【フリーランス新法と安衛法改正の関係】個人事業主の労働安全衛生が大きく変化

【フリーランス新法と安衛法改正の関係】個人事業主の労働安全衛生が大きく変化 | 立ち仕事のミカタ | アルケリス株式会社

フリーランス新法と安衛法の改正――2024年から2026年にかけて、個人事業者を取り巻く法的環境が大きく変わりつつあることをご存知でしょうか。2024年11月に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(通称:フリーランス新法/フリーランス保護法)と、2026年4月に施行される改正労働安全衛生法。この二つの法律は、それぞれ異なる角度から個人事業者の保護を強化するものです。

しかし、「どちらの法律が自分に関係するのか」「事業者として何を対応すべきなのか」が整理できていないという声は少なくありません。本記事では、フリーランス新法と安衛法改正の目的・対象・内容の違いを比較しながら、事業者が押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。

: 本記事は2025年8月時点の情報に基づいています。省令・告示等の詳細は今後変更される可能性があります。

この記事でわかること

  • フリーランス新法(2024年11月施行)と安衛法改正(2026年4月施行)の概要
  • 二つの法律の目的の違い――「取引適正化」と「安全衛生保護」
  • 対象範囲の違いと重なる部分の整理
  • それぞれの法律で定められた主な規定内容
  • 事業者(発注者)が両方の法律で対応すべきことの全体像

フリーランス新法と安衛法改正が同時期に進んだ背景

フリーランス462万人時代の法的課題

日本におけるフリーランスの数は、内閣官房の調査(2020年)で約462万人と推計されています。建設業の一人親方、ITエンジニア、デザイナー、配送ドライバーなど、その働き方は多岐にわたります。

しかし、フリーランスは「労働者」ではないため、従来の労働法制による保護が十分に及ばないという構造的な問題がありました。この問題は大きく二つの側面を持っています。

1. 取引上の問題: 報酬の未払い・減額、一方的な契約変更、不当な契約解除など、発注者との力関係の不均衡から生じるトラブルが多発していました。内閣官房の実態調査(2020年)では、フリーランスの約4割が取引上のトラブルを経験したと回答しています。

2. 安全衛生上の問題: 建設現場や工場で雇用労働者と同じ危険にさらされながら、安全衛生措置の対象外とされてきました。厚生労働省の報告(2023年)によると、建設業の死亡災害のうち一人親方が約3割を占めるという深刻な実態があります。

こうした二つの課題に対応するために、フリーランス新法と安衛法改正という異なるアプローチの法整備が並行して進められたのです。

二つの法律が目指すもの

フリーランス新法と安衛法改正は、いわば個人事業者保護の「両輪」として機能することが意図されています。

  • フリーランス新法: 取引関係における個人事業者の権利を守る(経済的保護)
  • 安衛法改正: 作業現場における個人事業者の生命・身体を守る(安全衛生保護)

前者は公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が共管し、後者は厚生労働省が所管しています。管轄が一部重なることからも、両法律が相互に補完し合う関係にあることがわかります。

フリーランス新法(フリーランス保護法)の概要

法律の正式名称と基本情報

フリーランス新法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。2023年5月12日に公布され、2024年11月1日に施行されました。

項目内容
正式名称特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
通称フリーランス新法、フリーランス保護法
公布日2023年5月12日
施行日2024年11月1日
所管公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省
目的フリーランスとの取引の適正化、就業環境の整備

保護の対象となる「特定受託事業者」

フリーランス新法で保護されるのは「特定受託事業者」、すなわち従業員を使用しない個人事業者または一人法人です。一方、発注者側は「特定業務委託事業者」(従業員を使用する事業者)と「業務委託事業者」(従業員を使用しない事業者を含む)に分類され、それぞれに課される義務の範囲が異なります。

主な規定内容

フリーランス新法の主な規定は以下の通りです。

1. 取引条件の明示義務(第3条) 業務委託をする際、報酬額・支払期日・業務内容などの取引条件を書面またはデジタルで明示することが義務づけられました。

2. 報酬支払いの適正化(第4条) 発注者は、成果物の受領日から60日以内に報酬を支払わなければなりません。

3. 禁止行為の規定(第5条) 一定期間以上の業務委託において、以下の7つの行為が禁止されています。

  • 受領拒否
  • 報酬の減額
  • 返品
  • 買いたたき
  • 購入・利用強制
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 不当な給付内容の変更・やり直し

4. 募集情報の的確表示(第12条) フリーランスを募集する際の広告等について、虚偽・誤解を招く表示が禁止されています。

5. ハラスメント防止措置(第14条) 特定業務委託事業者には、フリーランスに対するハラスメント防止のための体制整備が義務づけられています。

6. 中途解約の事前予告(第16条) 6か月以上の継続的業務委託を中途解約する場合、原則として30日前までの事前予告が必要です。

安衛法改正(2026年4月施行)の概要

個人事業者に関する改正の基本情報

2025年5月14日に公布された「労働安全衛生法等の一部を改正する法律」のうち、個人事業者保護に関する規定は2026年4月1日に施行されます。

項目内容
改正法名労働安全衛生法等の一部を改正する法律
公布日2025年5月14日
施行日2026年4月1日(個人事業者関連)
所管厚生労働省
目的個人事業者の安全衛生措置の対象拡大、危険有害業務からの保護

保護の対象

改正安衛法の保護対象は、従来の「労働者」に加えて、同じ作業場所で作業を行う個人事業者(一人親方・フリーランス等)に拡大されます。特に、建設業・製造業・運送業など、危険有害業務に従事する個人事業者の保護が重点となっています。

主な規定内容

1. 注文者・元方事業者の安全衛生措置の対象拡大 これまで「労働者」のみを対象としていた安全衛生措置(安全衛生教育、危険防止措置、作業環境管理等)の対象が、同じ場所で作業する個人事業者にも拡大されます。

2. 事故報告義務の新設 個人事業者が作業中に死亡または重篤な負傷を負った場合、注文者(発注者)に事故報告義務が課されます。従来は労働者の労災のみが報告対象でしたが、個人事業者の事故も把握・分析できるようになります。

3. 個人事業者自身の義務 個人事業者にも、以下の義務が新たに課されます。

  • 安全衛生教育の受講義務: 危険有害業務に従事する場合、必要な安全衛生教育を受けること
  • 保護具の使用義務: 作業の危険性に応じた保護具を適切に使用すること
  • 作業に関する遵守事項の順守: 元方事業者が定めた作業ルールに従うこと

4. 危険有害業務の就業制限 一定の危険有害業務については、必要な資格・技能を有しない個人事業者は就業できないとする就業制限の規定が設けられます。

フリーランス新法と安衛法改正の比較

二つの法律の違いを正しく理解することが、適切な対応の第一歩です。

比較項目フリーランス新法安衛法改正(個人事業者関連)
施行日2024年11月1日2026年4月1日
目的取引の適正化・就業環境の整備安全衛生措置の対象拡大
保護の領域経済的権利(報酬・契約)生命・身体の安全
対象となるフリーランス従業員を使用しない個人事業者・一人法人同じ場所で作業する個人事業者
対象業種全業種全業種(特に建設・製造・運送等)
発注者の義務条件明示、報酬支払い、ハラスメント防止等安全措置、事故報告、安全教育の提供等
個人事業者の義務なし(保護を受ける側)安全教育受講、保護具使用等
監督機関公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省厚生労働省(労働基準監督署)
違反時の措置勧告・命令・公表、罰金(50万円以下)行政指導・改善命令、罰則(安衛法に準拠)

重なる部分と補い合う部分

二つの法律は対象が部分的に重なります。たとえば、工場で業務委託として働くフリーランスは、フリーランス新法による取引保護と、安衛法改正による安全衛生保護の両方の対象となり得ます。

一方、重ならない部分もあります。

  • フリーランス新法のみが適用される場面: 在宅でデザインやライティングを行うフリーランスなど、安全衛生上の危険が比較的少ない業務(取引条件の明示や報酬保護は適用される)
  • 安衛法改正のみが適用される場面: 法人成りした一人親方など、フリーランス新法の「特定受託事業者」に該当しないケースでも、安衛法の保護対象にはなり得る

このように、一方の法律だけでは個人事業者の保護は完結しないという点が重要です。

事業者(発注者)が対応すべきことの整理

フリーランス新法への対応(すでに施行中)

フリーランス新法は2024年11月にすでに施行されています。個人事業者に業務を委託する事業者は、以下の対応が求められます。

  • 契約書・発注書の整備: 業務内容、報酬額、支払期日、納期等を書面またはデジタルで明示する
  • 報酬支払いフローの確認: 成果物受領から60日以内の支払いが遵守されているか点検する
  • ハラスメント防止体制の構築: フリーランスに対するハラスメントの相談窓口の設置・対応方針の策定
  • 契約解除手続きの見直し: 6か月以上の継続的業務委託については、30日前予告のルールを徹底する

安衛法改正への対応(2026年4月までに準備)

安衛法改正の施行は2026年4月です。建設業・製造業をはじめ、個人事業者と同じ場所で作業する事業者は、以下の準備が必要です。

  • 安全衛生教育の提供体制の整備: 個人事業者にも安全衛生教育を提供する仕組みを構築する
  • 安全衛生措置の対象拡大: 安全衛生計画やリスクアセスメントの対象に、個人事業者を含める
  • 事故報告体制の構築: 個人事業者の事故が発生した場合の報告フローを整備する
  • 保護具の確認: 個人事業者が適切な保護具を使用しているか確認する仕組みをつくる

両方の法律に共通する視点

二つの法律への対応を別々に進めるのではなく、統合的に管理することが効率的です。たとえば、個人事業者との契約書に安全衛生に関する条項を盛り込む、フリーランス受入れ時のオリエンテーションに取引条件の説明と安全衛生教育を組み合わせる、といった方法が考えられます。

厚生労働省は、フリーランス新法と安衛法改正の両方について、事業者向けのガイドラインやQ&Aを公表しています。定期的に最新情報を確認し、社内体制に反映させることが推奨されます。

よくある質問

Q: うちの会社は小規模ですが、フリーランス新法と安衛法改正の両方に対応する必要がありますか?

A: フリーランス新法は、従業員を1人でも使用する事業者がフリーランスに業務委託する場合に適用されます。安衛法改正は、個人事業者と同じ場所で作業する場合に安全衛生措置が求められます。企業規模に関わらず、フリーランスとの取引や共同作業がある場合は対応が必要です。

Q: フリーランスとして働いていますが、自分にも義務はありますか?

A: フリーランス新法では、フリーランス側に特段の義務は課されていません。一方、安衛法改正では、危険有害業務に従事する個人事業者に安全衛生教育の受講義務や保護具の使用義務が新たに課されます。自分が従事する業務の性質に応じて、必要な対応を確認しましょう。

Q: 二つの法律に違反した場合、どのような罰則がありますか?

A: フリーランス新法では、勧告・命令に従わない場合に50万円以下の罰金が科されます。安衛法違反については、違反内容に応じて6か月以下の懲役または50万円以下の罰金などが科される可能性があります。いずれも、違反企業名の公表という社会的制裁も想定されています。労働安全衛生法の罰則と違反リスクについて詳しく解説した記事もあわせてご確認ください。

まとめ

フリーランス新法と安衛法改正は、個人事業者保護という共通の課題に対して、それぞれ異なるアプローチで応えるものです。

  • フリーランス新法(2024年11月施行)は、取引の適正化と就業環境の整備を通じて、フリーランスの経済的権利を守ります
  • 安衛法改正(2026年4月施行)は、安全衛生措置の対象拡大を通じて、個人事業者の生命・身体を守ります
  • 二つの法律は補完関係にあり、事業者はその両方への対応が求められます

今後も、個人事業者の保護に関する法整備は進んでいくと考えられます。2024年の「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針」でも、多様な働き方に対応した法制度の整備が重要課題として位置づけられています。厚生労働省のガイドラインや通達を注視しながら、自社の体制を継続的に見直していくことが重要です。

立ち仕事のミカタでは、2026年安衛法改正の全体像個人事業者・フリーランスも安衛法の対象になる改正の要点など、関連する法改正情報を多数掲載しています。あわせてご活用ください。

参考文献

  1. デジタル庁, 「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号), https://www.digital.go.jp/laws/freelance-act
  2. 厚生労働省, 「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html
  3. 厚生労働省, 「労働安全衛生法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第20号), 2025年5月14日公布
  4. 厚生労働省, 「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会 報告書」, 2023年
  5. 内閣官房, 「フリーランス実態調査結果」, 2020年, https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_koyou/
  6. 公正取引委員会, 「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」, 2021年3月
  7. 厚生労働省, 「令和5年 労働災害発生状況」, 2024年

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