【高年齢労働者の熱中症対策ガイド】具体的な熱中症予防対策とチェックリストを解説

【高年齢労働者の熱中症対策ガイド】具体的な熱中症予防対策とチェックリストを解説 | 立ち仕事のミカタ | アルケリス株式会社

高齢者の熱中症による労災が年々深刻化していることをご存知ですか?厚生労働省の統計によると、熱中症による労災の死亡者のうち約半数を50歳以上の労働者が占めており、高年齢労働者の暑熱対策は職場の安全管理において最優先課題の一つとなっています。特に製造業や建設業、物流業といった暑熱環境下で立ち仕事に従事する高年齢労働者にとって、熱中症は命に関わるリスクです。

本記事では、高齢者が熱中症になりやすい生理学的な理由から、WBGT(暑さ指数)を活用した具体的な予防対策、そして2026年のエイジフレンドリーガイドライン改正を踏まえた職場の安全管理体制まで、実務に直結する情報を網羅的に解説します。

この記事でわかること

  • 高年齢労働者が熱中症リスクの高い生理学的理由
  • 熱中症による労災の年齢別データと業種別の傾向
  • WBGT(暑さ指数)の高齢者向け補正と活用方法
  • 製造業・建設業・物流業等における具体的な暑熱対策
  • 立ち仕事と熱中症リスクの関連性
  • 2026年エイジフレンドリーガイドライン改正への対応

高齢者が熱中症労災のリスクが高い理由

高年齢労働者が熱中症にかかりやすい背景には、加齢に伴う生理機能の変化が深く関係しています。ここでは主要な3つの要因を解説します。

体温調節機能の低下

人間の身体は暑い環境に置かれると、皮膚の血管を拡張させて体表面から熱を放散し、発汗による気化熱で体温を下げる仕組みを備えています。しかし、加齢とともにこの体温調節反応の開始が遅れ、反応の強度も低下することが明らかになっています(小川・田中, 2014)。

具体的には、60歳以上の労働者では暑さに対する皮膚血流量の増加反応が若年者と比べて約30〜40%低下すると報告されています。これにより、身体に熱がこもりやすくなり、深部体温が危険なレベルまで上昇するリスクが高まります。

発汗機能の低下

発汗は体温を下げるための最も重要な仕組みですが、加齢に伴い汗腺の機能が低下し、発汗量が減少することが知られています。特に体幹部の汗腺機能の低下が顕著であり、高齢者は若年者と同じ暑熱環境にいても、十分な発汗が得られないことがあります。

日本生気象学会の報告(2022)によると、65歳以上の労働者の最大発汗量は若年者の約60〜70%程度にとどまるとされており、この差が暑熱環境下での体温上昇リスクに直結しています。

口渇感の鈍化と水分摂取量の減少

「喉が渇いた」と感じる感覚(口渇感)は、加齢とともに鈍化することが複数の研究で確認されています(Kenney & Chiu, 2001)。つまり、高年齢労働者は身体が脱水状態にあっても「喉が渇いていない」と感じてしまうことがあるのです。

この口渇感の鈍化は、自発的な水分摂取量の減少につながり、結果として脱水が進行しやすくなります。脱水は血液の粘稠度を高め、心臓への負担を増大させるとともに、発汗機能をさらに低下させるという悪循環を引き起こします。

熱中症による労災の年齢別データ

厚生労働省の「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によると、熱中症による労災の発生状況には明確な年齢による偏りが見られます。

死亡災害における高齢者の割合

厚生労働省の集計(2024)によると、2019年から2023年の5年間における熱中症による職場での死亡者のうち、50歳以上が約60%60歳以上が約35%を占めています。労働者全体に占める60歳以上の割合が約18%であることを考えると、高年齢労働者の死亡リスクが著しく高いことがわかります。

業種別の発生傾向

熱中症による労災が多い業種は、建設業製造業で全体の約半数を占めます。次いで運送業(物流業)警備業農業が続きます。これらの業種に共通するのは、屋外または空調が不十分な環境での立ち仕事や身体作業を伴う点です。

特に注目すべきは、建設業における高齢者の死亡率の高さです。建設業では60歳以上の作業者が熱中症で死亡するケースが他の年齢層と比較して突出しており、高齢化が進むこの業界において暑熱対策は極めて重要な課題となっています。

業種熱中症労災の構成比(概算)主な作業環境
建設業約25〜30%屋外作業、直射日光、重装備
製造業約15〜20%工場内高温環境、炉・機械近傍
運送業約10〜15%車内高温、荷役作業
警備業約5〜8%屋外長時間立位、制服着用
農業約5〜8%屋外作業、高湿度環境

WBGTと高齢者への配慮

WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature: 湿球黒球温度)は、暑熱環境のリスクを総合的に評価するための指標であり、熱中症予防の基準として国際的に広く用いられています。気温だけでなく、湿度や輻射熱(日射など)を考慮した指標であるため、職場の暑熱リスクをより正確に把握できます。

WBGT基準値と高齢者の補正

日本産業衛生学会やISO 7243に基づくWBGT基準値は、健常な成人を対象として設定されています。しかし、高年齢労働者は前述のとおり体温調節機能が低下しているため、一般の基準値よりも低い水準で熱中症を発症するリスクがあります。

厚生労働省の「STOP! 熱中症 クールワークキャンペーン」でも、高齢者についてはWBGT基準値を概ね2℃程度低く設定して管理することが推奨されています。例えば、中程度の身体作業(代謝率レベルII)の場合、通常のWBGT基準値が28℃であれば、高年齢労働者には26℃を目安とすべきということになります。

測定と活用のポイント

WBGT値を高年齢労働者の安全管理に活用するためのポイントは以下のとおりです。

  • 作業場所ごとの測定: WBGT計を用いて、実際に作業する場所・高さで測定する。工場内でも場所により温度環境は大きく異なる
  • 時間帯による変動の把握: 日中の最も暑い時間帯(13〜15時)だけでなく、午前中の急激な温度上昇にも注意する
  • 個人差を考慮した閾値設定: 年齢、持病(高血圧、糖尿病等)、服薬状況、前日の睡眠・飲酒状況なども考慮して、個別に対応する
  • リアルタイム管理: IoTセンサーやウェアラブルデバイスを活用し、環境データと生体データを組み合わせた管理を導入する事業所も増えている

立ち仕事と熱中症リスクの関連

立ち仕事の現場では、暑熱環境との複合的なリスクに注意が必要です。長時間の立位姿勢は、熱中症リスクをさらに高める要因を含んでいます。

血液循環への影響

長時間立ち続けると、重力の影響で血液が下肢に滞留(静脈うっ滞)しやすくなります。これにより、心臓に戻る血液量(静脈還流量)が減少し、全身への血液循環が低下します。暑熱環境下では体表面への血流を増やして放熱する必要がありますが、下肢への血液滞留により、その機能が十分に果たせなくなるおそれがあります。

特に高年齢労働者では、下肢の筋ポンプ機能(ふくらはぎの筋収縮による静脈血の押し上げ)が低下しているため、この影響がより顕著に現れます。

失神リスクの増大

暑熱環境での立位作業は熱失神(heat syncope)のリスクを高めます。熱失神は、暑さによる皮膚血管の拡張と立位による下肢への血液貯留が重なり、脳への血流が一時的に不足することで起こる意識消失です。これは若年者でも起こりますが、高年齢労働者では起立性低血圧(立ちくらみ)が起きやすいこともあり、より注意が必要です。

製造ラインでの立位作業中、建設現場での足場作業中などに熱失神が起これば、転倒や墜落による二次災害につながる可能性があり、極めて危険です。

具体的な熱中症予防対策

高年齢労働者の熱中症を予防するために、事業者と労働者の双方が取り組むべき具体的な対策を解説します。

水分・塩分補給の管理

高齢者は口渇感が鈍化しているため、「喉が渇く前に飲む」ことをルール化することが重要です。

  • 時間を決めた定期的な水分補給: 20〜30分おきにコップ1杯(150〜200mL)程度の水分を摂取する
  • 塩分の同時補給: 水分だけでなく、経口補水液やスポーツドリンク、塩飴等で電解質も補給する
  • 飲水量の見える化: 個人用の水筒に目盛りを付ける、1日の目標飲水量を設定するなどの工夫をする
  • 管理者による声かけ: 特に高年齢労働者には、管理者やリーダーが意識的に水分補給を促す声かけを行う

休憩の確保と暑熱順化

暑熱順化(じゅんか) とは、暑い環境に身体を徐々に慣らすことで、発汗機能や循環機能を改善させるプロセスです。通常、暑熱順化には7〜14日程度かかるとされていますが、高年齢労働者ではこの期間がさらに長くなる可能性があります(Pandolf, 1997)。

  • 作業開始後の段階的な負荷増加: 夏季の初期や長期休暇明けは、作業量を通常の50〜70%程度から開始し、1〜2週間かけて徐々に通常レベルに引き上げる
  • 計画的な休憩: WBGT値に応じて、作業時間と休憩時間の比率を調整する。高年齢労働者は一般の基準より休憩を多めにとる
  • 涼しい休憩場所の確保: 冷房の効いた休憩室またはスポットクーラーを設置した日陰の休憩スペースを確保する

空調服・冷却用具の活用

近年急速に普及している空調服(ファン付き作業服)は、汗の蒸発を促進することで体温上昇を抑制する効果があり、暑熱環境下の立ち仕事に有効なツールです。

  • 空調服: 小型ファンで服内に外気を取り込み、汗の気化を促進する。高齢者は発汗量が少ないため、単独では効果が限定的な場合もある点に留意する
  • 冷却ベスト: 保冷剤や蓄冷剤を内蔵したベストで、体幹部を直接冷やす。空調服と併用すると効果的
  • ネッククーラー: 頸動脈周辺を冷却することで、脳への血液温度を下げる効果が期待できる
  • 遮熱ヘルメット: 建設業等では、遮熱塗装や通気孔付きのヘルメットで頭部の温度上昇を抑える

健康管理と日常的なモニタリング

高年齢労働者の熱中症予防には、作業中の対策だけでなく、日常的な健康管理が欠かせません。

  • 作業前の健康チェック: 朝礼時に体調確認を行い、前日の睡眠時間、飲酒の有無、朝食の摂取状況等を確認する
  • 持病の把握と配慮: 高血圧、糖尿病、心疾患などの基礎疾患がある労働者は、熱中症リスクが特に高い。主治医との連携による就業上の配慮事項を確認する
  • 服薬の確認: 利尿剤、降圧剤、抗コリン薬などの一部の薬剤は発汗抑制や脱水を促進する可能性がある。産業医と主治医が連携して対応する
  • ウェアラブルデバイスの活用: 心拍数や深部体温を継続的にモニタリングできるウェアラブルデバイスの導入も進んでいる

職場の暑熱対策チェックリスト

管理者・安全衛生担当者が活用できるチェックリストを以下にまとめます。高年齢労働者がいる職場では、すべての項目を確認してください。

【環境管理】

  • [ ] WBGT計を設置し、作業場所ごとに定期的に測定している
  • [ ] 高年齢労働者にはWBGT基準値を2℃程度低く設定して管理している
  • [ ] 冷房の効いた休憩場所を確保している
  • [ ] 日除けや遮熱シートを設置している(屋外作業の場合)

【作業管理】

  • [ ] WBGT値に応じた作業時間・休憩時間のルールを定めている
  • [ ] 夏季初期や休暇明けに暑熱順化期間(1〜2週間)を設けている
  • [ ] 高年齢労働者の作業時間帯を調整している(暑い時間帯を避ける)
  • [ ] 単独作業を避け、相互に体調を確認できる体制にしている

【水分・塩分補給】

  • [ ] 作業場所の近くに飲料水や経口補水液を常備している
  • [ ] 20〜30分おきの水分補給をルール化している
  • [ ] 管理者が高年齢労働者に水分補給を促す声かけを行っている

【健康管理】

  • [ ] 作業前に健康状態のチェックを実施している
  • [ ] 基礎疾患や服薬状況を把握し、個別に配慮している
  • [ ] 異変時の緊急連絡先と応急処置手順を掲示している

【装備・用具】

  • [ ] 空調服やクールベストなどの冷却用具を支給・貸与している
  • [ ] 通気性の良い作業服の着用を推奨している

2026年エイジフレンドリーガイドライン改正と暑熱対策

2026年4月に施行される改正安全衛生規則では、エイジフレンドリーガイドラインが努力義務化される予定です。この改正により、高年齢労働者の安全と健康確保に向けた取組みが、これまで以上に強く事業者に求められることになります。

改正のポイントと暑熱対策への影響

改正では、事業者に対して高年齢労働者の身体機能の低下を踏まえた安全衛生対策を講じることが努力義務として明記されます。暑熱対策に関しても、以下のような対応が求められると考えられます。

  • 年齢に応じた暑熱リスクアセスメント: 高年齢労働者の体温調節機能の低下を踏まえたリスク評価を実施する
  • 個人の健康状態に基づく就業上の配慮: 一律の基準ではなく、個人の身体機能や持病に応じた暑熱対策を講じる
  • 設備投資や作業環境改善: WBGT測定器の導入、空調設備の整備、冷却用具の支給などの具体的な設備投資を行う

エイジフレンドリー補助金(上限100万円、補助率1/2)の活用も有効です。空調設備の設置、熱中症対策備品の購入なども補助対象となる場合があり、事業者はこうした支援制度を積極的に活用することが推奨されます。

まとめ

高年齢労働者の熱中症対策は、「個人の注意」だけでは不十分です。体温調節機能・発汗機能・口渇感の低下という生理学的な変化を正しく理解し、組織的かつ科学的なアプローチで対策を講じることが不可欠です。

特に立ち仕事の現場では、暑熱環境と長時間立位の複合リスクに注意が必要であり、WBGT基準値の補正、計画的な休憩と暑熱順化、冷却用具の活用、そして日常的な健康モニタリングを組み合わせた総合的な対策が求められます。

2026年のエイジフレンドリーガイドラインの努力義務化を見据え、今のうちから職場の暑熱対策を見直し、高年齢労働者が安全に働き続けられる環境を整備していきましょう。

よくある質問

Q: 高齢者は何歳から熱中症リスクが高まるのですか?

A: 明確な年齢の境界線はありませんが、一般的に50歳頃から体温調節機能の低下が始まり、60歳以上で顕著になるとされています。ただし、個人差が大きいため、年齢だけでなく日頃の体力や基礎疾患の有無、暑さへの慣れなどを総合的に考慮することが重要です。労災統計では50歳以上の死亡率が特に高いことが示されています。

Q: WBGT値が基準値を超えた場合、作業を中止すべきですか?

A: WBGT基準値を超えた場合は、作業の中止または大幅な作業時間短縮が推奨されます。ただし、直ちに全面中止とするかは、作業の種類(代謝率レベル)、冷却措置の有無、個人の健康状態などを総合的に判断します。高年齢労働者については基準値を2℃程度低く設定し、早めの対応を心がけてください。

Q: 空調服は高齢者にも効果がありますか?

A: 空調服は汗の気化を促すことで体温を下げる仕組みのため、発汗がある程度ある方には効果的です。ただし、高齢者は発汗機能が低下しているため、若年者ほどの冷却効果が得られない場合があります。そのため、冷却ベストやネッククーラーとの併用が推奨されます。また、空調服を着用しているからといって、休憩や水分補給の頻度を減らさないことが重要です。

参考文献

  1. 厚生労働省, 「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」, 2024年. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000129018.html
  2. 厚生労働省, 「STOP! 熱中症 クールワークキャンペーン」, 2025年. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116133.html
  3. 厚生労働省, 「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」, 2020年(2026年改正予定). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00007.html
  4. 小川徳雄, 田中正敏, 「高齢者の体温調節機能と暑熱障害」, 日本生気象学会雑誌, 51(3), 97-106, 2014.
  5. Kenney WL, Chiu P, “Influence of age on thirst and fluid intake,” Medicine and Science in Sports and Exercise, 33(9), 1524-1532, 2001. DOI: 10.1097/00005768-200109000-00016
  6. 日本生気象学会, 「日常生活における熱中症予防指針 Ver.4」, 2022年.
  7. Pandolf KB, “Aging and human heat tolerance,” Experimental Aging Research, 23(1), 69-105, 1997.
  8. ISO 7243:2017, “Ergonomics of the thermal environment — Assessment of heat stress using the WBGT (wet bulb globe temperature) index.”
  9. 総務省, 「労働力調査」, 2024年. https://www.stat.go.jp/data/roudou/

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