【製造業就業者の3割が55歳以上】製造業の高齢者労災防止|立ち仕事・重量物取扱いの現場改善事例

製造業の現場で、高齢者の労災防止にどう取り組めばよいか悩んでいませんか? 総務省の労働力調査(2024年)によると、製造業就業者の約3割を55歳以上が占めており、60歳以上の就業者数はこの10年で約1.3倍に増加しています。経験豊富なシニア人材は現場の戦力として欠かせない存在ですが、加齢に伴う身体機能の変化により、転倒や腰痛といった労働災害のリスクが高まることも事実です。
厚生労働省は「エイジフレンドリーガイドライン」(2020年策定)で高齢労働者の安全対策を示し、2026年の法改正では事業者の安全配慮に関する努力義務がさらに強化される見通しです。製造業の高齢者労災防止は、今まさに取り組むべき経営課題といえます。本記事では、立ち仕事や重量物取扱いが多い製造現場に焦点を当て、ハード・ソフト両面からの具体的な改善事例を紹介します。
注: 本記事は2025年9月時点の情報に基づいています。法令・制度の最新情報は厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
この記事でわかること
- 製造業における高齢労働者の就業実態と年齢構成の変化
- 高齢者に多い労災の類型(転倒・はさまれ・腰痛)とその原因
- 立ち仕事が高齢者の身体に与える負担とリスク
- ハード面・ソフト面の具体的な現場改善事例
- エイジフレンドリー補助金の活用方法と2026年法改正への備え
製造業の高齢者労災防止が急務となる背景
就業者の年齢構成の変化
日本の製造業では、少子高齢化と人手不足を背景に、高齢労働者の割合が年々上昇しています。総務省「労働力調査」(2024年)によれば、製造業就業者のうち55歳以上が約30%、65歳以上が約10%を占めています。中小製造業ではこの傾向がさらに顕著で、ベテラン従業員が現場の生産性を支えている実態があります。
厚生労働省の「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」(2020年)でも、高齢労働者の増加を踏まえた職場環境整備の必要性が明確に示されています。
製造業で多い高齢者の労災類型
厚生労働省「労働災害統計」(2023年)によると、60歳以上の製造業従事者に多い労働災害は以下の通りです。
- 転倒: 高齢者の労災で最も多い類型。加齢による平衡感覚・筋力の低下が主因。油汚れ、段差、配線など製造現場特有の危険因子が重なる
- はさまれ・巻き込まれ: プレス機、コンベア、回転機械など。加齢による反応速度の低下、注意力の分散がリスクを高める
- 腰痛(災害性腰痛): 重量物の持ち上げ・運搬時に発生。椎間板や筋力の加齢変化により、若年層と同じ作業でも発症リスクが大きくなる
- 墜落・転落: 脚立や作業台からの転落。バランス能力の低下が直接的な原因となる
特に注目すべきは、60歳以上の労災発生率(千人率)は30代と比較して約2倍に達するという点です(厚生労働省, 2023)。加齢による身体機能の変化を正しく理解し、それに応じた対策を講じることが不可欠です。
立ち仕事が高齢者に与える身体的負担
下肢の疲労と静脈還流の問題
長時間の立位作業は、年齢を問わず下肢に大きな負担をかけます。しかし、高齢者では加齢による静脈弁機能の低下が加わるため、下肢の血液循環が若年者以上に滞りやすくなります。これにより、以下の症状が現れやすくなると報告されています。
- 下肢のむくみ・だるさ: 静脈還流の低下により、足首や脹脛に顕著なむくみが生じる
- 下肢静脈瘤: 立位作業を長年続けた高齢者に発症率が高い。Tuchsenらの研究(2005)では、長時間立位作業と下肢静脈瘤の発症に有意な関連が認められている
- 筋疲労の蓄積: 加齢による筋力低下に加え、抗重力筋(ふくらはぎ、大腿四頭筋)の疲労回復にも時間がかかるようになる
バランス能力の低下と転倒リスク
加齢に伴い、固有感覚(足裏の感覚)、前庭機能(平衡感覚)、視覚情報の統合機能が低下します。Pijnappelsらの研究(2008)によれば、高齢者はつまずきからの姿勢回復反応が遅れるため、若年者なら転倒に至らない程度の外乱でも転倒してしまう可能性があります。
製造現場では床面の油汚れ、金属片、ケーブル配線などの転倒リスク因子が多く存在するため、高齢者のバランス能力低下と環境要因が重なることで、転倒リスクが大幅に高まります。
重量物取扱いと腰痛リスクの増大
加齢に伴う筋力低下と椎間板の退行性変化により、高齢者は同じ重量物を扱っても腰部への負荷が相対的に大きくなります。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」(2013年改訂)では、年齢に応じた重量制限の目安が示されており、満55歳以上の男性では体重のおおむね40%程度が取扱い重量の上限とされています。
しかし、実際の製造現場では年齢に関係なく一律の作業基準が適用されているケースも少なくありません。Jagerらの研究(1991)は、加齢に伴い腰椎圧迫強度が低下することを示しており、年齢を考慮した作業基準の見直しが重要であることを裏付けています。
ハード面の改善事例
製造現場の物理的な環境を改善することで、高齢労働者の労災リスクを大幅に低減できます。以下に、代表的なハード面の改善事例をまとめます。
床面・通路の改善
- 防滑床材への張り替え: 油や水で滑りやすい床面を、高摩擦係数の床材に交換する。JIS A 1454に基づく滑り抵抗値(CSR値)0.4以上が目安
- 段差の解消・スロープ設置: 作業エリア間の段差をなくし、スロープやフラットな通路を整備する
- 視認性の向上: 段差部や通路境界にコントラストの高いラインテープを貼り、注意喚起の表示を追加する
- 疲労軽減マットの導入: 立ち作業ポジションに衝撃吸収性のあるマットを敷設する。Kingらの研究(2014)では、疲労軽減マットの使用により下肢の筋疲労と不快感が有意に軽減されたと報告されている
照明・視環境の改善
加齢に伴い水晶体の透過率が低下するため、60歳の目に届く光量は20歳の約3分の1といわれています(厚生労働省, 2020)。製造現場では以下の対応が有効です。
- 作業面の照度を500ルクス以上に引き上げ(JIS Z 9110「照明基準総則」を参考)
- 局所照明の追加: 検査工程や組立工程に手元灯を設置し、細かい作業の視認性を確保する
- グレア(まぶしさ)対策: LED照明への更新時に拡散カバーを採用し、直接グレアを低減する
重量物取扱いの負担軽減
- 昇降リフト・バランサーの導入: 10kg以上の部品や材料の上げ下ろしを機械化する
- 台車・ローラーコンベアの活用: 水平搬送を人力から台車やコンベアに置き換える
- 作業台の高さ調整: 昇降式作業台を導入し、作業者の身長に合わせた最適な高さで作業できるようにする。中腰姿勢の解消にも効果的
安全装置・補助設備の強化
- 手すり・グラブバーの設置: 階段、作業台の昇降部、通路の勾配部に手すりを追加する
- 安全センサーの高感度化: プレス機やシャーリングマシンの光線式安全装置の感度・配置を見直す
- 警報音の低周波化: 高齢者は高周波帯の聴力が低下するため、警報音の周波数を1,000〜2,000Hz帯に設定する
ソフト面の改善事例
設備投資だけでなく、運用面の工夫も高齢労働者の安全確保には欠かせません。
作業ローテーションと負担分散
同じ姿勢・同じ動作を長時間続けることは、筋骨格系障害(MSDs: Musculoskeletal Disorders)のリスクを高めます。特に高齢者では、2時間以上の連続立位作業や反復作業を避け、1〜2時間ごとに異なる作業に切り替えるローテーション制が推奨されます。
具体的には以下のような運用が効果的です。
- 立ち作業と座り作業を交互に組み合わせる
- 重量物を扱う工程と軽作業の工程を交互に配置する
- 午前・午後で担当工程を入れ替え、特定の筋群への負担集中を防ぐ
体力チェックと適正配置
厚生労働省のエイジフレンドリーガイドラインでは、高齢労働者の体力の状況を客観的に把握し、それに応じた作業内容の調整を行うことが推奨されています。具体的な取り組みとしては以下が挙げられます。
- 転倒リスク評価の実施: 開眼片足立ちテスト(20秒以上保持が目安)やTimed Up & Goテスト(TUG)を定期的に実施する
- 握力・脚筋力の測定: 作業に必要な筋力水準を満たしているかを確認する
- 適正配置への反映: 体力チェックの結果を踏まえ、無理のない工程への配置転換を行う
重要なのは、体力チェックを排除のためではなく、適正な配置と支援のために活用するという姿勢です。結果をもとに、作業環境の改善や補助具の導入を検討することが本来の目的です。
安全教育と危険予知トレーニング(KYT)
高齢者の労災防止には、加齢に伴う身体変化への自覚を促す教育が欠かせません。
- 加齢と安全に関する研修: 反応速度の低下、視力・聴力の変化、バランス能力の変化について正しい知識を共有する
- KYT(危険予知トレーニング)の継続実施: 現場の写真やイラストを使い、「この場面のどこに危険があるか」をチーム単位で話し合う
- ヒヤリハット報告の促進: 特に高齢者のヒヤリハットは転倒・腰痛の予兆として重要。報告しやすい仕組みを整備する
休憩時間と作業ペースの配慮
高齢者は疲労の蓄積が早く、回復にも時間がかかります。法定の休憩時間に加えて、こまめな小休憩(マイクロブレイク)の確保が重要です。
- 1時間に5〜10分程度の小休憩を推奨する
- 休憩場所に椅子を設置し、下肢の血液循環回復を促す
- 暑熱環境では通常以上の水分補給と休憩を確保する(WBGT値に基づく管理)
職場改善チェックリスト
管理者・安全衛生担当者が活用できるチェックリストです。
ハード面
- [ ] 床面の防滑対策は十分か(油・水の除去、防滑床材の使用)
- [ ] 段差の解消またはスロープの設置が完了しているか
- [ ] 作業面の照度は500ルクス以上を確保できているか
- [ ] 手すり・グラブバーが必要箇所に設置されているか
- [ ] 重量物の取扱いに昇降リフトや台車が利用可能か
- [ ] 疲労軽減マットが立ち作業ポジションに敷設されているか
- [ ] 警報音が高齢者にも聞き取りやすい周波数帯に設定されているか
ソフト面
- [ ] 作業ローテーションが導入されているか
- [ ] 定期的な体力チェックを実施しているか
- [ ] 体力チェック結果に基づく適正配置が行われているか
- [ ] 加齢と安全に関する教育・研修を実施しているか
- [ ] KYTやヒヤリハット報告の仕組みが機能しているか
- [ ] こまめな小休憩が確保されているか
- [ ] 高齢者向けの重量物取扱い基準が設定されているか
エイジフレンドリー補助金と2026年法改正への備え
エイジフレンドリー補助金の活用
厚生労働省は、高齢労働者の安全衛生対策に取り組む中小企業を支援する「エイジフレンドリー補助金」を実施しています。補助金の主な概要は以下の通りです。
- 対象: 高年齢労働者(60歳以上)を常時1名以上雇用する中小企業
- 補助率: 対象経費の2分の1
- 上限額: 100万円(コースにより異なる)
- 対象経費の例: 防滑床材への改修、手すりの設置、昇降式作業台の導入、体力チェック機器の購入、安全教育の実施費用 など
補助金を活用すれば、前述のハード面・ソフト面の改善を費用負担を半分に抑えて実施できます。申請の詳細は厚生労働省の公式サイトまたは最寄りの産業保健総合支援センターに確認してください。
2026年法改正に向けた準備
2026年に予定されている労働安全衛生法関連の改正では、高齢労働者の安全確保に関する事業者の努力義務がさらに強化される見通しです。具体的には、以下の対応が求められると考えられています。
- 年齢を考慮したリスクアセスメントの実施: 作業者の年齢層を考慮したリスク評価を行うこと
- 身体機能に応じた作業内容の調整: 体力測定の結果を踏まえた作業配置の見直し
- 安全衛生教育の充実: 高齢労働者本人および管理監督者向けの教育プログラムの整備
法改正の施行前に対策を進めておくことで、スムーズな対応が可能になります。今から段階的に取り組みを始めることが重要です。
まとめ
製造業における高齢者の労災防止は、就業者の高齢化が進む中で避けて通れない課題です。加齢に伴う身体機能の変化(バランス能力の低下、筋力の減少、視力・聴力の変化)を正しく理解し、ハード面(床面改善・照明強化・昇降リフト導入・疲労軽減マット等)とソフト面(作業ローテーション・体力チェック・安全教育等)の両面から対策を講じることが重要です。
高齢者が安全に、そして長く活躍できる職場づくりは、人手不足が深刻化する製造業にとって、労災防止にとどまらない経営上のメリットをもたらします。エイジフレンドリー補助金などの支援制度も活用しながら、2026年の法改正を見据えた段階的な取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
よくある質問
Q: 高齢者が製造現場で特に気をつけるべき作業は何ですか?
A: 長時間の連続立位作業、10kg以上の重量物の持ち上げ・運搬、高所(脚立・作業台上)での作業、回転機械の近くでの作業には特に注意が必要です。加齢によるバランス能力・筋力・反応速度の低下が、これらの作業のリスクを高めます。作業ローテーションや補助機器の活用で負担を軽減することが推奨されます。
Q: エイジフレンドリー補助金はどのような企業が申請できますか?
A: 60歳以上の高年齢労働者を常時1名以上雇用している中小企業事業者が対象です。対象経費の2分の1(上限100万円)が補助されます。防滑床材への改修、手すりの設置、昇降リフトの導入、体力チェック機器の購入など幅広い経費が対象となります。詳細は厚生労働省の公式サイトをご確認ください。
Q: 製造現場で高齢者の転倒を防ぐために、最初に取り組むべきことは何ですか?
A: まずは現場の5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底が最も効果的です。床面の油汚れや水濡れの除去、通路上の障害物の排除、ケーブル配線の整理など、費用をかけずにすぐ実施できる対策から始めましょう。その上で、防滑床材への張り替えや照明の増強など、段階的にハード面の対策を進めることが推奨されます。
参考文献
- 総務省, 「労働力調査(詳細集計)」, 2024年. https://www.stat.go.jp/data/roudou/
- 厚生労働省, 「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」, 2020年. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_agefriendly.html
- 厚生労働省, 「労働災害統計(死傷災害)」, 2023年. https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/
- 厚生労働省, 「職場における腰痛予防対策指針」, 2013年改訂. https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034et4.html
- Tuchsen, F., et al., “Standing at work and varicose veins,” Scandinavian Journal of Work, Environment & Health, 31(5), 373-378, 2005. DOI: 10.5271/sjweh.918
- Pijnappels, M., et al., “Tripping without falling; lower limb strength, a limitation for balance recovery and a target for training in the elderly,” Journal of Electromyography and Kinesiology, 18(2), 188-196, 2008. DOI: 10.1016/j.jelekin.2007.06.004
- King, P.M., “A comparison of the effects of floor mats and shoe in-soles on standing fatigue,” Applied Ergonomics, 33(5), 477-484, 2002. DOI: 10.1016/S0003-6870(02)00027-3
- Jager, M., et al., “Biomechanical analysis of workplace risk factors for low back pain related to disc compression forces on the lumbar spine,” Proceedings of the Human Factors Society Annual Meeting, 35(10), 769-773, 1991.
- 厚生労働省, 「エイジフレンドリー補助金」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_agefriendly_subsidy.html

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