかにばく露防止措置を講じます。措置の内容と実施状況は必ず記録し、保存してください。

また、一度実施して終わりではなく、以下のタイミングでリスクアセスメントの見直しが必要です。

  • 作業方法や取扱量を変更したとき
  • 新しい有害性の知見が得られたとき
  • 労働災害や健康障害が発生したとき

労働安全衛生法の改正の全体像については、「【2026年4月施行】労働安全衛生法改正の全体像|5つの柱をわかりやすく解説」の記事もあわせてご確認ください。

対象物質リスト管理のデジタル化が進む

IT化による管理効率の向上

約2,900種もの対象物質を手作業で管理するのは、現実的に大きな負担です。このため、化学物質管理のIT化・デジタル化の動きが加速しています。

具体的には、以下のようなツール・サービスが普及しつつあります。

  • SDSの電子管理システム: SDSをデータベース化し、対象物質の該当・非該当を自動判定するツール
  • リスクアセスメント支援ソフトウェア: CREATE-SIMPLEをベースにした民間サービスや、クラウド型のリスクアセスメントツール
  • 化学物質管理台帳のクラウド化: 棚卸しデータ、SDSデータ、リスクアセスメント結果を一元管理するプラットフォーム

デジタル化のメリット

化学物質管理のデジタル化によって、以下のメリットが期待できます。

  • 対象物質の追加・変更への迅速な対応: 告示の改正で対象物質が追加された場合にも、システム上で自動的に反映される
  • ヒューマンエラーの削減: 手作業による照合ミスや確認漏れを防止できる
  • 監査や行政指導への対応: 記録が整理されているため、スムーズに対応できる
  • 複数事業場の一括管理: 本社が複数の拠点の化学物質管理を一元的に把握できる

特に、立ち仕事の現場では作業者が化学物質の情報を手軽に確認できる環境が重要です。タブレット端末での閲覧に対応したクラウドサービスなど、現場のニーズに合ったツール選定が管理の実効性を高めます。

2026年施行の改正法が求める安全衛生対策のスケジュールについては、「2026年安衛法改正の施行スケジュール|企業が押さえるべき対応時期」の記事で詳しく解説しています。

違反した場合のリスク

リスクアセスメントの対象物質に関する義務に違反した場合、以下のリスクがあります。

  • ラベル表示・SDS交付義務違反: 安衛法第119条に基づき、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金の対象となる可能性があります
  • リスクアセスメント未実施: 行政指導や是正勧告の対象となります。重大な健康被害が発生した場合、安全配慮義務違反として民事損害賠償請求のリスクもあります
  • 労災発生時の不利益: リスクアセスメントを適切に実施していなかった場合、労災認定の調査において事業者の責任がより厳しく問われる可能性があります

法令違反のリスクだけでなく、労働者の健康を守るという本来の目的を見失わず、着実に対応を進めることが大切です。

まとめ

2026年4月からのリスクアセスメント対象物質の拡大は、化学物質管理における大きな転換点です。ここまでのポイントを整理します。

  • 対象物質は約674種から約2,900種に拡大される。ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの義務が一斉に適用される
  • 拡大の根拠は厚生労働省によるGHS分類の結果に基づく。危険有害性が確認された物質が網羅的に追加される
  • 対象物質の確認は「ケミサポ」サイトのエクセルデータを活用し、自社のSDSと照合する
  • 事業者は棚卸し→SDS入手→リスクアセスメント実施→措置の実行の4ステップで計画的に準備を進める
  • 化学物質管理者の選任を確認し、管理体制を整備する
  • 約2,900種の管理にはIT化・デジタル化の活用が効果的

立ち仕事の現場では、塗料、洗浄剤、接着剤、消毒剤など多様な化学物質が日常的に使用されています。対象物質の拡大は「自分の職場は関係ない」と思っている事業場にこそ影響する可能性があります。早めの確認と計画的な対応を進めましょう。

よくある質問

Q: うちの会社は化学物質をほとんど使っていないのですが、対象になりますか?

A: 「ほとんど使っていない」と思っていても、清掃用の洗剤、設備メンテナンスの潤滑油、消毒用アルコールなど、意外と多くの化学製品が業務で使われているケースがあります。まずは職場で使用している製品のSDSを確認し、対象物質が含まれているかを「ケミサポ」のデータと照合してみてください。少量の使用であっても、対象物質に該当すればリスクアセスメントの義務が発生します。

Q: リスクアセスメントは専門知識がないと実施できませんか?

A: 厚生労働省が開発したCREATE-SIMPLEやコントロール・バンディング法など、専門的な測定機器がなくても実施できる簡易的な手法があります。SDSに記載された情報と作業条件を入力することで、リスクレベルを評価できます。ただし、有害性の高い物質や取扱量が多い場合は、専門家(労働衛生コンサルタント等)への相談をお勧めします。

Q: 化学物質管理者は誰を選任すればよいですか?

A: リスクアセスメント対象物質を製造する事業場では、厚生労働大臣が定める化学物質管理に関する講習を修了した者から選任する必要があります。対象物質を製造以外の方法で取り扱う事業場では、資格要件は定められていませんが、化学物質管理について十分な知識と経験を有する者を選任することが推奨されています。

参考文献

  1. 厚生労働省, 「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
  2. 厚生労働省, 「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」, 2024年.
  3. 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所, 「職場の化学物質管理についての支援ポータルサイト(ケミサポ)」, https://cheminfo.johas.go.jp/
  4. 厚生労働省, 「GHS対応 化学品の分類および表示に関する世界調和システム」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121.html
  5. 厚生労働省, 「化学物質管理者の選任について」, 2024年, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
  6. 厚生労働省, 「リスクアセスメント実施支援ツール(CREATE-SIMPLE)」, https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07_3.htm
  7. 国連, “Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals (GHS),” Rev.10, 2023.

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