【食品加工業の労働安全衛生】2026年改正で変わる化学物質管理と高齢者対策

食品加工業の労働安全衛生は、2026年の安衛法改正により大きな転換期を迎えます。低温・高温環境での長時間の立ち仕事、反復作業による筋骨格系の負担、洗浄剤・殺菌剤などの化学物質への日常的なばく露――食品加工の現場には、他の製造業とは異なる複合的なリスクが存在します。こうした課題に対し、「今の対策で法改正に対応できるのか」と不安を感じている安全衛生担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では、食品加工業に特有の安全衛生課題を整理したうえで、2026年改正の影響を化学物質管理・高齢者対策・ストレスチェックの3つの柱から解説し、HACCPとの二重管理をどう実務に落とし込むかの具体策を提示します。
注: 本記事は2025年9月時点の情報に基づいています。法令・制度の最新情報は厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
この記事でわかること
- 食品加工業に特有の労働安全衛生リスク(温度環境・立ち仕事・化学物質・反復作業)
- 2026年安衛法改正が食品加工業に与える3つの影響と対応スケジュール
- HACCPと安衛法の二重管理を効率化する実務ポイント
- 食品加工現場で今日から取り組める具体的な改善策とチェックリスト
食品加工業の労働安全衛生リスクの全体像
食品加工業は、食の安全を守るために厳格な衛生管理が求められる一方で、作業者の安全衛生対策が後回しになりやすい構造的な課題を抱えています。厚生労働省の「労働災害統計」(2024年)によると、食料品製造業の労働災害発生率(千人率)は製造業全体の平均を上回っており、特に転倒、切れ・こすれ、腰痛の発生件数が顕著です。
温度環境による身体負荷
食品加工現場の最大の特徴は、極端な温度環境です。
- 低温環境(0~10℃): 冷蔵・冷凍食品の加工ラインでは、5℃以下の環境で長時間の立ち作業を行うことがあります。低温環境下では末梢血管が収縮し、手指の巧緻性低下や筋肉の柔軟性低下を引き起こします。Sundstrupらの研究(2014)は、寒冷環境での作業が筋骨格系障害(MSDs: Musculoskeletal Disorders)の発症リスクを有意に高めることを報告しています
- 高温環境: 加熱調理・殺菌工程では、周囲温度が40℃を超える場合もあります。厚生労働省の「STOP! 熱中症 クールワークキャンペーン」で示されるWBGT(湿球黒球温度)の管理が必要ですが、食品衛生上の理由から大型送風機の使用が制限されるケースもあり、対策が難しい場合があります
- 温度差の大きい環境間の移動: 冷蔵庫と加熱エリアを頻繁に行き来する作業は、心血管系への負担や筋肉の温度適応不全を招くことが指摘されています
長時間の立ち仕事と反復作業
食品加工業の作業者は、1日8時間以上の立位作業に従事するケースが一般的です。ライン作業では、同じ姿勢を保ちながら上肢の反復動作を続ける必要があり、以下のような健康問題が生じやすいと報告されています。
- 腰痛: 長時間の立位姿勢による腰椎への持続的な荷重。前傾姿勢での選別・検品作業がリスクを高める
- 下肢の疲労・むくみ: 静脈還流の低下による下肢のうっ滞。冷蔵環境では血行不良がさらに悪化する
- 上肢の反復性障害: 包装・盛り付け・切断作業などの反復動作による手根管症候群や腱鞘炎。Huismanらの研究(2004)は、食品加工業従事者における上肢MSDs有病率の高さを指摘している
- 頸肩腕症候群: コンベア上の製品を目視検査する際の固定姿勢が原因となる
化学物質へのばく露
食品加工業では、衛生管理のために洗浄剤・殺菌剤を毎日使用します。次亜塩素酸ナトリウム、過酢酸製剤、アルカリ洗浄剤(水酸化ナトリウム等)などは、食品安全には不可欠ですが、作業者にとっては皮膚障害や呼吸器障害のリスク因子でもあります。「食品衛生のために使うものだから安全」という誤解が根強く、保護具の不使用やSDSの未確認といった問題が散見されます。
2026年安衛法改正が食品加工業に与える3つの影響
2026年に施行される労働安全衛生法の改正は、食品加工業に対して特に大きな影響を及ぼします。ここでは、食品加工の現場に直結する3つの改正ポイントを解説します。
化学物質の自律的管理の本格化
2026年4月には、リスクアセスメント対象物質が約700物質から約2,900物質へ大幅に拡大されます(厚生労働省, 2024)。食品工場で日常的に使用される次亜塩素酸ナトリウム、過酢酸、水酸化ナトリウム、アンモニア(冷媒)などの多くが新たに対象となる見込みです。
食品加工業の事業者に求められる主な対応は以下の通りです。
- 化学物質管理者の選任(2024年4月施行済み): リスクアセスメントを統括する担当者を事業場ごとに置く
- 使用化学物質の洗い出しとSDS確認: 洗浄剤・殺菌剤・冷媒・潤滑剤等を網羅的にリストアップし、SDSを取得する
- リスクアセスメントの実施: 対象物質を使用するすべての作業について、ばく露の程度と健康影響を評価する
- ばく露濃度の管理と保護具の選定: 評価結果に基づき、濃度基準値以下の管理またはリスクに応じた保護具の使用を行う
- 記録の作成・保存: リスクアセスメントの結果と講じた措置を記録し、3年間(一部は30年間)保存する
高齢労働者の安全確保に関する努力義務の強化
食品加工業では、パート・アルバイトの高齢化が顕著に進んでいます。総務省「労働力調査」(2024年)によれば、食料品製造業の就業者のうち60歳以上が約20%を占めています。2026年の改正では、高齢労働者に対する安全配慮の努力義務が強化され、事業者には「エイジフレンドリーガイドライン」に沿った環境整備がより明確に求められます。
食品加工現場で高齢者に特にリスクが高い作業環境は以下の通りです。
- 濡れた床面での転倒: 洗浄工程後の濡れた床は、加齢によるバランス能力低下と重なり転倒リスクが急増する
- 低温環境での作業: 加齢に伴う体温調節機能の低下により、若年者以上に寒冷ストレスの影響を受けやすい
- 反復作業による筋骨格系障害: 加齢による筋力・柔軟性の低下が反復動作の負荷を増大させる
ストレスチェック義務対象の拡大
2026年の改正では、ストレスチェックの実施義務が従業員50人未満の事業場にも拡大される見通しです。食品加工業は中小規模の事業場が多く、厚生労働省の「労働安全衛生調査」(2023年)によれば食料品製造業の事業場の約8割が従業員50人未満とされています。
食品加工業で特にメンタルヘルスリスクが高い要因として、以下が挙げられます。
- 単調な反復作業: 長時間の単調作業はストレス反応を高めることが知られている
- 厳しい衛生管理と時間管理: 消費期限に追われるプレッシャーやHACCP遵守の緊張感
- 温度環境による身体的ストレス: 不快な温度環境が精神的な疲労を増幅させる
HACCPと安衛法の二重管理を効率化する実務ポイント
食品加工業の安全衛生管理を複雑にしているのが、HACCPに基づく食品衛生管理と安衛法に基づく労働安全衛生管理の二重管理です。両者は管理目的が異なりますが、対象となる化学物質や作業手順には重複が多く、実務上の効率化が重要な課題となっています。
二重管理が発生する具体的な場面
| 管理場面 | HACCPの視点(食品安全) | 安衛法の視点(作業者安全) |
|---|---|---|
| 洗浄剤の使用 | 残留物による食品汚染の防止 | 皮膚障害・吸入による健康障害の防止 |
| 殺菌工程 | 微生物の確実な殺滅 | 殺菌剤へのばく露管理・保護具着用 |
| 温度管理 | 食品の温度逸脱による品質劣化防止 | 作業者の寒冷・暑熱ストレス管理 |
| 清掃・衛生管理 | 交差汚染の防止 | 転倒・化学物質接触の防止 |
| 記録管理 | CCP監視記録の保存 | リスクアセスメント・ばく露記録の保存 |
効率化の3つのアプローチ
1. 統合リスクアセスメントの実施
化学物質について、HACCPの危害分析とリスクアセスメントを同じタイミングで実施する方法が有効です。SDSの確認作業を一本化し、食品安全リスクと作業者健康リスクの両方を1枚のシートで評価することで、二度手間を防ぎます。
2. 文書管理の一元化
HACCPの記録と安衛法のリスクアセスメント記録を同一のシステムで管理します。たとえば、洗浄剤の使用記録に、HACCP上の管理ポイント(濃度・温度・接触時間)と安衛法上の管理ポイント(保護具着用・換気状況)を併記する様式にすることで、記録作業を効率化できます。
3. 教育訓練の統合
食品衛生教育と安全衛生教育を別々に実施するのではなく、同一の研修プログラムの中で両方の観点をカバーします。たとえば洗浄作業の教育では、「正しい希釈方法(食品安全)」と「保護具の着用方法(作業者安全)」を同時に指導することで、作業者の理解も深まり、研修時間の効率化にもつながります。
食品加工現場の改善策と職場改善チェックリスト
温度環境への対策
- 作業ローテーションの導入: 低温・高温エリアでの連続作業時間を制限し、異なる温度帯の作業をローテーションする
- 適切な防寒具・クールベストの支給: 低温作業には保温性の高いインナーを、高温作業には冷却機能付きベストを支給する
- 休憩室の温度管理: 温度差による身体負担を緩和するため、中間温度帯(18~22℃)の休憩スペースを確保する
- WBGT測定器の設置と基準値管理: 高温作業エリアにWBGT計を常設し、基準値超過時の作業中断ルールを定める
立ち仕事・反復作業への対策
- 疲労軽減マットの敷設: 長時間立位の作業ポジションに衝撃吸収マットを導入する。Kingらの研究(2014)では、疲労軽減マットにより下肢の筋疲労と不快感が有意に軽減されたと報告されている
- 作業台高さの最適化: 作業者の身長に合わせて作業台の高さを調整し、前傾姿勢を最小限にする。特に高齢者には個別調整が重要
- 座り作業の導入: 選別・検品など座位で実施可能な工程には、ハイチェアやシットスタンドスツールの導入を検討する
- マイクロブレイクの制度化: 60分ごとに5~10分の小休憩を取り入れ、ストレッチの時間を確保する。Taylorの研究(2005)は、定期的な短時間休憩が筋骨格系症状の軽減に効果的であることを示している
- アシストスーツ・立ち仕事支援器具の導入: 長時間の立ち作業を伴う工程では、体重を支え下肢の負担を軽減する立ち仕事支援器具の活用も有効な選択肢となる
化学物質管理の改善
- 保護具の適正な選定と使用徹底: SDSに記載された推奨保護具を作業ごとに配備し、着用を徹底する
- 局所排気装置の設置: 洗浄剤の希釈作業や殺菌剤の使用時に、ガスや蒸気が作業者の呼吸域に滞留しないようにする
- 化学物質管理者を中心とした定期巡回: 保護具の劣化、SDSの更新、ばく露状況の変化を定期的に確認する
職場改善チェックリスト
管理者・安全衛生担当者が使える、食品加工現場向けのチェックリストです。
- [ ] 使用しているすべての化学物質のSDSを最新版で保管しているか
- [ ] 化学物質管理者を選任し、リスクアセスメントの実施体制を構築しているか
- [ ] HACCPの記録と安衛法のリスクアセスメント記録を効率的に管理できているか
- [ ] 低温・高温作業エリアの連続作業時間の上限を設定しているか
- [ ] 高齢労働者に配慮した作業環境の改善(照度・床面・作業台高さ)を行っているか
- [ ] 立ち仕事の作業ポジションに疲労軽減マットを敷設しているか
- [ ] 定期的な休憩の仕組みが制度化されているか
- [ ] ストレスチェックの実施体制を50人未満の事業場でも準備しているか
- [ ] 洗浄・殺菌作業時の保護具が適切に支給・着用されているか
- [ ] 安全衛生教育と食品衛生教育を統合して実施しているか
よくある質問
Q: HACCPの記録と安衛法のリスクアセスメント記録は別々に管理しなければならないのですか?
A: 法令上、別々の様式で管理することは求められていません。一つの記録様式の中に両方の管理項目を盛り込む「統合管理」が認められています。むしろ、同一の化学物質に対して食品安全と作業者安全の両面からリスクを評価・記録する統合アプローチのほうが、管理の抜け漏れ防止と業務効率化の両方に効果的です。
Q: 食品工場で立ち仕事支援器具を使用する場合、衛生管理上の問題はありませんか?
A: 食品接触面に直接触れない工程であれば、衛生管理上の大きな問題は生じません。ただし、HACCP上の異物混入防止の観点から、使用する器具の材質や洗浄のしやすさ、使用エリアの設定について食品安全チームと事前に協議することが重要です。作業者の身体負担軽減と食品安全の両立を図るために、導入前にリスク評価を行うことを推奨します。
Q: 2026年改正への対応はいつから始めるべきですか?
A: 2026年4月の施行に向けた準備は、できるだけ早く着手することが望ましいとされています。特に化学物質のリスクアセスメントは、使用物質の洗い出し、SDSの取得・確認、評価の実施、対策の検討と、段階的な作業が必要です。厚生労働省も「施行前から自主的に取組を進めること」を推奨しています(厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」)。
まとめ
食品加工業の労働安全衛生は、低温・高温環境、長時間の立ち仕事、化学物質へのばく露という複合的なリスクへの対応が求められる分野です。2026年の安衛法改正により、化学物質の自律的管理の本格化、高齢労働者の安全確保の努力義務強化、ストレスチェック対象の拡大が進み、食品加工業の事業者にはこれまで以上に体系的な安全衛生管理が求められます。
特に食品加工業では、HACCPと安衛法の二重管理を効率的に運用することが実務上の重要課題です。統合リスクアセスメントや文書管理の一元化、教育訓練の統合といったアプローチにより、管理負担を軽減しながら食品安全と作業者安全の両立を図ることが可能です。
立ち仕事による身体負担の軽減についても、疲労軽減マットの導入、作業台高さの最適化、マイクロブレイクの制度化、立ち仕事支援器具の活用など、今日から取り組める具体策があります。2026年の改正を「やらなければならない負担」ではなく、「職場環境を根本から見直す好機」と捉え、計画的に準備を進めていきましょう。
参考文献
- 厚生労働省, 「労働災害統計(令和6年)」, 2024. https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/rousai-hassei/
- 厚生労働省, 「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」, 2024. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
- 厚生労働省, 「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」, 2020. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00007.html
- 厚生労働省, 「STOP! 熱中症 クールワークキャンペーン」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116133.html
- 厚生労働省, 「労働安全衛生調査(実態調査)(令和5年)」, 2023. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r05-46-50b.html
- 総務省, 「労働力調査(令和6年)」, 2024. https://www.stat.go.jp/data/roudou/
- Sundstrup, E. et al., “Associations between biopsychosocial factors and chronic upper limb pain among slaughterhouse workers,” Scandinavian Journal of Work, Environment & Health, 40(4), 390-400, 2014. DOI: 10.5271/sjweh.3427
- Huisman, E.R. et al., “Musculoskeletal disorders and complaints in food processing workers,” Occupational Medicine, 54(4), 272-277, 2004.
- King, P.M., “A comparison of the effects of floor mats and shoe in-soles on standing fatigue,” Applied Ergonomics, 45(6), 1693-1700, 2014.
- Taylor, W.C., “Transforming work breaks to promote health,” American Journal of Preventive Medicine, 29(5), 461-465, 2005.

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