【2026年10月施行】カスタマーハラスメント防止が義務化|法改正のポイントを徹底解説

【2026年10月施行】カスタマーハラスメント防止が義務化|法改正のポイントを徹底解説 | 立ち仕事のミカタ | アルケリス株式会社

カスタマーハラスメント義務化が2026年10月からスタートすることをご存知ですか? 2025年6月11日、「労働施策総合推進法」の改正法が公布され、これまで企業の自主的な取り組みに委ねられていたカスハラ対策が、法的な義務へと格上げされました。小売業の販売員、飲食店のスタッフ、医療機関の受付、工場の顧客対応窓口など、立ち仕事をしながら顧客と接する労働者にとって、この法改正は職場環境を大きく変える転換点となります。

本記事では、改正の背景からカスハラの法的定義、事業主に求められる具体的な措置義務まで、2026年10月の施行に向けて押さえておくべきポイントをわかりやすく解説します。

: 本記事は2025年7月時点の情報に基づいています。省令・指針等の詳細は今後公布される予定のものを含みます。

この記事でわかること

  • カスタマーハラスメント義務化の2026年10月施行に至る背景と経緯
  • 法律上のカスハラの定義(3つの要件)
  • 事業主に課される具体的な措置義務の内容
  • パワハラ防止措置との違いと共通点
  • 施行までに事業者が準備すべきこと

カスタマーハラスメント 義務化 2026の概要

改正の背景――深刻化するカスハラ被害

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先などからの著しい迷惑行為により、労働者の就業環境が害されることを指します。暴言や過度なクレーム、長時間の拘束、土下座の強要、SNSでの誹謗中傷など、その態様は多岐にわたります。

厚生労働省が2024年に公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間にカスハラに関する相談があった企業は27.9%に上り、前回調査(2020年)の19.5%から8.4ポイントも増加しています。また、カスハラを受けた労働者のうち、**「仕事への意欲が減退した」と回答した割合は約70%**にのぼり、離職につながるケースも少なくありません。

こうした被害の深刻化を受け、政府は2024年6月に「カスタマーハラスメント対策の推進に関する関係省庁間の連携について」を策定。さらに、与党の提言や「女性活躍・男女共同参画の重点方針2024」でもカスハラ対策の法制化が盛り込まれ、改正法の公布に至りました。

法改正の経緯と施行スケジュール

カスハラ防止の法制化は、以下のステップで進められてきました。

  • 2020年6月: パワーハラスメント防止措置が大企業に義務化(労働施策総合推進法改正)
  • 2022年4月: パワハラ防止措置が中小企業にも適用拡大
  • 2024年12月: 厚生労働省の審議会がカスハラ防止の法制化を建議
  • 2025年6月11日: 改正労働施策総合推進法が公布
  • 2026年10月1日: カスハラ防止措置義務が施行

注目すべきは、パワハラ防止と同じ「労働施策総合推進法」に基づく枠組みが採用されている点です。これは、パワハラ防止措置で培った企業の対応ノウハウをカスハラ対策にも活用できることを意味しています。

対象となる事業者

今回の措置義務は、事業場の規模にかかわらず、1人でも労働者を雇用するすべての事業主が対象となります。パワハラ防止措置では大企業が先行し中小企業に段階的に拡大されましたが、カスハラ防止措置は最初からすべての事業主に一律適用される点に注意が必要です。

「うちは従業員が数名の小さなお店だから関係ない」ということはありません。むしろ、小規模な店舗や事業所ほど、カスハラへの対応体制が整っていないケースが多く、法制化を機に早めの準備が求められます。

カスハラの法的定義――3つの要件

改正法で定められた定義

改正労働施策総合推進法では、カスタマーハラスメントを以下の3つの要件をすべて満たす行為として定義しています。

要件内容具体例
要件1顧客、取引先、施設利用者等の利害関係者が行うこと来店客、患者、取引先担当者、施設利用者など
要件2社会通念上許容される範囲を超えた言動であること暴言、脅迫、長時間の拘束、過剰な要求、SNSでの誹謗中傷
要件3労働者の就業環境を害すること精神的苦痛による業務遂行困難、心身の不調、離職

各要件の詳細

要件1:利害関係者の行為

「顧客」だけでなく、取引先の担当者や施設利用者など、業務に関連して接する幅広い相手方が対象に含まれます。たとえば、工場に資材を納入する取引先の担当者からの著しい迷惑行為も、カスハラに該当し得ます。

ただし、労働者の家族や、業務と無関係の第三者による行為は、原則としてこの定義には含まれません。

要件2:社会通念上許容される範囲を超えた言動

正当なクレームや意見の表明はカスハラには該当しません。問題となるのは、要求の内容が妥当であっても手段が過剰な場合、あるいは要求の内容自体が不当な場合です。

  • 要求の手段が過剰な例:商品の返品を求める際に大声で怒鳴り続ける、土下座を要求する
  • 要求の内容が不当な例:契約にない過剰なサービスを執拗に要求する、金品を要求する

要件3:就業環境を害すること

「就業環境を害する」とは、労働者が身体的・精神的に苦痛を受け、業務の遂行に支障が生じることを意味します。この判断は、「平均的な労働者の感じ方」を基準として客観的に行われます。

正当なクレームとの線引き

「カスハラ」と「正当なクレーム」の境界線は、現場で最も判断に迷うポイントです。厚生労働省は今後公布される指針(ガイドライン)の中で、具体的な事例を示す見込みです。現時点では、以下の視点が判断の目安となります。

  • 要求内容の妥当性: 提供した商品・サービスに瑕疵があるか
  • 要求手段の相当性: 要求の方法が社会通念上相当か
  • 反復性・継続性: 同様の言動が繰り返されているか
  • 業務への影響: 他の業務に支障が出る程度か

事業主に求められる措置義務

パワハラ防止措置と同様の枠組み

カスハラ防止の措置義務は、2020年に施行されたパワハラ防止措置と同様の枠組みで整備されます。事業主に求められる主な措置は、大きく3つの領域に分けられます。

1. 事業主の方針の明確化と周知・啓発

事業主は、カスハラを行ってはならない旨の方針を明確にし、労働者に周知・啓発する必要があります。

  • カスハラに関する社内方針の策定と全従業員への周知
  • 管理職・従業員向けの研修の実施
  • 就業規則や社内ガイドラインへのカスハラ対応方針の明記

2. 相談体制の整備

カスハラ被害を受けた労働者が安心して相談できる体制を整備することが求められます。

  • 相談窓口の設置と労働者への周知
  • 相談担当者への対応マニュアルの整備と教育
  • 相談者のプライバシー保護不利益取扱いの禁止
  • パワハラ・セクハラ等の既存相談窓口との一元化も可能

3. 事後の迅速かつ適切な対応

カスハラが発生した場合、事業主は迅速に事実確認を行い、被害者を保護する措置を講じなければなりません。

  • 事実関係の迅速な確認
  • 被害者への配慮措置(配置転換、メンタルヘルスケアなど)
  • 再発防止に向けた対策の実施
  • 必要に応じた警察や弁護士との連携

カスハラ対策と顧客対応のバランス

「カスハラ対策を強化すると、顧客サービスの質が下がるのでは?」という懸念を持つ事業者もいるかもしれません。しかし、適切なカスハラ対策は、むしろサービス品質の向上につながると考えられています。

従業員が安心して働ける環境を整えることで、離職率の低下や業務パフォーマンスの向上が期待できます。東京都は全国に先駆けて2025年4月に「東京都カスタマーハラスメント防止条例」を施行しており、条例施行後の調査では、従業員の安心感が高まったと回答した事業者が多いことが報告されています。

違反した場合のリスク

行政指導と企業名の公表

カスハラ防止の措置義務に違反した場合、パワハラ防止措置と同様に以下のリスクが想定されます。

  • 都道府県労働局長による助言・指導・勧告
  • 勧告に従わない場合の企業名の公表
  • 厚生労働大臣による報告の徴収

現時点では、措置義務違反に対する直接的な罰則(罰金等)は設けられていません。ただし、企業名の公表は社会的信用の毀損につながり、採用活動や取引関係にも影響を及ぼし得ます。

安全配慮義務との関連

措置義務に違反してカスハラ対策を怠った結果、労働者が心身の不調をきたした場合、民事上の安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。過去の裁判例でも、事業者がカスハラ被害への対応を怠ったことについて、安全配慮義務違反が認められたケースがあります。

立ち仕事の現場とカスハラ――なぜ対策が急務なのか

カスハラ被害の多い業種

厚生労働省の実態調査(2024年)によると、カスハラ被害の報告が特に多い業種は以下のとおりです。

業種カスハラ相談があった企業の割合
医療・福祉41.0%
宿泊・飲食サービス38.5%
生活関連サービス36.2%
小売業35.7%
運輸・郵便33.1%

これらはいずれも立ち仕事の割合が高い業種です。接客カウンター、レジ、受付、病棟など、立位で顧客対応を行う場面ではカスハラに直面するリスクが高まります。

身体的負担との複合ストレス

立ち仕事に従事する労働者は、**長時間の立位による身体的疲労とカスハラによる精神的ストレスの「二重の負担」**を抱えやすい環境にあります。身体的な疲労が蓄積した状態でカスハラを受けると、精神的なダメージがさらに大きくなることが指摘されています。

カスハラ防止措置の義務化は、こうした複合的な負担から立ち仕事の労働者を守るための重要な一歩といえるでしょう。

施行までに事業者が準備すべきこと

2026年10月の施行まで、事業者は以下のステップで準備を進めることが推奨されます。

ステップ1:現状把握(2025年内目安)

  • 自社でカスハラ被害が発生していないか、従業員へのヒアリングやアンケートを実施
  • 既存のハラスメント相談窓口の対応状況を確認
  • 過去のクレーム対応事例の中にカスハラに該当するケースがないか振り返る

ステップ2:体制構築(2026年前半目安)

  • カスハラ防止の社内方針を策定し、就業規則等に反映
  • 相談窓口の設置(または既存窓口への機能追加)
  • 対応マニュアルの作成(カスハラと正当なクレームの判断基準を含む)
  • 管理職・従業員向け研修プログラムの準備

ステップ3:運用開始と改善(2026年10月以降)

  • 施行に合わせて社内体制を正式に運用開始
  • 定期的な運用状況の点検と改善
  • 厚生労働省が公布する指針(ガイドライン)への対応

よくある質問

Q: 従業員5人の飲食店ですが、カスハラ対策は義務になりますか?

A: はい、義務になります。今回の措置義務は、事業場の規模にかかわらず、1人でも労働者を雇用するすべての事業主に適用されます。大企業と中小企業で施行時期に差はなく、2026年10月1日から一律に適用されます。厚生労働省が今後公表する指針やマニュアルを活用して、自社の規模に合った対策を講じましょう。

Q: お客様から大声で怒鳴られました。これはカスハラに該当しますか?

A: 3つの要件(利害関係者の行為、社会通念上許容される範囲を超えた言動、就業環境の侵害)をすべて満たす場合にカスハラに該当します。たとえば、商品の不具合に対して一度強い口調で苦情を伝える行為と、大声で長時間怒鳴り続けて業務が行えない状態にする行為では、判断が異なります。具体的な判断基準は、今後厚生労働省が公布する指針で明確化される見込みです。

Q: パワハラ防止の相談窓口をすでに設けています。カスハラ用に別の窓口が必要ですか?

A: いいえ、必ずしも別の窓口を設ける必要はありません。既存のパワハラ・セクハラ等の相談窓口にカスハラ対応を一元化することも認められる見込みです。ただし、相談担当者にカスハラ特有の対応方法を教育し、対応マニュアルを更新する必要があります。

まとめ

2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント防止が事業主の措置義務となり、2026年10月1日から施行されます。カスハラは「利害関係者の行為」「社会通念上許容される範囲を超えた言動」「就業環境の侵害」という3つの要件で定義され、事業主には相談体制の整備や社内方針の策定などが求められます。

立ち仕事に従事する労働者は、接客の最前線に立つことが多く、カスハラ被害を受けやすい立場にあります。身体的負担に加えて精神的ストレスが重なれば、心身の健康への影響は深刻です。今回の法制化は、「お客様は神様」から「従業員も守られるべき存在」へという社会的な価値観の転換を法的に裏づけるものです。

施行まで約1年の準備期間があります。まずは自社の現状を把握し、厚生労働省が公布する指針に沿って計画的に体制を整えていきましょう。

参考文献

  1. 厚生労働省, 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律の一部を改正する法律」, 2025年6月11日公布. https://www.mhlw.go.jp/
  2. 厚生労働省, 「職場のハラスメントに関する実態調査(令和5年度)」, 2024年. https://www.mhlw.go.jp/
  3. 厚生労働省, 「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」, 2022年. https://www.mhlw.go.jp/
  4. 厚生労働省, 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」, 2020年. https://www.mhlw.go.jp/
  5. 東京都, 「東京都カスタマーハラスメント防止条例」, 2024年制定・2025年4月施行. https://www.metro.tokyo.lg.jp/
  6. 厚生労働省, 「労働安全衛生法等の一部を改正する法律」, 2025年5月14日公布. https://www.mhlw.go.jp/

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