【改正労働安全衛生規則に対応】化学物質管理者の選任義務|リスクアセスメント対象物を扱う事業場の要件

【改正労働安全衛生規則に対応】化学物質管理者の選任義務|リスクアセスメント対象物を扱う事業場の要件 |立ち仕事のミカタ | アルケリス株式会社

「うちの事業場でも化学物質管理者の選任が必要なのだろうか」――2024年4月の改正労働安全衛生規則(安衛則)の施行により、化学物質管理者の選任が義務化され、多くの事業場でこうした疑問の声が上がっています。リスクアセスメント対象物を製造・取り扱うすべての事業場で、化学物質管理者の選任が義務付けられました。さらに、2026年4月にはリスクアセスメント対象物質が約2,900種へ大幅に拡大され、新たに選任が必要となる事業場も増加する見込みです。

本記事では、化学物質管理者の選任義務の法的根拠から、選任要件、職務内容、講習の受講方法まで、2025年8月時点の情報に基づいてわかりやすく解説します。

: 本記事は2025年8月時点の情報に基づいています。今後の省令改正や通達により、運用が変更される可能性があります。

この記事でわかること

  • 化学物質管理者とは何か、選任義務の法的根拠(安衛則第12条の5)
  • 選任が必要な事業場の範囲と選任要件(製造事業場とそれ以外の違い)
  • 化学物質管理者の具体的な職務内容
  • 保護具着用管理責任者との関係
  • 2026年4月の対象物質拡大による影響と今から取るべき対策
  • 化学物質管理者講習の受講方法・費用の目安

化学物質管理者とは ― 選任義務の概要と法的根拠

化学物質管理者の定義

化学物質管理者とは、事業場における化学物質の自律的な管理を推進するために選任が義務付けられる者です。従来の化学物質規制は、特定の物質ごとに具体的な措置を行政が指定する「法令準拠型」が中心でしたが、2022年の安衛法関連省令の改正(いわゆる「化学物質管理の新たな規制」)により、事業者自らがリスクアセスメントを実施し、その結果に基づいてばく露防止措置を講じる「自律的な管理」への転換が進められました。

化学物質管理者は、この自律的な管理の実務を統括するキーパーソンとして位置づけられています。

選任義務の法的根拠 ― 安衛則第12条の5

化学物質管理者の選任義務は、労働安全衛生規則(安衛則)第12条の5に規定されています。

安衛則第12条の5第1項(趣旨): 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場ごとに、化学物質管理者を選任し、その者に当該事業場における化学物質の管理に係る技術的事項を管理させなければならない。

この規定は2024年4月1日から施行されています。ここでいう「リスクアセスメント対象物」とは、安衛法第57条の2第1項に規定される物質であり、労働者に危険又は健康障害を生ずるおそれのある物として政令で定められたものを指します。2025年8月時点では約900種が指定されていますが、2026年4月には約2,900種に拡大される予定です。

制定の背景 ― なぜ化学物質管理者が必要になったのか

化学物質管理者制度が導入された背景には、日本の化学物質管理を取り巻く以下の課題がありました。

  • 化学物質による労働災害の高止まり: 厚生労働省の統計によると、化学物質による休業4日以上の労働災害は年間約450件前後で推移しており、その約8割が特別規則の対象外の物質によるものでした
  • 国際的な管理手法との乖離: GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に基づくリスクアセスメントが国際標準となる中、日本の法令準拠型の管理体制では対応しきれない物質が増加していました
  • 事業場内の管理体制の不備: リスクアセスメントの実施が義務化されていたにもかかわらず、実施率は必ずしも高くなく、管理の実効性を確保するために責任者を明確化する必要がありました

こうした背景から、厚生労働省の「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」報告書(2021年)では、事業場ごとに化学物質管理の責任者を選任する制度の導入が提言され、2022年の省令改正で実現しました。

選任が必要な事業場と選任要件

選任が必要な事業場の範囲

化学物質管理者の選任が必要なのは、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱うすべての事業場です。業種や事業場の規模による適用除外はありません。

具体的には、以下のような事業場が該当します。

  • 製造業: 化学品メーカー、塗料・接着剤製造、樹脂加工 等
  • 建設業: 塗装工事、防水工事、解体工事(石綿含有建材の扱い等)
  • 医療・歯科: 消毒薬、麻酔ガス、歯科用レジン等の取り扱い
  • 自動車整備業: 有機溶剤を含む洗浄剤、塗料の使用
  • 印刷業: インキ、溶剤の取り扱い
  • 食品加工業: 洗浄剤、殺菌剤の使用
  • 研究機関: 試薬・実験用化学物質の取り扱い

重要なのは、化学品メーカーだけでなく、化学物質を「使用する」事業場も対象だという点です。洗浄剤や接着剤など、一般的に使用される製品であっても、リスクアセスメント対象物に該当する成分を含んでいれば選任義務が生じます。

選任要件 ― 製造事業場とそれ以外で異なる

化学物質管理者の選任要件は、リスクアセスメント対象物を製造する事業場それ以外の事業場(取り扱いのみ)で異なります。

区分対象事業場選任要件講習の種類
製造事業場リスクアセスメント対象物を製造する事業場専門的講習の修了者化学物質管理者講習(製造事業場向け)
取り扱い事業場リスクアセスメント対象物を取り扱う事業場(製造以外)資格要件なし(ただし講習修了が望ましい)化学物質管理者講習(取り扱い事業場向け)

製造事業場では、厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習を修了した者から選任しなければなりません(安衛則第12条の5第2項)。この講習は、リスクアセスメントの手法、ばく露防止措置、保護具の選定など、より専門的な内容を含む約12時間のカリキュラムで構成されています。

一方、製造以外の取り扱い事業場では、法令上の資格要件は定められていません。ただし、厚生労働省は化学物質管理者講習(取り扱い事業場向け・約6時間)の受講を推奨しています。化学物質管理者の職務を適切に遂行するためには、講習の受講が実質的に不可欠といえるでしょう。

選任の届出は不要

化学物質管理者の選任について、所轄の労働基準監督署への届出は不要です。この点は、衛生管理者や産業医の選任と異なります。

管理者等の種類選任届出
衛生管理者必要(遅滞なく届出)
産業医必要(遅滞なく届出)
化学物質管理者不要
保護具着用管理責任者不要

届出は不要ですが、選任した事実を社内で周知するとともに、選任記録(氏名、選任日、資格・講習修了の情報等)を文書で保存しておくことが重要です。労働基準監督署の臨検等で確認を求められた際に提示できるようにしておきましょう。

化学物質管理者の職務内容

化学物質管理者が管理する「化学物質の管理に係る技術的事項」は、安衛則第12条の5第3項に具体的に列挙されています。主な職務は以下の通りです。

ラベル・SDS等による情報伝達の管理

化学物質管理者は、事業場で取り扱うリスクアセスメント対象物について、GHSに基づくラベル表示とSDS(安全データシート: Safety Data Sheet)の確認・管理を行います。具体的には以下の業務を担います。

  • ラベル表示の確認: 容器や包装に適切なGHSラベルが貼付されているかの確認
  • SDSの入手・管理: 譲渡・提供を受けた化学物質のSDSを入手し、内容を確認・保管
  • 情報の周知: ラベルやSDSの情報を作業者に周知する体制の整備

リスクアセスメントの実施管理

化学物質管理者の中核的な職務が、リスクアセスメントの実施に関する管理です。

  • リスクアセスメントの実施計画の策定
  • 適切なリスクアセスメント手法(コントロール・バンディング、実測法、数理モデル等)の選定
  • リスクアセスメント結果の記録・保存と労働者への周知
  • リスクアセスメント結果に基づくリスク低減措置の検討

厚生労働省が公開している「CREATE-SIMPLE」(化学物質のリスクアセスメント支援ツール)などを活用し、効率的にリスクアセスメントを実施・管理することが求められます。

ばく露防止措置の管理

リスクアセスメントの結果、リスクが許容範囲を超えると判断された場合は、ばく露防止措置を講じる必要があります。化学物質管理者は、以下の措置の選定・実施を管理します。

  • 工学的対策: 局所排気装置の設置、代替物質への変更、作業方法の改善
  • 管理的対策: 作業時間の制限、作業手順書の整備
  • 個人用保護具: 適切な保護具の選定・使用の管理(保護具着用管理責任者との連携)

その他の管理業務

  • 自律的な管理に係る各種記録の作成・保存
  • 化学物質に係るリスクアセスメント結果等の労働者への周知
  • 化学物質に起因する労働災害発生時の原因調査・再発防止措置の検討

保護具着用管理責任者との関係

保護具着用管理責任者とは

化学物質管理者と合わせて理解しておきたいのが、保護具着用管理責任者です。保護具着用管理責任者は、安衛則第12条の6に基づき、リスクアセスメントの結果に基づいて労働者に保護具を使用させる事業場において選任が義務付けられる者です。

化学物質管理者との役割分担

役割化学物質管理者保護具着用管理責任者
主な職務化学物質管理全般の統括保護具の適切な選択・使用・管理
選任が必要な場面リスクアセスメント対象物を製造・取り扱うすべての事業場リスクアセスメントの結果に基づき保護具を使用させる場合
求められる知識リスクアセスメント、ばく露防止措置全般保護具の種類・性能・フィットテスト等
兼任の可否保護具着用管理責任者と兼任可能化学物質管理者と兼任可能

化学物質管理者と保護具着用管理責任者は兼任が可能です。特に中小規模の事業場では、同一人物が両方の役割を担うケースが多いと考えられます。ただし、それぞれの職務に必要な知識・能力を有していることが前提です。

2026年4月の対象物質拡大 ― 新たに選任が必要になる事業場

対象物質が約2,900種に拡大

2026年4月1日から、リスクアセスメント対象物質が現行の約900種から約2,900種へと大幅に拡大されます。これは、国がGHS分類で危険性・有害性が確認されたすべての物質をリスクアセスメント対象物に追加する方針によるものです。

この拡大により、これまでリスクアセスメント対象物を取り扱っていないと認識していた事業場でも、新たに対象物質を取り扱っていることが判明し、化学物質管理者の選任が必要になるケースが多数生じると予想されます。

今から準備すべきこと

2026年4月の対象物質拡大に備え、事業場では以下の準備を進めることが推奨されます。

  1. 化学物質の棚卸し: 事業場で使用しているすべての化学物質を洗い出し、SDSを確認する
  2. 対象物質の確認: 使用している化学物質が2026年4月以降のリスクアセスメント対象物に該当するか確認する(厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」で確認可能)
  3. 化学物質管理者の候補者選定: 選任が必要な場合に備え、化学物質管理者の候補者を選定する
  4. 講習の受講計画: 候補者に化学物質管理者講習を受講させるスケジュールを立てる
  5. リスクアセスメントの体制整備: 新たに対象となる物質のリスクアセスメントを実施できる体制を構築する

特に製造事業場では、化学物質管理者講習(専門的講習)の受講が必須であり、講習の定員や開催頻度を考慮して早めの受講計画を立てることが重要です。

化学物質管理者講習の受講方法・費用

講習の種類と内容

化学物質管理者講習には、前述の通り製造事業場向け取り扱い事業場向けの2種類があります。

製造事業場向け講習(専門的講習)

  • 講習時間: 約12時間(2日間)
  • 主な内容: 化学物質の危険性・有害性、GHS分類、ラベル・SDSの管理、リスクアセスメントの手法(定量的手法を含む)、ばく露防止措置、保護具の選定、関係法令
  • 修了要件: 講習カリキュラムの全課程を修了すること

取り扱い事業場向け講習

  • 講習時間: 約6時間(1日間)
  • 主な内容: 化学物質の危険性・有害性、ラベル・SDSの見方、リスクアセスメントの基礎、ばく露防止措置の概要、関係法令
  • 修了要件: 講習カリキュラムの全課程を修了すること

受講方法と費用の目安

化学物質管理者講習は、以下の機関で実施されています。

  • 中央労働災害防止協会(中災防)
  • 各都道府県の労働基準協会
  • 安全衛生教育センター
  • 厚生労働大臣が定める基準を満たす講習実施機関

費用の目安は以下の通りです(2025年8月時点、機関により異なります)。

講習の種類費用の目安日数
製造事業場向け(専門的講習)約20,000〜30,000円2日間
取り扱い事業場向け講習約8,000〜15,000円1日間

オンライン(eラーニング)で受講可能な講習も増えてきています。受講機関によって内容や費用が異なるため、厚生労働省のWebサイトや最寄りの労働基準協会で最新情報を確認することをお勧めします。

違反した場合のリスク

化学物質管理者の選任を怠った場合、安衛則違反として以下のリスクがあります。

  • 行政指導・是正勧告: 労働基準監督署の臨検により、選任していないことが判明した場合、是正勧告の対象となります
  • 書類送検の可能性: 是正勧告に従わない場合や、化学物質による重大な労働災害が発生した場合は、安衛法違反として書類送検される可能性があります
  • 安衛法第120条の罰則: 安衛則に基づく義務に違反した場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります(安衛法第120条第1号)
  • 民事上の損害賠償責任: 化学物質管理者を選任せず、適切な化学物質管理を行わなかった結果として労働者に健康被害が生じた場合、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われる可能性があります

まとめ

化学物質管理者の選任義務は、事業場における化学物質の自律的な管理を実効性あるものにするための重要な制度です。ポイントを整理すると以下の通りです。

  • 選任義務の対象: リスクアセスメント対象物を製造・取り扱うすべての事業場(業種・規模を問わない)
  • 法的根拠: 安衛則第12条の5(2024年4月1日施行)
  • 選任要件: 製造事業場は専門的講習の修了者、取り扱い事業場は資格要件なし(講習受講を推奨)
  • 届出: 不要(ただし社内記録は必要)
  • 2026年4月: 対象物質が約2,900種に拡大、新たに選任が必要になる事業場が増加

2026年4月の対象物質拡大を見据え、まずは自社で取り扱う化学物質の棚卸しを行い、対象物質の有無を確認することから始めましょう。化学物質による労働災害を防ぐためには、化学物質管理者を中心とした管理体制の構築が不可欠です。

よくある質問

Q: 化学物質管理者は事業場ごとに選任が必要ですか?

A: はい、事業場ごとに選任が必要です。本社と工場が別々の場所にあり、それぞれでリスクアセスメント対象物を取り扱っている場合は、それぞれの事業場で化学物質管理者を選任しなければなりません。

Q: 化学物質管理者は複数人選任してもよいですか?

A: はい、複数人の選任も可能です。法令上は「化学物質管理者を選任し」としか規定されておらず、1名に限る旨の規定はありません。大規模な事業場や取り扱う化学物質が多い事業場では、複数名を選任して業務を分担することも合理的です。

Q: 衛生管理者が化学物質管理者を兼任することはできますか?

A: 兼任は可能です。化学物質管理者と他の安全衛生関係の管理者(衛生管理者、作業主任者等)との兼任を禁止する規定はありません。ただし、化学物質管理者としての職務を適切に遂行できる知識・能力を有していることが前提です。製造事業場では、専門的講習の修了が要件となります。

Q: リスクアセスメント対象物を少量しか使っていなくても選任が必要ですか?

A: はい、取り扱う量にかかわらず選任が必要です。安衛則第12条の5は「リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場」と規定しており、量の多寡による適用除外はありません。ただし、密閉された状態で取り扱い、労働者がばく露するおそれがない場合など、実質的にリスクアセスメント対象物を「取り扱う」に該当しないケースもあり得ます。

参考文献

  1. 厚生労働省, 「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
  2. 厚生労働省, 「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号)」, 2022年.
  3. 厚生労働省, 「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会 報告書」, 2021年, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19948.html
  4. 厚生労働省, 「化学物質管理者講習のカリキュラム及び講習の実施に関する事項について」(基発0929第4号), 2023年.
  5. 厚生労働省, 「リスクアセスメント対象物の追加について」, 2024年.
  6. 中央労働災害防止協会, 「化学物質管理者講習のご案内」, https://www.jisha.or.jp/
  7. 厚生労働省, 「職場のあんぜんサイト GHS対応モデルラベル・モデルSDS」, https://anzeninfo.mhlw.go.jp/

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