【濃度基準値とは?】化学物質のばく露限界値の理解と管理への活用

「濃度基準値」という言葉を聞いたことはありますか? 2024年以降、化学物質の自律的管理への転換が進むなかで、濃度基準値はリスクアセスメントの判断基準として極めて重要な役割を担うようになりました。塗装、溶接、洗浄、接着、消毒など化学物質を扱う立ち仕事の現場では、この数値を正しく理解し活用することが、労働者の健康を守る第一歩となります。
本記事では、濃度基準値とは何か、従来の管理濃度との違い、そしてリスクアセスメントでの具体的な活用方法までをわかりやすく解説します。
注: 本記事は2025年8月時点の情報に基づいています。濃度基準値は毎年見直し・追加が行われるため、最新の告示を必ず確認してください。
この記事でわかること
- 濃度基準値の定義と基本的な意味
- OEL(職業性ばく露限界値)との関係
- 従来の「管理濃度」との違い
- 8時間TWA(時間加重平均)と短時間ばく露限界値(STEL)の仕組み
- 濃度基準値の設定根拠と見直しプロセス
- リスクアセスメントにおける具体的な活用方法
濃度基準値とは
濃度基準値の定義
濃度基準値とは、労働者が化学物質にばく露される濃度の上限として、厚生労働大臣が告示で定める基準値です。 正式には「化学物質による健康障害を防止するための濃度の基準」(令和5年厚生労働省告示第177号)として公布されています。
この基準値は、労働者が1日8時間、週40時間程度の通常の労働条件下でばく露しても、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響が生じないと考えられる空気中の化学物質濃度を示しています。2024年4月の制度開始時点で約130物質に濃度基準値が設定され、その後も順次追加が進められています。
なぜ濃度基準値が必要なのか
従来の化学物質管理は、特定化学物質障害予防規則(特化則)や有機溶剤中毒予防規則(有機則)といった個別規則が、具体的な管理措置を細かく定めていました。しかし、これらの規則の対象はわずか約120物質に限られ、国内で流通する約7万種類の化学物質の大部分は規制の枠外に置かれていました。
この状況を改善するため、2022年の労働安全衛生法施行令の改正により、事業者自身がリスクアセスメントを実施して適切な措置を講じる「自律的管理」への転換が進められました。濃度基準値はこの自律的管理において、「この濃度以下に管理すべき」という客観的な判断基準として機能します。
OEL(職業性ばく露限界値)との関係
OELとは
OEL(Occupational Exposure Limit:職業性ばく露限界値)とは、労働環境における化学物質のばく露の上限値を示す国際的な総称です。各国・各機関がそれぞれの名称で設定しています。
日本の濃度基準値は、このOELの日本版に相当します。世界各国で以下のような名称が用いられています。
| 国・機関 | 名称 | 略称 |
|---|---|---|
| 日本(厚生労働省) | 濃度基準値 | ― |
| 日本産業衛生学会 | 許容濃度 | OEL-J |
| ACGIH(米国) | TLV(Threshold Limit Value) | TLV |
| EU | OEL(Occupational Exposure Limit) | OEL |
| ドイツ | MAK値(Maximale Arbeitsplatzkonzentration) | MAK |
| 英国 | WEL(Workplace Exposure Limit) | WEL |
日本産業衛生学会の許容濃度との関係
日本産業衛生学会は、学術的な立場から「許容濃度」を長年にわたり提案してきました。許容濃度は法的拘束力のない学術的勧告値ですが、厚生労働省が濃度基準値を設定する際の重要な参考資料となっています。
一方、米国のACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)が公表するTLV(Threshold Limit Value:限界値)も、国際的に広く参照されているばく露限界値です。
厚生労働省の「濃度基準値設定等に関する検討会」では、これら日本産業衛生学会の許容濃度とACGIHのTLVの両方を主要な参照値として検討し、日本の労働環境や産業構造に適合する濃度基準値を設定しています。
濃度基準値と管理濃度の違い
管理濃度とは
管理濃度とは、作業環境測定の結果を評価するために定められた基準値です。作業環境測定基準(昭和51年労働省告示第46号)に基づき、作業場の環境管理状態を「第1管理区分(良好)」「第2管理区分(改善の余地あり)」「第3管理区分(直ちに改善が必要)」の3段階で判定するために使われます。
管理濃度と濃度基準値の主な違い
管理濃度と濃度基準値は、どちらも化学物質の空気中濃度に関する基準ですが、目的・対象・測定方法が根本的に異なります。
| 項目 | 管理濃度 | 濃度基準値 |
|---|---|---|
| 目的 | 作業環境(場)の管理状態を評価 | 労働者個人のばく露を管理 |
| 評価対象 | 作業場全体の空気環境 | 個々の労働者の呼吸域 |
| 測定方法 | 作業環境測定(A測定・B測定) | 個人ばく露測定 |
| 適用される規制 | 特化則・有機則等の個別規則 | 自律的管理(リスクアセスメント) |
| 対象物質数 | 約90物質 | 約130物質(順次拡大中) |
| 法的根拠 | 作業環境評価基準(厚労省告示) | 化学物質の濃度の基準(厚労省告示) |
最も重要な違いは、評価の視点が「場」から「人」に変わったことです。管理濃度は作業場全体の空気中濃度を測定して環境の良し悪しを評価しますが、濃度基準値は個々の労働者が実際にどれだけの化学物質を吸い込んでいるかを評価します。作業場全体の濃度が基準値以下でも、特定の作業者の呼吸域では高濃度になっている場合があるため、個人ばく露測定によるアプローチがより的確に労働者の健康を守ることができます。
なお、特化則・有機則等の対象物質については、管理濃度による作業環境測定は当面継続されます。濃度基準値はこれに加えて、より広い対象物質に適用される新たな枠組みとして位置づけられています。
8時間TWAと短時間ばく露限界値(STEL)
8時間TWA(時間加重平均)
濃度基準値の中心的な指標は、8時間TWA(Time-Weighted Average:時間加重平均値)です。これは、1日の労働時間(8時間)にわたるばく露濃度の平均値として算出されます。
例えば、ある化学物質の濃度基準値(8時間TWA)が50 ppmと設定されている場合、8時間の作業全体を通じた平均ばく露濃度が50 ppm以下であれば基準を満たすことになります。一時的に50 ppmを超える時間帯があっても、8時間の平均として50 ppm以下であれば、8時間TWAの基準はクリアしていると評価されます。
短時間ばく露限界値(STEL)
STEL(Short-Term Exposure Limit:短時間ばく露限界値)は、15分間の時間加重平均値として設定される基準です。短時間でも高濃度のばく露が健康に急性の悪影響をもたらす化学物質について、8時間TWAに加えて設定されます。
STELが設定されている物質については、8時間TWAを満たすだけでは不十分です。どの15分間をとっても、その平均ばく露濃度がSTEL以下である必要があります。
天井値(C: Ceiling)
一部の物質には天井値(Ceiling value)が設定されています。これはいかなる時点でも超えてはならない瞬間最大濃度です。発がん性物質や急性毒性の強い物質など、わずかな高濃度ばく露でも重大な健康影響を生じる可能性のある化学物質に対して設定されます。
濃度基準値の設定根拠と見直しプロセス
設定の根拠
厚生労働省は、「濃度基準値設定等に関する検討会」を設置し、専門家による科学的検討に基づいて濃度基準値を設定しています。検討会では以下の資料を主な根拠としています。
- 日本産業衛生学会の許容濃度提案理由書: 疫学研究や動物実験のデータに基づく詳細な根拠資料
- ACGIHのTLV Documentation: 各物質の毒性データと限界値の設定根拠
- 国際機関の評価文書: WHO(世界保健機関)、IARC(国際がん研究機関)の報告書
- 最新の学術論文: 対象物質の毒性・疫学に関する最新の研究成果
見直しプロセス
濃度基準値は、毎年の検討会で見直し・追加が行われます。具体的には以下のプロセスで進められます。
- 対象物質の選定: リスクアセスメント対象物質のうち、濃度基準値が未設定の物質から優先度を考慮して選定
- 科学的検討: 国内外の許容濃度・TLVやその根拠資料を精査
- 基準値案の作成: 日本の労働環境を考慮した基準値案を策定
- パブリックコメント: 広く意見を募集し、産業界・労働者側の意見を反映
- 告示の公布・施行: 最終的な基準値を厚生労働省告示として公布
2024年4月の初回告示では約130物質に濃度基準値が設定されましたが、厚生労働省は2027年度までに主要なリスクアセスメント対象物質すべてに濃度基準値を設定する方針を示しています。
濃度基準値の確認方法
厚生労働省の告示・通達
濃度基準値は、厚生労働省告示として官報に掲載されます。また、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/)では、物質名やCAS番号で検索して濃度基準値を確認することができます。
GHS対応モデルラベル・モデルSDS
厚生労働省が公開しているモデルSDS(安全データシート)にも、各物質の濃度基準値が記載されています。SDSのセクション8「ばく露防止及び保護措置」に、許容濃度や管理濃度とともに濃度基準値が掲載されるため、取扱い化学物質のSDSを確認することが最も実務的な方法の一つです。
SDS制度の改正については、「SDS(安全データシート)交付義務の拡大|2026年改正の実務対応ガイド」で詳しく解説しています。
化学物質管理に関する相談窓口
中小企業や初めて化学物質管理に取り組む事業場では、厚生労働省の「化学物質管理に関する相談窓口」や労働基準監督署に問い合わせることで、対象物質の濃度基準値や測定方法について助言を受けることができます。
リスクアセスメントにおける濃度基準値の活用
基本的な活用の流れ
化学物質の自律的管理においては、事業者がリスクアセスメントを実施して労働者のばく露が濃度基準値以下となるよう管理することが義務づけられています(労働安全衛生規則第577条の2)。基本的な流れは以下のとおりです。
- 危険有害性の特定: SDSや「職場のあんぜんサイト」でGHS分類と濃度基準値を確認
- ばく露の推定: 個人ばく露測定またはコントロールバンディング等の手法でばく露量を推定
- リスクの判定: 推定ばく露濃度と濃度基準値を比較し、リスクの程度を判定
- 措置の実施: リスクが許容できない場合、工学的対策や管理的対策を講じる
- 記録と見直し: 測定結果や対策内容を記録し、定期的に有効性を確認
化学物質の自律的管理の全体像については、「化学物質の自律的管理とは?|2026年安衛法改正で変わる管理の考え方」をご参照ください。
コントロールバンディングによる簡易評価
個人ばく露測定が難しい場合、コントロールバンディング(有害性の程度とばく露の程度を組み合わせてリスクを評価する簡易手法)を用いることも認められています。厚生労働省の「CREATE-SIMPLE」などの支援ツールを活用すれば、濃度基準値と取扱い条件を入力するだけで、ばく露レベルの推定とリスク評価を行うことができます。
個人ばく露測定による精密評価
より正確なリスク評価を行う場合は、個人ばく露測定を実施します。労働者の呼吸域にサンプラーを装着し、作業時間を通じた実際のばく露濃度を測定する方法です。測定結果を濃度基準値と比較することで、リスクの大きさを定量的に評価できます。
濃度基準値を超えた場合の対応
直ちに講じるべき措置
ばく露濃度が濃度基準値を超えた場合、事業者は速やかにばく露低減措置を講じなければなりません。具体的には以下の優先順位で対策を検討します。
- 発散源対策: 化学物質の使用量削減、代替物質への切り替え、密閉化
- 工学的対策: 局所排気装置の設置・改善、全体換気の強化
- 管理的対策: 作業時間の制限、作業方法の変更、立入禁止区域の設定
- 個人用保護具: 適切な防毒マスク・防じんマスクの使用(最終手段)
厚生労働省のガイドラインでは、保護具の使用のみに頼るのではなく、発散源対策や工学的対策を優先的に検討することが推奨されています。
記録の保存義務
リスクアセスメントの結果と講じた措置については、3年間の記録保存が義務づけられています(一部の物質については30年間)。測定結果、リスク評価の判定、実施した対策の内容などを文書として残す必要があります。
健康診断の実施
濃度基準値を超えるばく露が確認された労働者に対しては、必要に応じて臨時の健康診断を実施することが求められます。また、一定の条件を満たす場合には、労働者の意見を聴いたうえで配置転換や作業内容の変更を検討することも重要です。
関連する用語・概念
- 化学物質の自律的管理: 事業者自らがリスクアセスメントを実施し、ばく露防止措置を選択・実行する管理方式。濃度基準値はその判断基準として中核を担う
- SDS(安全データシート): 化学物質の危険有害性情報を体系的にまとめた文書。濃度基準値はSDSのセクション8に記載される
- GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム): 化学品の危険有害性を国際的に統一された基準で分類・表示する仕組み。濃度基準値の設定にもGHS分類が参照される
- 作業環境測定: 作業場全体の空気中化学物質濃度を測定する従来型の評価手法。管理濃度と組み合わせて使用される
まとめ
濃度基準値は、化学物質の自律的管理時代において労働者の健康を守るための最も基本的な判断基準です。従来の管理濃度が「作業場全体の環境」を評価していたのに対し、濃度基準値は「個々の労働者のばく露」に着目する点で、より直接的に労働者保護につながります。
塗装、溶接、洗浄、接着、消毒など化学物質を扱う立ち仕事の現場では、取扱い物質の濃度基準値を確認し、リスクアセスメントに適切に活用することが不可欠です。濃度基準値は毎年見直し・追加が行われるため、厚生労働省の最新告示やSDSの情報を定期的に確認することを習慣づけましょう。
化学物質管理の大転換期にある今、濃度基準値の理解は現場の安全衛生管理の出発点です。
よくある質問
Q: 濃度基準値と管理濃度はどちらを守ればいいですか?
A: 特化則・有機則の対象物質については、管理濃度に基づく作業環境測定が引き続き義務として残ります。一方、自律的管理の対象となるすべてのリスクアセスメント対象物質については、濃度基準値を基準としたばく露管理が求められます。両方の基準が設定されている物質では、双方を満たす必要があります。
Q: 濃度基準値が設定されていない物質はどう管理すればいいですか?
A: 濃度基準値が未設定の物質については、日本産業衛生学会の許容濃度やACGIHのTLVを参照してリスクアセスメントを行います。これらの値も存在しない場合は、SDSに記載されたGHS分類に基づくコントロールバンディング等の手法で管理します。
Q: 中小企業でも個人ばく露測定は必要ですか?
A: 必ずしも個人ばく露測定が求められるわけではありません。CREATE-SIMPLEなどの簡易リスクアセスメントツールを活用すれば、測定を行わずにリスク評価を実施することも可能です。ただし、リスクが高いと判断される場合や、労働者から申出があった場合は、個人ばく露測定による精密な評価が望ましいとされています。
参考文献
- 厚生労働省, 「化学物質による健康障害を防止するための濃度の基準」(令和5年厚生労働省告示第177号), 2023年. https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省, 「濃度基準値設定等に関する検討会 報告書」, 2023年. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26929.html
- 厚生労働省, 「職場のあんぜんサイト GHS対応モデルラベル・モデルSDS」. https://anzeninfo.mhlw.go.jp/
- 日本産業衛生学会, 「許容濃度等の勧告(2024年度)」, 産業衛生学雑誌, 66巻, 2024年.
- ACGIH, TLVs and BEIs: Threshold Limit Values for Chemical Substances and Physical Agents & Biological Exposure Indices, 2024.
- 厚生労働省, 「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
- 厚生労働省, 「CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)」. https://anzeninfo.mhlw.go.jp/ras/user/anzen/kag/ankgc007.htm

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