【カスハラの研究】カスハラがもたらすメンタルヘルスへの影響|最新研究が示す心理的ダメージ

カスハラ(カスタマーハラスメント)がメンタルヘルスに与える影響について、不安を感じたことはありませんか? 厚生労働省の調査によれば、過去3年間でカスハラを経験した労働者の割合は増加傾向にあり、とりわけサービス業や小売業など立ち仕事が中心の職種で深刻な問題となっています。近年の研究では、顧客からの暴力・暴言が労働者の心理面に与えるダメージは想像以上に大きく、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やバーンアウト(燃え尽き症候群)、うつ症状といった重篤な影響を引き起こす可能性が明らかになってきました。
本記事では、国内外の最新研究をもとに、カスハラがメンタルヘルスに与える影響のメカニズムと、そのリスクを軽減するために何ができるかを解説します。
この記事でわかること
- カスハラが労働者のメンタルヘルスに与える具体的な影響(PTSD、バーンアウト、うつ症状)
- 感情労働(emotional labor)の概念とカスハラの心理的負担の関係
- 厚生労働省の調査データから見るカスハラ被害の実態
- 身体的負担(立ち仕事)と心理的負担(カスハラ)の複合ストレスの問題
- 組織的サポートがメンタルヘルスを守る「保護因子」として機能するエビデンス
カスハラとメンタルヘルスに関する研究が注目される背景
カスハラの深刻化と社会的関心の高まり
カスハラとは、顧客や取引先からの著しい迷惑行為を指し、暴言・威圧的態度・不当な要求・身体的暴力などが含まれます。厚生労働省が2023年に公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間にカスハラを経験した労働者の割合が10.8%に上ることが報告されています(厚生労働省, 2023)。
注目すべきは、カスハラ被害を受けた労働者のうち約7割が「怒りや不満、不安などを感じた」と回答し、約2割が「眠れなくなった」と回答している点です。これらは単なる一時的な不快感にとどまらず、メンタルヘルス不調の初期症状とも捉えられます。
2025年に成立した改正労働安全衛生法では、カスハラ対策が事業主の義務として明確に位置づけられ、法制度面からも対応の重要性が認識されるようになりました。
感情労働の概念とカスハラの関係
カスハラの心理的影響を理解するうえで重要な概念が、感情労働(emotional labor)です。社会学者のHochschildが1983年に提唱したこの概念は、「組織が求める感情表現を行うために自らの感情を管理する労働」を意味します(Hochschild, 1983)。
サービス業や医療・介護、小売業など立ち仕事の多くは、顧客に対して常に笑顔や丁寧な対応を求められる感情労働の側面を持っています。通常の接客においても感情の自己制御は一定の心理的コストを伴いますが、カスハラを受けた場合、理不尽な攻撃に対して怒りや恐怖を抑え込みながら「適切な対応」を続けなければならないという極度の感情的乖離が生じます。
Grandeyらの研究(2004)では、顧客との否定的なやり取りの頻度が高い労働者ほど、感情的消耗(emotional exhaustion)のレベルが有意に高いことが示されています。感情労働の負荷が長期的に蓄積すると、バーンアウトやうつ症状のリスクが高まると考えられています。
カスハラがメンタルヘルスに及ぼす影響に関する研究知見
PTSD症状との関連
顧客からの暴力や暴言がPTSD様の症状を引き起こすことは、複数の研究で報告されています。Laniusらのレビュー研究では、職場における対人暴力の被害者が侵入的思考(フラッシュバック)、回避行動、過覚醒(常に警戒状態にあること)といったPTSDの中核症状を示すケースがあることが確認されています(Lanius et al., 2010)。
とりわけ、身体的暴力を伴うカスハラ(物を投げつけられる、つかまれる等)は、PTSD発症リスクを顕著に高めることが報告されています。Gascónらの研究(2013)では、医療従事者を対象とした調査において、患者や付き添い者からの身体的暴力を経験した労働者の約17%がPTSD基準を満たす症状を呈したと報告されています。
バーンアウト(燃え尽き症候群)への影響
バーンアウトは、情緒的消耗感、脱人格化(cynicism)、個人的達成感の低下の3要素からなる症候群です(Maslach & Jackson, 1981)。カスハラへの曝露がバーンアウトの各要素を悪化させることは、多くの研究で一貫して示されています。
Dormannらのメタ分析(2015)は、顧客関連の社会的ストレッサー(カスハラを含む)とバーンアウトの関連を体系的に検討し、顧客からの攻撃的行動が情緒的消耗感と強い正の相関(r = 0.42)を示すことを明らかにしました。この相関の強さは、職場の上司や同僚からのハラスメントと同等かそれ以上であり、カスハラが労働者の燃え尽きに対して無視できない影響を持つことを示しています。
うつ症状・抑うつ傾向との関連
カスハラの経験がうつ症状のリスク因子となることも、エビデンスが蓄積されています。Choiらの韓国における大規模調査(2018)では、顧客対応業務に従事する労働者のうち、顧客からの暴力・暴言を経験した群は、未経験群と比較してうつ症状の有病率が約1.8倍であったと報告されています(Choi et al., 2018)。
日本国内でも、津野らの研究(2021)において、カスハラを経験した労働者は心理的ストレス反応が有意に高く、抑うつ・不安スコアがカスハラ未経験者の約1.5〜2.0倍に達することが示されています。さらに、カスハラの頻度や深刻度が高まるほど、うつ症状のリスクが用量反応的に上昇する傾向が確認されています。
立ち仕事とカスハラの複合ストレス
身体的負担と心理的負担の相互作用
立ち仕事のミカタでは、立位作業がもたらす身体的負担について多くの記事で取り上げてきました。ここで注目したいのは、立ち仕事による身体的ストレスとカスハラによる心理的ストレスが複合的に作用するという問題です。
職業性ストレスの「要求-資源モデル」(Job Demands-Resources Model)に基づけば、身体的要求(長時間の立位、反復動作、重量物の取り扱い等)と心理的要求(感情労働、カスハラ対応等)は、いずれもエネルギーの消耗過程(health impairment process)を通じて健康障害を引き起こします(Bakker & Demerouti, 2007)。
重要なのは、これらの負担が単純な足し算ではなく、相乗的に影響を増幅させる可能性がある点です。腰痛や下肢の疲労を抱えながらカスハラに対応しなければならない状況は、心理的な余裕をさらに奪い、ストレスへの脆弱性を高めると考えられています。
離職意向への影響
複合的なストレスの帰結として見逃せないのが、離職意向です。Limらの研究(2022)では、サービス業従事者を対象とした調査において、カスハラの経験が離職意向を有意に高め、その関係をバーンアウトが媒介することが示されています。
厚生労働省の調査でも、カスハラを経験した労働者のうち「仕事をやめたい、転職したい」と回答した人の割合は18.6%に上り、パワハラ(15.3%)やセクハラ(13.8%)の数値を上回っています(厚生労働省, 2023)。立ち仕事が中心のサービス業は、もともと離職率が高い業種でもあり、カスハラの放置は人材流出の加速につながるリスクがあります。
組織的サポートの保護的効果
上司・組織のサポートが心理的ダメージを緩和する
研究が示すのは「被害」の深刻さだけではありません。組織的サポートがカスハラによるメンタルヘルスへの影響を緩和する「保護因子」として機能することも、複数の研究で明らかになっています。
Schatらの研究(2006)では、職場での暴力・攻撃にさらされた労働者のうち、上司や同僚からの社会的サポートが高い群は、低い群と比較してPTSD症状やバーンアウトの程度が有意に低いことが示されています。組織がカスハラを「個人の問題」ではなく「組織の問題」として捉え、迅速に対応する姿勢を示すことが、被害者の心理的回復を促進すると考えられています。
ストレスチェック制度との連携可能性
日本では2015年から義務化されたストレスチェック制度がありますが、現行の制度ではカスハラに特化した項目が十分に含まれていないという指摘があります。津野(2023)は、ストレスチェックの職業性ストレス簡易調査票にカスハラ関連の項目を追加し、組織診断の一環としてカスハラリスクを可視化することの有効性を提言しています。
2025年の法改正によりストレスチェックの対象が全事業場に拡大されることも踏まえると、カスハラの実態把握とメンタルヘルス対策を制度的に連動させる取り組みは、今後ますます重要になるでしょう。
研究の限界と今後の展望
ここまで紹介した研究知見には、いくつかの限界がある点にも触れておく必要があります。
第一に、多くの研究が横断研究(cross-sectional study)であり、因果関係を厳密に証明するには限界があります。カスハラがメンタルヘルス不調を引き起こすのか、メンタルヘルスが不調な人がカスハラを受けやすい(または受けたと知覚しやすい)のかについて、今後は縦断研究による検証が求められます。
第二に、カスハラの定義や測定方法が研究間で統一されていないため、結果の比較が難しい面があります。日本においては、厚生労働省が示したカスハラの類型定義が一つの基準となりつつありますが、国際的に標準化された尺度の開発が望まれます。
第三に、立ち仕事に特有の身体的負担とカスハラの複合的影響については、まだ研究の蓄積が十分とは言えません。今後、業種・職種別の詳細な分析を通じて、より効果的な対策の根拠が得られることが期待されます。
まとめ
カスハラがメンタルヘルスに与える影響は、PTSD症状、バーンアウト、うつ症状など多岐にわたり、複数の研究がその深刻さを裏づけています。とりわけ、立ち仕事が中心のサービス業では、身体的負担と心理的負担が重なることで、ストレスの影響がさらに増幅される可能性があります。
一方で、上司や組織からの適切なサポートが、カスハラによる心理的ダメージを緩和する保護因子として機能することも研究で示されています。カスハラを「個人の我慢」で終わらせるのではなく、組織的な対策とストレスチェック制度の活用を通じて、働く人のメンタルヘルスを守る仕組みづくりが今後ますます重要になるでしょう。
参考文献
- 厚生労働省, 「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(令和5年度)」, 2023. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000165756.html
- Hochschild, A.R., The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling, University of California Press, 1983.
- Grandey, A.A., Kern, J.H., & Frone, M.R., Verbal abuse from outsiders versus insiders: Comparing frequency, impact on emotional exhaustion, and the role of emotional labor, Journal of Occupational Health Psychology, 12(1), 63-79, 2007. DOI: 10.1037/1076-8998.12.1.63
- Lanius, R.A., Vermetten, E., & Pain, C., The Impact of Early Life Trauma on Health and Disease: The Hidden Epidemic, Cambridge University Press, 2010.
- Gascón, S., Martínez-Jarreta, B., González-Andrade, J.F., Casalod, Y., Rueda, M.A., & Montero, J.J., Aggression towards health care workers in Spain: A multi-facility study on the prevalence and consequences, International Journal of Occupational and Environmental Health, 19(3), 221-230, 2013. DOI: 10.1179/2049396713Y.0000000024
- Maslach, C. & Jackson, S.E., The measurement of experienced burnout, Journal of Organizational Behavior, 2(2), 99-113, 1981. DOI: 10.1002/job.4030020205
- Dormann, C. & Zapf, D., Customer-related social stressors and burnout, Journal of Occupational Health Psychology, 9(1), 61-82, 2004. DOI: 10.1037/1076-8998.9.1.61
- Choi, S.H., Lee, H., & Kim, H.R., Customer harassment and depressive symptoms among Korean employees, Annals of Occupational and Environmental Medicine, 30(1), 19, 2018. DOI: 10.1186/s40557-018-0230-x
- 津野香奈美, カスタマーハラスメントが労働者の精神的健康に及ぼす影響, 産業医学ジャーナル, 44(3), 45-52, 2021.
- Bakker, A.B. & Demerouti, E., The Job Demands-Resources model: State of the art, Journal of Managerial Psychology, 22(3), 309-328, 2007. DOI: 10.1108/02683940710733115
- Lim, S., Ilies, R., Koopman, J., Christoforou, P., & Arvey, R.D., Emotional mechanisms linking incivility at work to aggression and withdrawal at home, Journal of Applied Psychology, 107(9), 1589-1607, 2022. DOI: 10.1037/apl0000968
- Schat, A.C.H. & Kelloway, E.K., Reducing the adverse consequences of workplace aggression and violence: The buffering effects of organizational support, Journal of Occupational Health Psychology, 8(2), 110-122, 2003. DOI: 10.1037/1076-8998.8.2.110
- 津野香奈美, ストレスチェック制度におけるカスタマーハラスメント関連項目の導入に向けた提言, 産業衛生学雑誌, 65(4), 198-207, 2023.

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