【海外のフリーランス安全衛生保護】|EU・英国・豪州の制度と日本の改正を比較

フリーランスや個人事業者の安全衛生は、海外でどのように保護されているのでしょうか。日本では2026年の労働安全衛生法改正により、個人事業者が新たに保護対象となりますが、この動きは世界的に見ると決して早いものではありません。EU、英国、豪州、韓国では、すでに雇用形態を問わない安全衛生保護の枠組みが整備されています。
本記事では、各国の制度を比較しながら、日本の改正が国際的にどう位置づけられるのかを解説します。立ち仕事をはじめとする現場作業に従事するフリーランスの方、そしてフリーランスに業務を委託する企業の方にとって、知っておきたい世界の潮流をお伝えします。
この記事でわかること
- フリーランス・個人事業者の安全衛生保護に関する海外主要国(EU・英国・豪州・韓国)の制度概要
- 各国の保護対象範囲、義務の主体、罰則の強度の違い
- 日本の2026年安衛法改正が国際的にどのような位置づけにあるか
- 立ち仕事の現場で働くフリーランスにとっての実務的な意味合い
フリーランスの安全衛生保護が世界的課題となった背景
近年、世界的にフリーランスや個人事業者として働く人が増加しています。EU域内ではプラットフォームワーカーが2022年時点で約2,800万人に達し(欧州委員会, 2024)、日本でもフリーランス人口は推計462万人(内閣官房, 2020)とされています。
しかし、従来の労働安全衛生法制は「雇用関係」を前提に設計されてきました。雇用主が労働者を保護するという枠組みでは、フリーランスや個人事業者は制度の隙間に置かれることになります。
製造現場や建設現場、医療・介護の現場で長時間の立ち仕事に従事するフリーランスも、雇用労働者と同じ身体的リスクにさらされています。にもかかわらず、安全衛生教育や健康診断、作業環境管理などの保護を受けられないケースが少なくありませんでした。
こうした「保護のギャップ」を埋めるべく、各国は制度改革を進めています。以下、主要国の取り組みを見ていきましょう。
各国のフリーランス安全衛生保護制度を比較する
EU:プラットフォーム労働指令と安全衛生指令の拡大
EUでは、2024年にプラットフォーム労働指令(Platform Work Directive)が欧州議会で採択されました。この指令の主な目的は、プラットフォームを介して働く人々の雇用上の地位を正しく分類し、偽装自営業(bogus self-employment)を防止することにあります。
重要なのは、自営業者であっても、EU労働安全衛生枠組み指令(89/391/EEC)の一部が適用される方向で議論が進んでいる点です。欧州委員会は2023年の戦略的枠組み(Strategic Framework on Health and Safety at Work 2021–2027)において、雇用形態を問わない安全衛生保護の重要性を強調しています。
具体的には、以下の点がポイントです。
- プラットフォーム企業に対し、作業に伴うリスクアセスメントの実施を義務付け
- アルゴリズムによる労務管理が心身の健康に与える影響への対処を要求
- 加盟国に対し、自営業者を含む安全衛生保護の法制化を推奨
EUの特徴は、個別の国ごとの法制度に加え、EU全体として統一的な保護基準を設定しようとしている点にあります。
英国:Health and Safety at Work Act 1974の自営業者規定
英国の労働安全衛生の基本法であるHealth and Safety at Work Act 1974(HSWA 1974)は、制定当初から自営業者(self-employed persons)にも一定の義務を課してきた点で、先駆的な制度として知られています。
HSWA 1974の第3条は、自営業者に対して以下の義務を定めています。
- 自身の安全と健康に対する合理的な配慮義務
- 自身の事業活動によって影響を受ける他者(同僚、通行人、顧客等)の安全と健康に対する配慮義務
さらに、2015年の法改正(Deregulation Act 2015)により、他者にリスクを及ぼさない自営業者は一部の義務が免除される整理が行われましたが、建設業や製造業など、他者へのリスクが生じうる業種では依然として全面的な義務が適用されます。
英国安全衛生庁(HSE: Health and Safety Executive)は、自営業者向けのガイダンスも積極的に公開しており、業種別のリスクアセスメントツールを無償で提供しています(HSE, 2024)。
豪州:PCBU概念による雇用形態を問わない保護
オーストラリアの**Work Health and Safety Act 2011(WHS Act)**は、世界的にも先進的な枠組みとして注目されています。その最大の特徴は、PCBU(Person Conducting a Business or Undertaking:事業遂行者)という概念を導入した点です。
従来の「雇用主(employer)」に代わるPCBUという概念により、雇用形態にかかわらず、事業を遂行するすべての者が安全衛生上の義務を負うことになりました。
PCBUの義務には以下が含まれます。
- 労働者(workers)およびその他の影響を受ける者の安全と健康を確保する一次的注意義務(primary duty of care)
- 適切な作業環境、設備、情報、教育訓練の提供
- 健康モニタリングの実施
- リスクアセスメントとリスク管理措置の実施
ここでいう「労働者(workers)」には、従業員だけでなく、請負業者、下請業者、ボランティア、職場体験者なども含まれます(Safe Work Australia, 2023)。つまり、フリーランスとして現場に入る個人事業者も、PCBUである元請企業の安全配慮義務の対象となるのです。
罰則も厳格で、義務違反による死亡事故の場合、個人に対して最大20年の禁固刑、法人に対して最大約1,800万豪ドル(約18億円)の罰金が科される可能性があります。
韓国:重大災害処罰法による刑事責任の強化
韓国では2022年1月に重大災害処罰法(重大災害処罰等に関する法律)が施行されました。この法律は、重大な労働災害(死亡事故等)が発生した場合に、事業主や経営責任者に対して直接的な刑事責任を問うもので、東アジアにおける画期的な法制度として国際的にも注目されています。
同法の特徴は以下のとおりです。
- 従業員5人以上の事業場に適用(2024年から全事業場に拡大)
- 重大災害により死亡者が発生した場合、経営責任者に1年以上の懲役または10億ウォン(約1億円)以下の罰金
- 個人事業者が被災した場合も、発注者・元請企業の責任が問われうる
特に建設業や製造業の現場では、下請けの個人事業者が死亡事故に遭うケースが問題視されてきました。重大災害処罰法は、こうした現場の構造的問題に対し、経営トップの責任を直接追及するという強い姿勢を示しています。
施行から2年を経て、韓国の産業災害による死亡者数は減少傾向を見せており(韓国雇用労働部, 2024)、法の抑止力が一定程度機能しているとの評価もあります。
各国制度の比較一覧
| 項目 | EU | 英国 | 豪州 | 韓国 | 日本(2026年改正後) |
|---|---|---|---|---|---|
| 主要法令 | 労働安全衛生枠組み指令+プラットフォーム労働指令 | Health and Safety at Work Act 1974 | Work Health and Safety Act 2011 | 重大災害処罰法(2022年) | 労働安全衛生法(2026年改正) |
| 自営業者の保護 | 加盟国に法制化を推奨。指令で一部義務化の方向 | 制定当初から自身と他者への安全配慮義務あり | PCBU概念で雇用形態を問わず全面的に保護 | 重大災害時に発注者・元請に刑事責任 | 個人事業者を保護対象に追加 |
| 義務の主体 | プラットフォーム企業・事業者 | 自営業者自身+関連事業者 | PCBU(事業遂行者) | 経営責任者・事業主 | 注文者・元方事業者+個人事業者自身 |
| 罰則の強度 | 加盟国の国内法による | 無制限の罰金+禁固刑(最大2年) | 禁固刑(最大20年)+罰金(最大約18億円) | 懲役1年以上+罰金最大約1億円 | 罰則規定あり(詳細は政省令で規定) |
| 特徴的な概念 | 偽装自営業の防止、アルゴリズム管理規制 | 「他者へのリスク」基準での義務範囲設定 | PCBU・一次的注意義務 | 経営責任者の直接的刑事責任 | 個人事業者への安全衛生教育・健康診断の拡大 |
| 制度の歴史 | 2024年指令採択(枠組み指令は1989年) | 1974年から自営業者を包含 | 2011年に統一法制定 | 2022年施行 | 2026年施行予定 |
日本の2026年改正は国際的にどう位置づけられるか
各国の制度を俯瞰すると、日本の2026年安衛法改正は「先進国の中では比較的後発」と位置づけられます。英国が1974年から、豪州が2011年から、自営業者を安全衛生保護の対象としてきたのに対し、日本は2026年にようやくこの一歩を踏み出すことになります。
しかし、「後発」であることは必ずしも否定的に捉えるべきではありません。日本の改正には以下の意義があります。
各国の経験を踏まえた制度設計
先行する各国の制度運用における課題や成功事例を参考にできる立場にあります。たとえば、豪州のPCBU概念は高く評価される一方で、中小事業者の実務負担が大きいという指摘もあります(Safe Work Australia, 2023)。日本の改正では、こうした知見を踏まえた実効性のある制度設計が期待されます。
フリーランス保護の総合的な法整備
日本では、2024年11月施行のフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)に続く形で安衛法改正が進められており、取引条件の適正化と安全衛生保護を一体的に推進する流れが形成されています。これは国際的にも注目される包括的アプローチです。
立ち仕事の現場への影響
製造業や建設業、医療・介護の現場で働くフリーランスにとって、今回の改正は大きな意味を持ちます。長時間の立ち仕事による腰痛や下肢の障害は、雇用形態にかかわらず発生するリスクです。改正により、注文者や元方事業者がフリーランスに対しても作業環境の改善や安全衛生教育を行う義務が生まれることで、保護の実質化が進むことが期待されます。
今後の展望
フリーランスの安全衛生保護は、各国とも「進行中」の課題です。今後の注目点として、以下が挙げられます。
ILO(国際労働機関)の動向として、2025年にはすべての労働者への安全衛生保護拡大に向けた新たなガイドラインの策定が議論されています(ILO, 2024)。日本を含む加盟国への影響が注目されます。
テクノロジーの活用として、豪州ではウェアラブルデバイスを用いた個人事業者の健康モニタリングの試験的導入が進んでいます。フリーランスは定期健康診断を受ける機会が限られるため、IoT技術を活用したセルフモニタリングの普及が鍵となるでしょう。
日本の施行に向けた準備として、2026年の施行に向け、厚生労働省は具体的な政省令やガイドラインの策定を進めています。特に、フリーランスへの安全衛生教育の内容や健康診断の実施方法について、実務的な基準が示される見込みです。
立ち仕事の現場で働くフリーランスの方は、自身の安全衛生を守るための知識として、そして業務を委託する企業の方は、新たな義務への対応準備として、各国の動向を把握しておくことが重要です。
まとめ
フリーランス・個人事業者の安全衛生保護は、世界的に制度整備が進む重要な課題です。英国は50年以上前から自営業者を保護対象とし、豪州はPCBU概念で雇用形態を問わない包括的な保護を実現しています。EUはプラットフォーム労働指令で新たな枠組みを構築し、韓国は経営責任者への刑事責任という強力な抑止力を導入しました。
日本の2026年安衛法改正は、国際的には後発ですが、各国の経験を踏まえた実効性のある制度設計が可能な立場にあります。立ち仕事をはじめとする現場作業に従事するフリーランスの方々の安全と健康が、雇用形態にかかわらず守られる社会の実現に向けて、今後の制度運用を注視していく必要があります。
参考文献
- European Commission, “Proposal for a Directive on improving working conditions in platform work,” 2024. https://ec.europa.eu/social/main.jsp?catId=1415&langId=en
- European Commission, “EU Strategic Framework on Health and Safety at Work 2021–2027,” 2021. https://ec.europa.eu/social/main.jsp?catId=151
- UK Health and Safety Executive (HSE), “Self-employed: what you need to do,” 2024. https://www.hse.gov.uk/self-employed/
- UK Government, “Health and Safety at Work etc. Act 1974,” https://www.legislation.gov.uk/ukpga/1974/37
- Safe Work Australia, “Model Work Health and Safety Laws,” 2023. https://www.safeworkaustralia.gov.au/law-and-regulation/model-whs-laws
- 韓国雇用労働部, 「重大災害処罰法施行2年の成果と課題」, 2024.
- ILO, “Global Strategy on Occupational Safety and Health,” 2024. https://www.ilo.org/safework
- 内閣官房, 「フリーランス実態調査結果」, 2020. https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/freelance/
- 厚生労働省, 「労働安全衛生法の改正について」, 2025. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/

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