【HACCPと労働安全衛生法】洗浄剤・殺菌剤のリスクアセスメント対応|食品加工場の化学物質管理

食品加工業の化学物質管理は、2024年4月の労働安全衛生法改正により大きな転換点を迎えています。食品工場では洗浄剤や殺菌剤を毎日使用しますが、「食品衛生のために必要だから」と、作業者への健康リスクが見落とされていませんか? 2026年4月にはリスクアセスメント対象物質が約2,900種に拡大され、食品加工現場で日常的に使われる多くの化学物質が新たに規制の対象となります。
本記事では、食品加工業の現場担当者や安全衛生管理者に向けて、洗浄剤・殺菌剤を中心とした化学物質管理の実務対応を解説します。
この記事でわかること
- 食品加工業で使われる化学物質の種類と健康リスク
- HACCPと労働安全衛生法の「二重管理」の実態と対応のポイント
- 2026年4月のリスクアセスメント対象物質拡大が食品工場に与える影響
- リスクアセスメントの具体的な実施手順(SDS確認→評価→対策)
- 化学物質管理者の選任と保護具の選定・管理方法
食品加工業における化学物質管理の現状と課題
食品加工業は、衛生管理の観点から多種多様な化学物質を日常的に使用する業界です。厚生労働省の労働者死傷病報告によると、食料品製造業における化学物質による健康障害は、製造業全体の中でも無視できない割合を占めています。
食品工場で使用される主な化学物質
食品加工現場で使用される化学物質は、大きく以下のカテゴリに分類されます。
洗浄剤・殺菌剤
- 次亜塩素酸ナトリウム: 食品・器具の殺菌消毒に広く使用。皮膚腐食性があり、塩素ガス発生のリスクがある
- 過酢酸製剤: 食品接触面の殺菌に使用。強い酸化力を持ち、皮膚・眼への刺激性が高い
- アルカリ洗浄剤(水酸化ナトリウム等): CIP(定置洗浄)で使用。高濃度では重篤な化学熱傷を引き起こす
- 界面活性剤: 日常的な洗浄に使用。長期的な皮膚障害(接触性皮膚炎)の原因となる
- 第四級アンモニウム塩: 環境消毒に使用。皮膚感作性のリスクがある
その他の化学物質
- 冷媒(アンモニア等): 冷凍・冷蔵設備に使用。漏洩時の急性中毒リスクが高い
- 食品機械用潤滑剤: 食品グレードであっても皮膚刺激性を持つ製品がある
- 二酸化炭素: MAP包装(ガス置換包装)等に使用。高濃度で酸欠の危険
- 燻蒸剤: 倉庫の害虫駆除に使用。急性毒性が極めて高いものがある
食品衛生管理と労働安全衛生の「二重管理」
食品加工業特有の課題として、HACCPに基づく食品衛生管理と労働安全衛生法に基づく化学物質管理の二重管理があります。
HACCPでは、化学物質を「食品への危害要因(ハザード)」として管理します。つまり、食品の安全性を守る観点からの管理です。一方、労働安全衛生法では、作業者の健康と安全を守る観点から化学物質を管理します。
この二つの管理体制は、管理対象が異なるため、どちらか一方だけでは不十分です。HACCPで「食品安全上問題なし」とされた洗浄剤であっても、作業者が適切な保護具なしに取り扱えば健康障害を引き起こす可能性があります。実際に、食品工場で洗浄作業中に塩素ガスを吸引する事故や、アルカリ洗浄剤による化学熱傷の事例は後を絶ちません。
| 管理体制 | 目的 | 対象 | 根拠法令 |
|---|---|---|---|
| HACCP | 食品の安全性確保 | 食品への危害要因 | 食品衛生法 |
| 労働安全衛生法 | 作業者の安全・健康 | 作業者へのばく露 | 労働安全衛生法 |
2026年4月リスクアセスメント対象物質拡大の影響
改正の概要と食品加工業への影響
2024年4月から段階的に施行されている労働安全衛生法の改正により、化学物質の自律的管理が求められるようになりました。特に食品加工業にとって大きな影響があるのは、2026年4月に予定されているリスクアセスメント対象物質の拡大です。
これまでリスクアセスメントが義務付けられていたのは約700物質でしたが、2026年4月以降は約2,900物質に大幅に拡大されます(厚生労働省, 2024)。食品工場で日常的に使用される次亜塩素酸ナトリウム、過酢酸、水酸化ナトリウムなどの多くが対象に含まれており、これまで「特別な管理は不要」と考えていた現場も対応を迫られることになります。
食品加工業に求められる新たな対応
改正により、食品加工業の事業者には以下の対応が必要となります。
- 化学物質管理者の選任: 事業場ごとにリスクアセスメントの実施を管理する担当者を選任する(2024年4月施行済み)
- リスクアセスメントの実施: 対象物質を使用するすべての作業についてリスクアセスメントを行う
- ばく露濃度の管理: 必要に応じて作業環境中の濃度測定を実施し、ばく露限界値以下に管理する
- 保護具の適切な選定・使用: リスクアセスメントの結果に基づき、作業に適した保護具を選定・使用する
- 記録の保存: リスクアセスメントの結果と対策を記録し、保存する
リスクアセスメントの実施手順
ステップ1: SDSの確認と化学物質の洗い出し
まず、自社で使用しているすべての化学物質を洗い出し、SDS(安全データシート)を入手・確認します。
確認すべきSDSの主な項目
- セクション2(危険有害性の要約): GHS分類と危険有害性情報
- セクション8(ばく露防止及び保護措置): 管理濃度・許容濃度、推奨保護具
- セクション11(有害性情報): 急性毒性、皮膚腐食性、感作性等
食品工場では、洗浄剤メーカーから提供されるSDSを「受け取っただけで保管している」ケースが少なくありません。SDSは読んで理解し、現場に反映させることが重要です。
ステップ2: リスクの見積もり
リスクの見積もりには、厚生労働省が提供する「CREATE-SIMPLE」などのツールを活用できます。化学物質の有害性(GHSの区分)と、ばく露の程度(使用量・換気状況・作業時間等)を組み合わせてリスクレベルを判定します。
食品加工現場でリスクが高くなりやすい作業として、以下が挙げられます。
- CIP洗浄後のタンク開放作業: 高濃度のアルカリ・酸蒸気にばく露するリスク
- 殺菌剤の希釈調製作業: 原液の取り扱いで皮膚・眼への飛散リスク
- 密閉空間での清掃作業: 換気不十分な状況での塩素ガス等の吸入リスク
- 床面への洗浄剤散布: 長靴を通じた長時間の足部への接触
ステップ3: リスク低減措置の検討と実施
リスクアセスメントの結果に基づき、以下の優先順位で対策を実施します。
- 有害性の低い物質への代替: より安全な洗浄剤・殺菌剤への切り替え
- 工学的対策: 局所排気装置の設置、自動希釈装置の導入、密閉化
- 管理的対策: 作業手順の見直し、ばく露時間の短縮、教育訓練の実施
- 保護具の使用: 適切な保護具の選定と着用管理
保護具の選定と使用管理
食品加工現場では、食品衛生上の要件と化学物質からの保護を両立させる保護具の選定が必要です。
化学物質別の推奨保護具
| 化学物質 | 保護手袋 | 保護眼鏡 | 呼吸用保護具 | 保護衣 |
|---|---|---|---|---|
| 次亜塩素酸ナトリウム | ニトリル手袋 | 化学防護ゴーグル | 塩素用防毒マスク(高濃度時) | 耐薬品エプロン |
| 水酸化ナトリウム | 厚手ニトリル手袋 | 化学防護ゴーグル | 必要に応じて防じんマスク | 耐薬品エプロン |
| 過酢酸製剤 | ニトリル手袋 | 化学防護ゴーグル | 有機ガス用防毒マスク | 耐薬品エプロン |
| 界面活性剤 | ニトリル手袋 | 保護メガネ | 通常不要 | 作業着 |
保護具管理のポイント
食品加工現場で特に注意すべき保護具管理のポイントは以下のとおりです。
- 手袋の選定: 食品衛生と化学物質防護を両立できる材質を選ぶ。ラテックスアレルギーのリスクも考慮し、ニトリル製が推奨される
- 交換頻度の管理: 化学物質の透過時間(ブレークスルータイム)に基づき、定期的に交換する。「見た目が綺麗だから」と使い続けるのは危険
- 呼吸用保護具のフィットテスト: 防毒マスクは顔面への密着性が重要。作業者ごとにフィットテストを実施する
- 保護具着脱の手順: 汚染された保護具の不適切な着脱による二次ばく露を防ぐ
化学物質管理者の選任と教育
化学物質管理者の役割
2024年4月から、リスクアセスメント対象物質を取り扱うすべての事業場で化学物質管理者の選任が義務化されました。食品加工業の事業場も例外ではありません。
化学物質管理者の主な職務は以下のとおりです。
- リスクアセスメントの実施と管理
- リスク低減措置の選択と実施の管理
- SDSの入手・管理・情報伝達
- 化学物質に関する教育の計画・実施
- ラベル表示・掲示の管理
現場作業者への教育
食品加工現場では、パートタイム労働者や外国人労働者が多く働いています。化学物質のリスクに関する教育は、すべての作業者に理解できる形で実施することが求められます。
効果的な教育のポイント
- SDSの情報を視覚的にわかりやすくまとめた掲示物を作成する
- GHSのピクトグラム(絵表示)を活用し、言語に依存しない注意喚起を行う
- 実際の作業場面を想定した実技訓練を定期的に実施する
- 緊急時の対応手順(洗眼、シャワー等)を繰り返し訓練する
立ち仕事環境における化学物質ばく露リスク
食品加工業は代表的な立ち仕事の業種です。立ち仕事と化学物質ばく露が重なることで、特有のリスクが生じます。
- 長時間の足部接触: 床面に残留した洗浄剤が長靴を通じて足部に影響を与えることがある。長時間の立ち仕事により足部のトラブルが起きやすい状態では、化学物質による皮膚障害のリスクがさらに高まる可能性がある
- 疲労による注意力低下: 立ち仕事による身体的疲労は、化学物質の取り扱いにおける不安全行動の一因となる。Halmosらの研究(2019)によると、疲労状態では保護具の着用率が低下する傾向が報告されている
- 換気条件と体位: 立位で作業する場合、呼吸域(ブリージングゾーン)が座位とは異なる位置にある。床面に滞留しやすい重い蒸気(塩素ガス等)に対しては立位のほうがばく露リスクが低い場合もあるが、作業台上の薬剤からの蒸気にはより近接する
食品加工現場の立ち仕事における身体的負担の軽減と化学物質管理は、別々の問題ではなく、統合的に取り組むべき課題です。疲労対策(休憩の確保、抗疲労マットの導入、作業姿勢の改善等)は、化学物質による事故や健康障害の予防にも間接的に寄与します。
職場改善チェックリスト
食品加工現場の化学物質管理について、以下のチェックリストで自社の対応状況を確認してみてください。
- [ ] 使用しているすべての化学物質のSDSを入手・保管している
- [ ] 化学物質管理者を選任している
- [ ] リスクアセスメント対象物質を把握している
- [ ] 対象物質についてリスクアセスメントを実施している
- [ ] リスクアセスメントの結果を記録・保存している
- [ ] 作業ごとに適切な保護具を選定し、作業者に支給している
- [ ] 保護具の使用方法と交換時期を作業者に教育している
- [ ] 洗浄剤・殺菌剤の混合による有害ガス発生リスクを評価している
- [ ] 緊急時の対応手順(洗眼器、緊急シャワー等)を整備している
- [ ] 外国人労働者を含むすべての作業者に化学物質教育を実施している
- [ ] HACCPの化学的ハザード管理と安衛法の化学物質管理を統合的に運用している
まとめ
食品加工業における化学物質管理は、食品衛生法(HACCP)と労働安全衛生法の両面から対応が求められる複雑な課題です。特に2026年4月のリスクアセスメント対象物質の拡大は、多くの食品工場にとって新たな対応が必要となる大きな変化です。
対応のポイントは以下の3点に集約されます。
- 現状の把握: 自社で使用する化学物質をすべて洗い出し、SDSを入手・理解する
- リスクアセスメントの実施: CREATE-SIMPLE等のツールを活用し、作業ごとにリスクを評価する
- 対策の実行と教育: 適切な保護具の選定・使用管理と、すべての作業者への教育を徹底する
食品加工業は立ち仕事が基本であり、身体的疲労と化学物質ばく露が重なる特有のリスクがあります。安全衛生対策は、化学物質管理と身体負担の軽減を統合的に進めることで、より効果的なものとなるでしょう。
よくある質問
Q: HACCPの管理をしていれば、安衛法の化学物質管理は不要ですか?
A: いいえ、HACCPと安衛法の化学物質管理は目的が異なるため、両方の対応が必要です。HACCPは食品の安全性確保が目的であり、安衛法は作業者の安全・健康が目的です。同じ化学物質でも、管理の視点と求められる措置が異なります。
Q: 食品添加物として認められている化学物質もリスクアセスメントの対象になりますか?
A: はい、食品添加物であっても、労働安全衛生法のリスクアセスメント対象物質に該当する場合は対応が必要です。たとえば次亜塩素酸ナトリウムは食品の殺菌に使用されますが、取り扱う作業者への健康リスクは別途評価しなければなりません。
Q: 小規模な食品工場でもリスクアセスメントは必要ですか?
A: はい、事業場の規模にかかわらず、リスクアセスメント対象物質を使用する場合は実施が義務付けられています。小規模事業場では、厚生労働省の「CREATE-SIMPLE」などの無料ツールを活用することで、専門家がいなくても基本的なリスクアセスメントを実施できます。
参考文献
- 厚生労働省, 「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」, 2024. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
- 厚生労働省, 「職場のあんぜんサイト リスクアセスメント実施支援システム(CREATE-SIMPLE)」. https://anzeninfo.mhlw.go.jp/ras/user/anzen/kag/ankgc07.htm
- 厚生労働省, 「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の施行について」, 2024.
- 厚生労働省, 「化学物質管理者講習に関する通達」, 2024.
- 厚生労働省, 「GHS対応のモデルラベル・モデルSDS情報」. https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html
- Halmos, E.P. et al., “Fatigue and safety performance in the workplace: A systematic review,” Safety Science, 119, pp.270-287, 2019.
- 食品産業センター, 「食品製造業における労働安全衛生管理の手引き」, 2023.
- 日本食品衛生協会, 「HACCP導入のための手引書」. https://www.n-shokuei.jp/

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