【2026年労衛法改正で話題】ギグワーカーが直面する労働安全衛生のリスクとは?

【2026年労衛法改正で話題】ギグワーカーが直面する労働安全衛生のリスクとは? | 立ち仕事のミカタ | アルケリス株式会社

ギグワーカーの労働安全衛生をどう守るか。フードデリバリーの配達員、配車サービスのドライバー、クラウドソーシングで単発の仕事を請け負うワーカー――プラットフォームを介して働く人々が世界的に急増しています。しかし、こうした働き手の多くは、労働法上の「労働者」に該当せず、労働安全衛生の保護が十分に及ばないという深刻な課題を抱えています。

EUでは2024年に「プラットフォーム労働指令」が採択され、日本でも2024年のフリーランス新法施行や2026年の安衛法改正により、個人事業者への保護が拡大しつつあります。本記事では、ギグワーカーを取り巻く労働安全衛生の課題と、世界各国で進む保護の動向を整理します。

この記事でわかること

  • ギグワーカー・プラットフォームワーカーの定義と増加の背景
  • ギグワーカーが直面する労働安全衛生上のリスク
  • EU・英国・豪州・韓国など各国のギグワーカー保護の最新動向
  • 日本のフリーランス新法・安衛法改正との関係
  • プラットフォーム企業に求められる安全衛生上の責任

ギグワーカーの労働安全衛生が問われる背景

ギグワーカー・プラットフォームワーカーとは

ギグワーカーとは、単発・短期の仕事(ギグ)を請け負って働く就業者を指します。中でも、デジタルプラットフォーム(アプリやWebサイト)を介して仕事を受注する働き手は「プラットフォームワーカー」と呼ばれます。

代表的な例としては、以下のような働き方があります。

  • フードデリバリー: Uber Eats、出前館等のアプリで配達を行う配達員
  • 配車サービス: ライドシェアのドライバー
  • クラウドソーシング: データ入力、ライティング、デザイン等をオンラインで受注するワーカー
  • 家事代行・スポットワーク: 清掃、引越し手伝い等をマッチングアプリで請け負うワーカー

国際労働機関(ILO)の報告(2021)によると、世界のデジタルプラットフォーム数は過去10年で約5倍に増加し、プラットフォームを介して働く人々の数も急速に拡大しています。日本国内でも、フードデリバリー市場の拡大や副業解禁の流れを背景に、ギグワーカーとして働く人が増加傾向にあります。

「労働者」と「個人事業者」の狭間に置かれた存在

ギグワーカーの労働安全衛生をめぐる最大の課題は、従来の労働法の枠組みが想定していない働き方であるという点です。

多くの国の労働法は、「使用者(雇用主)」と「労働者(被雇用者)」の二者関係を前提に設計されています。労働安全衛生法も同様で、事業者が雇用する労働者に対して安全衛生措置を講じることが基本的な構造です。

しかし、ギグワーカーの多くは法律上「個人事業者」として扱われます。プラットフォーム企業は「仕事を仲介しているだけで、雇用関係にはない」という立場をとることが多く、その結果として以下のような保護の空白が生じています。

  • 労災保険の適用外: 業務中の事故でも労災保険が適用されない(日本では特別加入制度あり)
  • 安全衛生教育の機会がない: 事業者による安全衛生教育が行われない
  • 健康診断の対象外: 定期健康診断を受ける機会が提供されない
  • 長時間労働の規制が及ばない: 労働時間の上限規制が適用されない

ギグワーカー特有の労災リスク

ギグワーカーが直面する労働安全衛生上のリスクは、従来の雇用労働者とは異なる特徴を持っています。

交通事故リスク

フードデリバリーの配達員や配車サービスのドライバーにとって、交通事故は最も深刻なリスクです。厚生労働省の調査(2024年)によると、フードデリバリー配達員の業務中の事故は、自転車・バイクによる交通事故が大部分を占めています。

プラットフォームのアルゴリズムが配達時間の短縮を促す仕組みになっている場合、配達員がスピードを出しすぎたり、交通ルールを軽視したりするインセンティブが働きやすいという指摘もあります。欧州労働安全衛生機関(EU-OSHA, 2022)は、アルゴリズムによる業務管理がワーカーの安全行動に影響を及ぼすリスクについて報告しています。

過重労働と疲労

ギグワーカーの収入は出来高制であることが多く、十分な収入を得るために長時間・連続して働く傾向があります。休憩を取る明確なルールもなく、休日の保障もありません。

立ち仕事や移動を伴うギグワークでは、長時間の立位や運転、荷物の持ち運びが続くことで、筋骨格系障害(MSDs: Musculoskeletal Disorders)のリスクが高まります。特にフードデリバリーの配達員は、待機時間中の長時間立位、重い荷物の運搬、自転車やバイクの繰り返し乗降など、身体的負担が大きい作業を日常的に行っています。

孤立した就業環境とメンタルヘルス

ギグワーカーは基本的に一人で就業するため、困ったときに相談できる同僚や上司がいません。プラットフォーム上の評価システムによるプレッシャーや、収入の不安定さは、精神的なストレスの要因にもなります。

Urzìらの研究(2021)は、プラットフォームワーカーが社会的孤立やストレスを感じやすく、メンタルヘルスの問題を抱えるリスクが高いことを報告しています。

各国で進むギグワーカー保護の動向

世界各国で、ギグワーカーの権利保護に向けた法整備が加速しています。

国・地域主な施策施行年ポイント
EUプラットフォーム労働指令2024年採択一定条件でプラットフォームワーカーを「労働者」と推定。立証責任を企業側に転換
英国最高裁判決(Uber事件)2021年Uberドライバーを「worker」(労働者に準じる地位)と認定。最低賃金・有給休暇等の権利を付与
豪州ギグワーカー保護法制2024年独立契約者の最低基準を設定。不公正な契約条件からの保護を強化
韓国プラットフォーム労働者保護法案審議中プラットフォーム企業に労災保険の加入義務等を検討
日本フリーランス新法+安衛法改正2024〜2026年フリーランスの取引適正化と、個人事業者への安衛法の保護拡大を段階的に実施

EU「プラットフォーム労働指令」の衝撃

2024年に欧州議会で採択されたEU「プラットフォーム労働指令」(Platform Work Directive)は、ギグワーカー保護の国際的な潮流を象徴する法制度です。

この指令の最大の特徴は、「雇用推定(employment presumption)」の導入です。プラットフォーム企業がワーカーの業務遂行に一定の管理・支配を行っている場合、そのワーカーは「労働者」と推定されます。これにより、プラットフォーム企業が「ワーカーは独立した個人事業者である」と主張する場合、企業側がそれを証明する責任を負うことになります。

EU加盟国は指令採択から2年以内に国内法化する義務があり、2026年以降、EU全域でプラットフォームワーカーの労働者性の判断基準が統一されていく見通しです。この動きは、労働安全衛生の観点からも大きな意味を持ちます。ワーカーが「労働者」と認定されれば、事業者は安全衛生措置を講じる義務を負い、労災保険の適用も受けられるようになるためです。

英国・豪州の実践

英国では、2021年の最高裁判決(Uber BV v Aslam)が大きな転機となりました。Uberドライバーを「worker」(労働者に準じる中間的な地位)と認定し、最低賃金、有給休暇、年金拠出等の権利が認められました。この判決以降、英国のプラットフォーム企業の多くがワーカーの処遇改善に動いています。

オーストラリアでは、2024年に成立した法改正により、ギグワーカーを含む独立契約者の最低基準が新たに設定されました。不公正な契約条件を禁止し、紛争解決の仕組みを整備することで、プラットフォームワーカーの保護を強化しています。

日本における保護の現状と法整備の動き

フリーランス新法(2024年11月施行)

2024年11月に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称: フリーランス新法)は、フリーランスとの取引における適正化を目的とした法律です。

この法律は、発注者に対して報酬の支払い条件の明示や、不当な報酬減額の禁止等を義務づけるものであり、労働安全衛生を直接的に規定するものではありません。しかし、フリーランスの取引環境を改善することで、過度なコストプレッシャーによる安全衛生の軽視を防ぐ間接的な効果が期待されています。

2026年安衛法改正と個人事業者保護の拡大

日本において、ギグワーカーの安全衛生に最も直接的に関わるのが、2026年4月施行の改正労働安全衛生法です。この改正では、これまで保護の対象外とされてきた個人事業者(フリーランス、一人親方等)にも安衛法の保護が及ぶようになります。

具体的には以下の点が重要です。

  • 元方事業者の措置義務の拡大: 混在作業場所における個人事業者への安全措置が義務化
  • 個人事業者の労災事故報告義務: 業務中の事故を報告する義務が新設
  • 危険・有害業務の安全衛生教育受講義務: 個人事業者自身にも教育を受ける義務

ギグワーカーの多くは個人事業者として活動しているため、この法改正はギグワーカーの安全衛生保護にとっても重要な意味を持ちます。ただし、フードデリバリーの配達員のように、特定の作業場所に常駐するわけではないギグワーカーに対して、この法改正がどこまで実効性を持つかは、今後の運用と解釈に委ねられる部分もあります。

プラットフォーム企業の安全衛生責任はどこまでか

ギグワーカーの労働安全衛生を考える上で避けて通れない問いが、「プラットフォーム企業はどこまで安全衛生の責任を負うべきか」というものです。

プラットフォーム企業は、ワーカーとの関係を「雇用」ではなく「業務委託」や「マッチング」と位置づけることが一般的です。しかし、実態として以下のような管理・支配を行っている場合、単なる仲介者とは言い切れないとの見方が国際的に広がっています。

  • 報酬額の一方的な決定: ワーカーが報酬を自由に設定できない
  • アルゴリズムによる業務管理: 配達ルートの指定、応答率に基づく仕事の割り振り
  • 評価・ペナルティシステム: 低評価によるアカウント停止等の不利益処分
  • 服装・機材の指定: 制服やロゴ入りバッグの使用を求める

EU-OSHA(2022)は、プラットフォーム企業がアルゴリズムを通じてワーカーの業務遂行に実質的な影響を及ぼしている場合、安全衛生上の責任も認められるべきだと指摘しています。

今後、日本においても、プラットフォーム企業の安全衛生責任をどこまで認めるかという議論が、法改正の運用や裁判例の蓄積を通じて具体化していくことが予想されます。

立ち仕事の現場とギグワーカーの接点

ギグワーカーの安全衛生問題は、一見すると「立ち仕事」とは直接関係がないように思えるかもしれません。しかし、実際にはさまざまな接点があります。

フードデリバリーの配達員は、注文の待機時間中に長時間立ったままの姿勢を強いられることがあります。家事代行やスポットワークで清掃・調理等の立ち仕事を行うギグワーカーも少なくありません。倉庫でのピッキング作業をギグワーク形式で請け負うケースも増えています。

こうしたギグワーカーは、立ち仕事による身体的負担(腰痛、下肢の疲労、静脈瘤等)のリスクを抱えながらも、雇用労働者であれば受けられるはずの安全衛生教育や健康管理の機会が限られています。

アルケリスでは、立ち仕事に伴う身体的負担の軽減を研究・実践してきた知見をもとに、雇用形態を問わずすべての立ち仕事をする方の健康を守る情報を発信しています。ギグワーカーの増加という社会的変化の中で、働き方にかかわらない安全衛生の保障がますます重要になっています。

まとめ

ギグワーカー・プラットフォームワーカーの増加は、労働安全衛生の枠組みに根本的な問い直しを迫っています。EUのプラットフォーム労働指令に見られるように、「雇用関係がなければ保護しない」という従来の考え方は世界的に転換しつつあります。

日本でも、2024年のフリーランス新法施行と2026年の安衛法改正により、個人事業者への保護が着実に拡大しています。しかし、プラットフォームを介した柔軟な働き方に対して、既存の法制度がどこまで実効的に機能するかは、今後の課題です。

重要なのは、雇用形態にかかわらず、働くすべての人の安全と健康が守られるべきという原則です。ギグワーカーの安全衛生保護の動向は、立ち仕事を含むあらゆる現場で働く人にとって、注目すべきテーマであり続けるでしょう。

※本記事は2025年7月時点の情報に基づいています。各国の法制度は今後変更される可能性がありますので、最新情報をご確認ください。

参考文献

  1. International Labour Organization (ILO), “World Employment and Social Outlook 2021: The role of digital labour platforms in transforming the world of work,” 2021. https://www.ilo.org/global/research/global-reports/weso/2021/lang–en/index.htm
  2. European Agency for Safety and Health at Work (EU-OSHA), “Digital platform work and occupational safety and health: a review,” 2022. https://osha.europa.eu/en/publications/digital-platform-work-and-occupational-safety-and-health-review
  3. European Parliament, “Directive on improving working conditions in platform work,” 2024. https://www.europarl.europa.eu/
  4. UK Supreme Court, “Uber BV and others v Aslam and others [2021] UKSC 5,” 2021.
  5. 厚生労働省, 「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会 報告書」, 2023年. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33854.html
  6. 厚生労働省, 「フリーランスとして安全に働くために(安全衛生対策等について)」, 2024年. https://www.mhlw.go.jp/
  7. 内閣官房, 「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)」, 2024年. https://www.cas.go.jp/
  8. Urzì Brancati, M.C., Pesole, A., & Fernández-Macías, E., “New evidence on platform workers in Europe,” European Commission, JRC, 2020. https://publications.jrc.ec.europa.eu/
  9. 厚生労働省, 「令和6年版 労働経済の分析」, 2024年.

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