【2人に1人が慢性的な腰痛を経験】ホテル客室清掃員の筋骨格系障害|2023年メタ分析が示すリスクの実態

【2人に1人が慢性的な腰痛を経験】ホテル客室清掃員の筋骨格系障害|2023年メタ分析が示すリスクの実態 | 立ち仕事のミカタ | アルケリス株式会社

「ホテルの客室清掃は、身体にどれほどの負担がかかっているのか」——この疑問に対して、科学的なエビデンスで答えを出した研究があります。

2023年に発表されたシステマティックレビュー(複数の研究を統合して分析する手法)では、世界中のホテル清掃員を対象とした研究を網羅的に収集・分析し、筋骨格系障害(MSDs: Musculoskeletal Disorders)の有病率を明らかにしました。その結果は、ホテル業界で働くすべての人にとって見過ごせない内容です。

この記事でわかること

  • ホテル清掃員の筋骨格系障害に関するメタ分析の概要
  • 身体部位別の障害有病率(腰・肩・手首など)
  • 慢性的な痛みの実態と労働条件との関係
  • 研究結果から導かれる実務への示唆

ホテル清掃員の健康問題が注目される背景

ホテル業界において、客室清掃員(ハウスキーパー)は最も身体的負荷が大きい職種の一つです。米国の労働統計によると、ホテルの客室清掃員の労働災害発生率は7.9件/100人・年で、ホテル内の他の非管理職と比較して最も高い値を示しています。さらに、筋骨格系の障害に限ると3.2件/100人・年と報告されています。

それにもかかわらず、清掃員の健康問題に対する組織的な対策は十分とは言えません。ある研究では、ホテル清掃員の半数以上が職場でのリスク予防策を日常的に実施していないと報告されています(Hsieh et al., 2022)。

研究の概要

メタ分析とは

メタ分析(meta-analysis)とは、同じテーマについて行われた複数の研究結果を統計的に統合し、より信頼性の高い結論を導き出す手法です。個々の研究よりも大きなサンプルサイズに基づく分析が可能になり、エビデンスの質が高いとされています。

研究の目的

本研究の目的は、ホテル清掃員における筋骨格系障害の有病率を、身体部位別に明らかにすることです。これまで個別に報告されていた研究結果を統合し、包括的な実態把握を行いました。

対象と方法

Ezzatvarらの研究チーム(2023)は、データベース検索により関連する研究を網羅的に収集しました。筋骨格系障害の評価には、標準化北欧式筋骨格系質問票(Standardized Nordic Musculoskeletal Questionnaire) が最も多く使用されており、研究間の比較が可能な標準的なツールとして活用されています。

主な研究結果

身体部位別の有病率

メタ分析の結果、ホテル清掃員で最も障害の有病率が高い部位は以下の通りでした。

身体部位有病率
腰(低背部)53.9%
41.4%
手首・手40.1%
頸部(首)21.6%
記載あり

腰痛が最も多く、約2人に1人が経験しているという結果は、この職種における身体的負担の深刻さを如実に示しています。

慢性痛の実態

Sánchez-Jiménezらの研究(2022)では、ホテル清掃員の健康状態をさらに詳しく調査しています。この研究では以下のことが明らかになりました。

  • 調査対象の清掃員の51%が慢性的な痛みを抱えている
  • 慢性痛の部位:腰部(28.7%)、手首・手(23.7%)、頸部(21.6%)、肩(19.9%)、背中(17.8%)
  • 痛みは、年齢が高いほど勤続年数が長いほど1日のベッドメイキング数が多いほど強くなる傾向

91%が「仕事中に痛みを感じる」

米国ラスベガスのホテルを対象としたKrauseらの大規模調査では、清掃員941名のうち78%が過去12か月間に痛みを経験していました。さらに別の調査(Hospitality Net報道)では、600名以上の清掃員のうち91%が仕事中に痛みを感じていると回答し、66%が鎮痛剤を服用67%が医師の診察を受けていると報告されています。

この研究からわかること・実務への示唆

組織的な対策の必要性

研究結果が示す有病率の高さは、腰痛や筋骨格系障害が「個人の問題」ではなく「職場環境の問題」であることを示唆しています。Hsiehらの研究(2022)では、清掃員自身が筋骨格系障害やストレスを主要な職業上の健康問題として認識しており、身体的に負荷の高い反復作業が原因だと感じていると報告されています。

予防策の導入が急務

しかし、半数以上の清掃員が日常的なリスク予防策を実施していないという実態も明らかになっています。これは、個人の意識の問題というよりも、予防策を実施する時間的・環境的余裕がないという構造的な問題を反映していると考えられます。

具体的な改善の方向性

研究結果を踏まえると、以下の対策が効果的と考えられます。

  • 作業量の適正化: 1シフトあたりの担当室数を見直す
  • 作業手順の改善: ベッドメイキングの手順を人間工学的に最適化する
  • 用具の改善: 軽量な清掃用具、高さ調整可能な用具の導入
  • 教育・研修: 正しい作業姿勢やストレッチの教育を定期的に実施
  • 健康管理体制: 身体の不調を早期に相談・対応できる体制の整備

研究の限界と今後の展望

本メタ分析にはいくつかの限界があります。対象研究の多くが横断的研究(ある一時点での調査)であるため、因果関係を直接証明するものではありません。また、研究間で調査方法や対象者の特性に違いがあるため、結果の一般化には注意が必要です。

今後は、介入研究(具体的な対策を導入して効果を検証する研究)がさらに求められます。どのような対策がどの程度効果的かを科学的に検証することで、より効率的な職場改善が可能になるでしょう。

まとめ

2023年のメタ分析により、ホテル清掃員の腰痛有病率は53.9%、肩の痛みは41.4%、手首・手の障害は40.1%と、いずれも高い水準にあることが改めて確認されました。91%が仕事中に痛みを感じているという調査結果も含め、ホテル業界における筋骨格系障害は深刻な職業上の健康課題です。個人の努力に頼るのではなく、作業量の適正化、用具の改善、教育の充実など、組織的な対策が求められています。

参考文献

  1. Ezzatvar, Y., et al., “Prevalence of musculoskeletal disorders among hotel housekeepers and cleaners: A systematic review with meta-analysis,” Journal of Occupational Health, 2023. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38081106/
  2. Sánchez-Jiménez, E., et al., “Chronic Pain and Work Conditions of Hotel Housekeepers: A Descriptive Study,” International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(7), 2022. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8950313/
  3. Hsieh, Y.C., et al., “Hotel housekeepers and occupational health: experiences and perceived risks,” Annals of Occupational and Environmental Medicine, 34, 2022. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9685295/
  4. Krause, N., et al., “Occupational injury disparities in the US hotel industry,” American Journal of Industrial Medicine, 52(2), 2009. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19593788/
  5. Hospitality Net, “Study: Hotel Housekeeper Work is Dangerous; Majority of Housekeepers Cope with Persistent Pain on the Job,” 2012. https://www.hospitalitynet.org/news/4027190.html
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