【化学物質の自律的管理とは?】2026年安衛法改正で変わる管理の考え方

「化学物質の自律的管理」という言葉を耳にしたことはありますか?2022年から段階的に進められてきた化学物質規制の大転換が、2026年にいよいよ本格始動します。従来の「法令で決められたとおりに管理する」やり方から、事業者自身がリスクを評価し、最適な対策を自ら決める方式への移行――これが「自律的管理」です。
製造業や化学工場だけでなく、塗装・洗浄・接着・消毒など化学物質を扱う立ち仕事の現場すべてに関わるこの変化。対象物質は約674物質から約2,900物質へと大幅に拡大され、多くの事業場で新たな対応が求められます。
この記事では、化学物質の自律的管理とは何か、その背景から具体的な対応策までをわかりやすく解説します。
注: 本記事は2025年7月時点の情報に基づいています。省令・告示等の詳細は今後公布される予定のものを含みます。
この記事でわかること
- 化学物質の自律的管理の定義と基本的な意味
- 従来の「法令遵守型管理」との違い
- 2026年安衛法改正による具体的な変更点と対象物質の拡大
- 化学物質管理者の選任やリスクアセスメントの実施方法
- 事業者が今から取り組むべき準備のポイント
化学物質の自律的管理とは
自律的管理の定義
化学物質の自律的管理とは、事業者自身がリスクアセスメント(危険性・有害性の調査)を実施し、その結果に基づいて適切なばく露防止措置を自ら選択・実行する化学物質管理の方式です。
従来の化学物質管理は、有機溶剤中毒予防規則(有機則)や特定化学物質障害予防規則(特化則)などの個別規則が、対象物質ごとに具体的な措置内容を細かく定めていました。事業者は「規則に書かれたとおりに管理する」ことが求められ、これを法令遵守型管理と呼びます。
一方、自律的管理では、国が定める濃度基準値(ばく露限界値)を超えないよう管理することを目標に、具体的な措置の方法は事業者が自ら判断します。局所排気装置の設置、保護具の選定、作業時間の制限、代替物質への切り替えなど、現場の実情に応じた最適な手段を事業者自身が組み合わせて実施するのです。
なぜ自律的管理への転換が必要なのか
法令遵守型管理から自律的管理への転換には、明確な理由があります。
対象物質のカバー率の問題があります。 日本の職場で使用されている化学物質は数万種類にのぼりますが、有機則や特化則で規制されていた物質は約120種類程度にすぎませんでした。厚生労働省の調査(2024年)によると、化学物質による労働災害の約8割は、これらの個別規制の対象外の物質によって引き起こされています。
国際的な潮流もあります。 欧州連合(EU)のREACH規則やアメリカのOSHA(労働安全衛生庁)の基準では、すでにGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に基づくリスクアセスメント中心の管理体制が主流です。日本も国際的な基準に合わせる必要がありました。
現場の実情への対応も求められていました。 一律の規制では、作業内容や取扱量が異なる現場ごとの実情に合った管理が難しいケースがあります。事業者自身がリスクを評価し対策を講じる仕組みのほうが、より効果的かつ合理的なばく露防止が期待できるのです。
法令遵守型管理と自律的管理の違い
従来の法令遵守型管理と新しい自律的管理は、考え方の根本が異なります。以下の比較表で、両者の違いを整理します。
| 比較項目 | 法令遵守型管理(従来) | 自律的管理(新制度) |
|---|---|---|
| 管理の基本方針 | 法令が定める措置をそのまま実行 | リスクアセスメント結果に基づき事業者が判断 |
| 対象物質数 | 約120物質(有機則・特化則等) | 約2,900物質(GHS分類済み全物質) |
| 措置の内容 | 法令が具体的に指定(設備・保護具等) | 事業者が最適な措置を選択・組み合わせ |
| ばく露管理の目標 | 個別規則の基準に適合 | 濃度基準値(ばく露限界値)以下を維持 |
| リスクアセスメント | 一部義務(2016年〜、約674物質) | 全対象物質で義務 |
| 管理体制 | 作業主任者の選任(一部物質) | 化学物質管理者の選任(全事業場) |
| 情報伝達 | ラベル・SDS交付(一部義務) | ラベル表示・SDS交付(全対象物質で義務) |
重要なのは、自律的管理への移行は「規制の緩和」ではないという点です。むしろ、対象物質が大幅に拡大し、事業者の責任と判断力がより強く求められるようになります。厚生労働省も「規制の強化と自律性の付与を同時に行うもの」と説明しています(厚生労働省, 2023)。
2022年から段階的に進む改正スケジュール
化学物質の自律的管理への移行は、2022年の労働安全衛生規則等の改正を起点に、段階的に進められてきました。主なスケジュールは以下のとおりです。
第1段階:2022年〜2023年の施行
- 2022年5月: 改正省令の公布。化学物質管理体制の抜本的見直しが決定
- 2023年4月: リスクアセスメント対象物に関するばく露を最小限にする義務が施行。化学物質管理者の選任義務が開始(リスクアセスメント対象物を扱う事業場)
- 2023年4月: 人体に重度の健康障害を生じる物質について、SDS等による通知事項の追加と皮膚等障害化学物質への直接接触防止措置が施行
第2段階:2024年の施行
- 2024年4月: リスクアセスメント結果に基づくばく露低減措置の義務化が本格適用
- 2024年4月: ラベル表示・SDS交付の義務対象が拡大(約674物質→段階的に追加)
- 2024年4月: 保護具着用管理責任者の選任義務が開始
- 2024年4月: 化学物質による労働災害発生時の労働基準監督署への報告義務が開始
第3段階:2025年〜2026年の施行(集大成)
- 2025年4月: GHS未分類物質のSDS交付が努力義務に
- 2026年4月: 濃度基準値の適用対始。対象物質が約2,900物質に拡大。リスクアセスメント対象物の範囲がGHS分類済み全物質に拡大
- 2026年10月: 一部の経過措置終了
この段階的施行により、事業者は準備期間を確保しながら新制度に対応できるよう配慮されています。しかし、2026年4月の対象物質拡大が最大の節目であり、多くの事業場で新たな対応が必要になります。
事業者に求められる具体的な対応
化学物質管理者の選任
自律的管理の中核を担うのが化学物質管理者です。リスクアセスメント対象物を製造または取り扱うすべての事業場で、化学物質管理者を選任しなければなりません。
化学物質管理者の主な職務は以下のとおりです。
- ラベル・SDSの作成・確認(製造事業場の場合は作成も含む)
- リスクアセスメントの実施と管理
- リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択・実施の管理
- 化学物質の自律的管理に関する各種記録の作成・保存
- 労働者への化学物質に関する教育の管理
化学物質管理者になるためには、厚生労働省が定める講習を修了する必要があります。製造事業場の場合は、より専門的な講習(専門的講習)の修了が求められます。
リスクアセスメントの実施
自律的管理の根幹となるのがリスクアセスメントです。事業者は、取り扱う化学物質について以下の手順でリスクを評価します。
ステップ1:危険性・有害性の特定
SDSやラベルの情報をもとに、取り扱う化学物質のGHS分類(急性毒性、皮膚腐食性、発がん性など)を確認します。
ステップ2:ばく露の推定
作業環境中の化学物質濃度を推定します。方法としては、以下のいずれかを用います。
- 実測(作業環境測定・個人ばく露測定)
- 数理モデルによる推定(CREATE-SIMPLEなどのツールを活用)
ステップ3:リスクの見積もり
推定されたばく露濃度と、国が定める濃度基準値を比較します。濃度基準値は、労働者が1日8時間、週40時間程度ばく露しても健康障害が生じないとされる濃度です。
ステップ4:リスク低減措置の決定・実施
リスクの見積もり結果に基づいて、適切なばく露防止措置を決定します。措置の優先順位は以下のとおりです。
- 有害性の低い物質への代替
- 発散源の密閉化・局所排気装置の設置等の工学的対策
- 作業手順の改善・ばく露時間の短縮等の管理的対策
- 有効な呼吸用保護具・保護衣等の使用
CREATE-SIMPLEの活用
CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)は、厚生労働省が提供するリスクアセスメント支援ツールです。化学物質の取扱量や作業条件などの情報を入力するだけで、ばく露濃度の推定とリスクの判定を簡便に行うことができます。
CREATE-SIMPLEの特長は以下のとおりです。
- 無料で利用可能(厚生労働省のWebサイトからアクセス)
- 専門的な測定機器がなくても簡易的なリスク評価が可能
- SDSの情報と作業条件を入力するだけで結果が得られる
- 小規模事業場でも活用しやすい設計
ただし、CREATE-SIMPLEはあくまで簡易的な推定ツールであり、リスクが高いと判定された場合は実測による確認が推奨されます。
ラベル表示・SDS交付の義務拡大
2026年4月以降、GHS分類で危険性・有害性が確認されたすべての化学物質(約2,900物質)について、ラベル表示とSDS(安全データシート)の交付が義務化されます。
SDSには、以下の情報が含まれます。
- 化学物質の名称と成分
- GHS分類に基づく危険有害性情報
- 取扱い上の注意と応急措置
- ばく露防止措置と保護具に関する情報
- 適用される法規制の情報
SDSは、化学物質を譲渡・提供する際に交付が義務付けられます。また、人体に重度の健康障害を生じるおそれのある物質については、通知事項が追加され、より詳細な情報提供が求められます。
立ち仕事の現場と化学物質の自律的管理
化学物質の自律的管理は、立ち仕事の現場にも直接的な影響を及ぼします。
製造業の組立・検査ラインでは、接着剤・洗浄剤・潤滑油など、日常的に化学物質を使用しています。これまで個別規制の対象外だった物質も、GHS分類に基づくリスクアセスメントの対象となります。
食品加工業では、消毒剤や洗浄剤の使用が避けられません。長時間の立ち仕事に加えて化学物質へのばく露リスクも管理する必要があり、作業環境全体を見直す良い機会となります。
医療・歯科分野では、消毒薬・麻酔薬・歯科用レジンなどの化学物質を日常的に取り扱います。立位での長時間作業中に化学物質にばく露されるケースでは、身体的負担と化学的リスクの複合的な管理が重要になります。
建設現場では、塗料・シンナー・防水材など多種多様な化学物質が使われています。屋外作業や換気が不十分な閉所での作業も多く、ばく露管理の徹底が欠かせません。
いずれの現場でも、化学物質管理と作業姿勢や疲労管理を組み合わせた総合的な労働安全衛生対策を検討することが重要です。たとえば、局所排気装置の設置位置を検討する際に作業者の立位姿勢や動線も考慮するなど、人間工学的な視点を取り入れることで、より効果的な職場環境の改善につながります。
よくある質問
Q: 自律的管理になると、有機則や特化則はなくなるのですか?
A: すぐにはなくなりません。現時点では、有機則・特化則などの個別規則は存続しています。ただし、厚生労働省は将来的にこれらの個別規則を自律的管理の枠組みに統合する方向で検討を進めています。当面は、個別規則の対象物質については従来の措置義務を守りつつ、自律的管理の要素(リスクアセスメント等)も併せて実施する必要があります。
Q: 小規模事業場でも化学物質管理者の選任は必要ですか?
A: はい、事業場の規模にかかわらず、リスクアセスメント対象物を製造または取り扱う場合は選任が必要です。ただし、小規模事業場向けには、厚生労働省が提供するCREATE-SIMPLEなどの簡易ツールやオンライン講習の活用が推奨されています。
Q: 自律的管理のリスクアセスメントは、いつ実施すればよいですか?
A: リスクアセスメントは以下のタイミングで実施する必要があります。新たな化学物質を採用するとき、作業方法や作業手順を変更するとき、化学物質による労働災害が発生したとき、SDSの情報が更新されたときなどです。また、直近のリスクアセスメントから一定期間が経過した場合にも再実施が推奨されます。
まとめ
化学物質の自律的管理とは、事業者自身がリスクアセスメントに基づいて最適な管理措置を判断・実行する新しい化学物質管理の枠組みです。2022年から段階的に施行が進められ、2026年4月にはリスクアセスメント対象物質が約2,900物質に拡大される集大成を迎えます。
この転換は「規制の緩和」ではなく、むしろ事業者の責任と専門性がより強く求められるようになるものです。化学物質管理者の選任、リスクアセスメントの実施、ラベル・SDSによる情報伝達の徹底など、今から計画的に準備を進めることが不可欠です。
立ち仕事の現場では、化学物質のばく露リスクと身体的負担の両面から作業環境を見直すことで、より安全で健康的な職場づくりにつなげることができます。自律的管理の導入を、職場全体の労働安全衛生を底上げする機会として捉えてみてはいかがでしょうか。
参考文献
- 厚生労働省, 「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」, 2022. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
- 厚生労働省, 「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の施行について」, 2022.
- 厚生労働省, 「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」, 2021. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19948.html
- 厚生労働省, 「化学物質管理に関する相談窓口・支援事業」, 2024. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00008.html
- 厚生労働省, 「CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)」, https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07_3.htm
- 厚生労働省, 「GHS対応ラベル・SDS作成に関するガイダンス」, 2024.
- 厚生労働省, 「労働安全衛生法等の一部を改正する法律(令和7年法律第19号)の概要」, 2025.

「立ちっぱなし」でお悩みはありませんか?
✔︎ 足裏が痛い
✔︎ 腰痛がつらい
✔︎ ふくらはぎがむくむ
✔︎ ヒザが痛い
✔︎ 姿勢の悪化
✔︎ 全身疲労
✔︎ 足裏が痛い
✔︎ 腰痛がつらい
✔︎ ふくらはぎがむくむ
✔︎ ヒザが痛い
✔︎ 姿勢の悪化
✔︎ 全身疲労
立ち姿勢の負担軽減
「スタンディングレスト」
という新発想!

立ち作業の負担軽減デバイス
アルケリスは立ち姿勢の負荷軽減デバイスを販売中です。職場環境に合わせて、疲労軽減ジェルマット、スタビ ハーフ、スタビフルから選ぶことができます。立ち仕事の身体疲労を軽減し、働く人に選ばれる職場づくりをサポートします。
その他の負荷軽減デバイス
上肢の負担や局所疲労の軽減にフォーカスした製品ライン SUTIX by Ottobock を販売中です。熱暑対策・腰痛対策に加え、手首や首の疲労のためのサポートデバイスで安心安全な職場づくりを実現します。
製品写真(スタビハーフ)






身体負荷を軽減する
立ち姿勢では体重負荷が100%足裏に集中して、足や腰に負担がかかります。スタビハーフは体重を分散して支えるため、足裏への負荷を最大33%軽減することができます。

負荷軽減の検証データ
実証実験において、スタビハーフによる体重分散効果が示されました。
立ち姿勢とスタビハーフ使用時における体にかかる荷重を、圧力分布センサを用いて計測したところ、スタビハーフの使用により足裏の荷重が最大30%程度軽減することが明らかになりました。
スネ部のロールクッションが体重の一部を優しく支えることで、足裏の荷重が軽減していることがデータから示されました。







