【2026年1月1日から大幅強化】がん原性物質の記録保存義務|実務対応ステップを丁寧に解説

がん原性物質の記録保存義務が、2026年1月1日から大幅に強化されることをご存知ですか? がん原性物質を取り扱う事業場では、健康診断結果やばく露状況の記録を30年間保存し、事業廃止時には所轄の労働基準監督署長へ提出する義務が課されます。製造業や化学工業などの現場で立ち仕事に従事しながら化学物質を扱う方々にとって、この改正は労働者の健康を長期的に守るための重要な制度変更です。本記事では、がん原性物質の記録保存義務の全体像と、事業者が準備すべき具体的な対応を詳しく解説します。
この記事でわかること
- がん原性物質とは何か、対象となる化学物質の範囲
- 2026年1月施行のがん原性物質の記録保存義務の具体的な内容
- 保存すべき記録の種類と30年間の長期保存義務の根拠
- 事業廃止・事業譲渡時に求められる届出手続き
- 従来の特別管理物質の記録制度との関係と変更点
がん原性物質の記録保存義務とは? ── 2026年改正の概要
がん原性物質とは
がん原性物質とは、人に対する発がん性が確認された、または強く疑われる化学物質のことです。労働安全衛生法に基づく化学物質管理の枠組みでは、国が行うGHS分類(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:化学品の分類および表示に関する世界調和システム)において、発がん性の区分1A(人に対する発がん性が知られている)または区分1B(人に対しておそらく発がん性がある)に分類された物質が、がん原性物質として指定されています。
厚生労働省は、リスクアセスメント対象物のうち発がん性区分1Aまたは1Bに該当するものを「がん原性物質」としてリスト化し、告示で公表しています。2025年時点で、ベンゼン、ホルムアルデヒド、六価クロム化合物、カドミウム、ニッケル化合物など、数百種類の化学物質がこのリストに含まれています。
改正の背景と目的
従来の労働安全衛生法令では、特定化学物質障害予防規則(特化則)に定める特別管理物質について、作業記録や健康診断結果の30年間保存が義務づけられていました。しかし、特別管理物質に指定されている物質は限定的であり、発がん性が確認されていても特化則の対象外となる化学物質については、長期保存の義務が課されていませんでした。
2021年に取りまとめられた「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」報告書は、個別規制から自律的管理への転換を提言するとともに、発がん性物質については使用状況や健康診断結果の長期保存を確保する必要性を指摘しました。この提言を受け、2026年1月1日施行の改正では、特化則の枠を超えて、がん原性物質全般に対する記録保存義務が新たに設けられることになりました。
対象となる事業者
がん原性物質の記録保存義務が課されるのは、がん原性物質を製造し、または取り扱う業務に労働者を従事させる事業者です。製造業、化学工業、金属加工業、塗装業、印刷業など、幅広い業種が対象となり得ます。事業規模による適用除外はなく、中小企業であっても対象となる化学物質を扱っている限り義務が生じます。
保存すべき記録の種類と保存期間
記録の種類
2026年1月施行の改正により、がん原性物質を取り扱う事業者は、以下の記録を作成し保存する義務を負います。
1. ばく露の状況に関する記録
労働安全衛生規則第577条の2第11項に基づき、以下の事項を記録します。
- 労働者の氏名
- 従事した業務の概要
- がん原性物質にばく露される業務に従事した期間
- がん原性物質により著しく汚染される事態が生じた場合は、その概要と講じた応急措置の概要
2. 健康診断の結果に関する記録
リスクアセスメント対象物健康診断(労働安全衛生規則第577条の2第4項等)を実施した場合、その結果の記録を保存しなければなりません。
3. 作業環境測定・ばく露測定の記録
がん原性物質に係る作業環境測定やばく露測定を実施した場合は、その結果の記録も保存対象となります。
保存期間 ── なぜ30年間なのか
がん原性物質に関する記録の保存期間は30年間です(労働安全衛生規則第577条の2第11項)。一般的な健康診断記録の保存期間が5年間であるのに対し、がん原性物質については極めて長い保存期間が設定されています。
この30年間という期間には、科学的な根拠があります。がんの潜伏期間(ばく露から発症までの期間)は、物質や臓器によって10年から40年以上に及ぶことが知られています。たとえば、アスベスト(石綿)による中皮腫の潜伏期間は平均30~40年、膀胱がんを引き起こすベータナフチルアミンの潜伏期間は15~30年と報告されています(厚生労働省「化学物質による健康障害に関する情報」)。
長期保存が求められる理由は、主に以下の3点です。
- 労災認定の根拠確保: 退職後に発症した場合でも、業務との因果関係を証明するための資料となる
- 疫学調査への活用: 同じ物質にばく露された労働者集団の健康影響を長期的に追跡できる
- 被害者救済の基盤: 労働者やその遺族が補償を受けるために必要な証拠を保全する
IARC(国際がん研究機関)が公表する発がん性評価においても、ばく露から発症までの長い潜伏期間を考慮した疫学研究の重要性が繰り返し指摘されています。
事業廃止・事業譲渡時の届出義務
事業廃止時の対応
2026年1月施行の改正において特に注目すべきは、事業廃止時の記録提出義務です。がん原性物質に関する記録を保存している事業者が事業を廃止する場合、保存期間が満了していない記録を所轄の労働基準監督署長に提出しなければなりません。
従来、特別管理物質については特化則第53条に基づき同様の義務がありましたが、改正後はがん原性物質全般にこの義務が拡大されます。事業が存続しなくなった場合でも、労働者の記録が散逸することを防ぎ、将来の労災認定や健康追跡調査に支障をきたさないようにするための仕組みです。
事業譲渡時の対応
事業を他の事業者に譲渡する場合には、がん原性物質に関する記録も譲受先の事業者に引き継ぐことが必要です。譲受先の事業者は、引き継いだ記録について残りの保存期間を満了するまで保存を継続する義務を負います。
届出の手続き
事業廃止時の届出にあたっては、以下の対応が必要となります。
- 提出先: 事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長
- 提出書類: 保存期間が満了していないばく露記録、健康診断結果等の記録
- 提出時期: 事業廃止に際して、速やかに提出
具体的な届出様式や手続きの詳細については、厚生労働省から施行に向けて通達等で示される見込みです。事業者は最新情報を確認のうえ、対応を準備する必要があります。
従来の特別管理物質との関係
特別管理物質の記録制度
従来の特定化学物質障害予防規則(特化則)では、特別管理物質(がん原性が確認された特定化学物質等)について、以下の記録を30年間保存する義務が定められていました。
- 特別管理物質に係る作業の記録(特化則第38条の4)
- 特殊健康診断の結果(特化則第40条)
- 作業環境測定の記録(特化則第36条の2)
特別管理物質には、ベンジジン、ベータナフチルアミン、ジクロロベンジジン、塩化ビニル、ベンゼンなど、約40物質が指定されています。
改正後の制度との関係
2026年改正により、記録保存義務の対象は特別管理物質を大きく超え、がん原性物質全般(GHS発がん性区分1Aおよび1B)に拡大されます。これにより、特化則の対象外であった発がん性物質についても、30年間の長期保存が求められるようになります。
| 項目 | 従来(特別管理物質) | 2026年改正後(がん原性物質) |
|---|---|---|
| 対象物質数 | 約40物質 | 数百物質(GHS区分1A・1B) |
| 根拠法令 | 特化則第38条の4等 | 安衛則第577条の2第11項 |
| 保存期間 | 30年間 | 30年間 |
| 事業廃止時の届出 | 労基署長へ提出(特化則第53条) | 労基署長へ提出 |
| 対象記録 | 作業記録・健診結果・作業環境測定 | ばく露記録・健診結果・測定記録 |
なお、特化則に基づく従来の義務は引き続き適用されます。特別管理物質を取り扱う事業者は、特化則と安衛則の両方の規定を遵守する必要があります。
事業者に求められる実務対応
ステップ1: 自社で取り扱うがん原性物質の確認
まず、自社の事業場で使用しているすべての化学物質について、がん原性物質に該当するかどうかを確認します。確認の手順は以下のとおりです。
- SDSの確認: 各化学物質のSDS(安全データシート)のセクション11(有害性情報)で発がん性区分を確認する
- 厚労省告示の参照: 厚生労働省が公表しているがん原性物質のリスト(告示)と照合する
- NITE-CHRIP等の活用: NITE(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)の化学物質総合情報提供システムでGHS分類を確認する
ステップ2: 記録管理体制の構築
がん原性物質が特定できたら、記録の作成・保存・管理のための体制を整備します。
- 記録作成ルールの策定: 誰が、いつ、どのような形式で記録を作成するかを明確にする
- 保存方法の決定: 紙媒体、電子データ、またはその併用を選択する
- 担当者の指定: 化学物質管理者を中心とした記録管理の責任体制を構築する
ステップ3: 記録管理のデジタル化を検討する
30年間という長期にわたる記録保存を確実に行うためには、デジタル化・クラウド活用が有効な選択肢です。紙媒体は劣化・紛失・災害による滅失のリスクがあるのに対し、電子データであればバックアップの確保や検索性の向上が期待できます。
厚生労働省は、健康診断結果等の記録について電磁的方法による保存を認めています。クラウドストレージサービスを活用すれば、事業場の物理的な状況に左右されず、長期間にわたる安全な保存が可能です。
ただし、電子保存にあたっては以下の点に留意が必要です。
- セキュリティの確保: 個人の健康情報を含むため、アクセス権限管理と暗号化が不可欠
- 長期利用可能性: 30年間にわたりデータの可読性が維持されるファイル形式の選択
- バックアップ体制: 複数拠点でのデータ保存により滅失リスクを低減
ステップ4: 事業廃止・譲渡を見据えた準備
事業の将来的な廃止や譲渡の可能性を考慮し、記録の引き継ぎ手順をあらかじめ整備しておくことが重要です。
- 記録の所在の一元管理: どの事業場にどの記録があるかを台帳化する
- 労基署への提出手順の確認: 管轄の労働基準監督署の連絡先と届出方法を事前に把握する
- M&A・事業再編時の対応: 事業譲渡契約に記録の引き継ぎ条項を盛り込む
違反した場合のリスク
がん原性物質の記録保存義務に違反した場合、労働安全衛生法に基づく罰則(6か月以下の懲役または50万円以下の罰金)が科される可能性があります。
しかし、罰則以上に重大なリスクは、記録が失われることで労働者の救済が困難になることです。がんの潜伏期間が数十年に及ぶことを考えれば、退職後に発症した元労働者が労災認定を受けるためには、在職時のばく露記録が不可欠です。記録が存在しなければ、業務との因果関係を証明することが極めて困難となり、本来救済されるべき被害者が補償を受けられないという事態を招きかねません。
また、企業としても、記録を適切に保存していなかったことが安全配慮義務違反と評価され、民事上の損害賠償責任を問われるリスクがあります。
よくある質問
Q: がん原性物質のリストはどこで確認できますか?
A: 厚生労働省が告示でがん原性物質のリストを公表しています。また、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」やNITEの化学物質総合情報提供システム(CHRIP)で、各化学物質のGHS分類(発がん性区分)を確認できます。リストは新たな科学的知見に基づいて随時更新されるため、定期的な確認が推奨されます。
Q: すでに特化則で記録を保存している場合、追加の対応は必要ですか?
A: 特化則に基づく特別管理物質の記録保存義務は引き続き適用されます。追加で必要なのは、特化則の対象外であるがGHS発がん性区分1Aまたは1Bに該当する化学物質について、新たに記録の保存を開始することです。自社で扱う化学物質を網羅的に見直し、対象漏れがないか確認してください。
Q: 事業廃止時に記録を提出し忘れた場合はどうなりますか?
A: 法令上の義務違反となり、罰則の対象となる可能性があります。より重要なのは、記録が散逸することで元労働者の労災認定や健康管理に支障が生じることです。事業廃止の手続きにおいて、がん原性物質の記録提出を確実にチェックリストに含めることが重要です。
まとめ
2026年1月1日施行のがん原性物質の記録保存義務の強化は、労働者の長期的な健康を守るための重要な制度改正です。がんの潜伏期間が数十年に及ぶという特性を踏まえ、ばく露記録や健康診断結果を30年間保存し、事業廃止時には労基署長に提出することが義務づけられます。
特に製造業や化学工業など、がん原性物質を扱いながら立ち仕事に従事する現場では、日々の記録の蓄積が将来の労働者保護に直結します。事業者は自社で取り扱うがん原性物質を早急に確認し、記録管理体制の構築とデジタル化を進めることが求められます。
なお、本記事は2025年8月時点の情報に基づいています。最新の改正状況については、厚生労働省の公式サイトをご確認ください。
参考文献
- 厚生労働省, 「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」, 2022年. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
- 厚生労働省, 「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会 報告書」, 2021年. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19948.html
- 厚生労働省, 「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」, 2023年.
- 厚生労働省, 「がん原性物質の一覧(告示)」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
- IARC(国際がん研究機関), “Monographs on the Identification of Carcinogenic Hazards to Humans”. https://monographs.iarc.who.int/
- NITE(独立行政法人 製品評価技術基盤機構), 「GHS分類結果」. https://www.nite.go.jp/chem/ghs/ghs_index.html
- 厚生労働省, 「職場のあんぜんサイト」. https://anzeninfo.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省, 「特定化学物質障害予防規則」(昭和47年労働省令第39号).

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