【韓国 重大災害処罰法とは?】日本の安衛法との比較でわかるアジア安全衛生の最前線

韓国 重大災害処罰法――この法律の名前を聞いたことはありますか? 2022年1月に施行されたこの法律は、重大な労働災害が発生した場合に経営責任者に懲役1年以上の刑事罰を科すという、世界的にも類を見ない厳格な法律です。産業災害による死亡者が年間800人を超えていた韓国で、「企業トップの責任を明確にしなければ現場は変わらない」という社会的要請から生まれました。
いま、アジア各国で労働安全衛生に関する法規制が急速に強化されています。台湾では職業安全衛生法の改正が進み、シンガポールでは罰則の大幅引き上げが実施されました。日本でも2025年に改正労働安全衛生法が公布され、2026年から順次施行されます。こうした動きは、立ち仕事をはじめとする現場の安全衛生管理に、今後どのような影響を与えるのでしょうか。
本記事では、韓国の重大災害処罰法を軸に、アジア各国の労働安全衛生法制のトレンドと日本への示唆を整理します。
注: 本記事は2025年10月時点の情報に基づいています。各国の法令・運用状況は今後変更される可能性があります。
この記事でわかること
- 韓国の重大災害処罰法の概要と制定背景
- 施行後3年間で見えてきた成果と課題
- 日本の労働安全衛生法との罰則・経営者責任の比較
- 台湾・シンガポール等アジア各国の安全衛生法制の動向
- 日本の2026年安衛法改正がアジアの中でどう位置づけられるか
韓国 重大災害処罰法の概要|なぜ経営者に刑事責任を問うのか
法律の正式名称と基本構造
韓国の「重大災害処罰等に関する法律」(중대재해 처벌 등에 관한 법률)は、2021年1月に制定され、2022年1月27日に施行されました。当初は常時50人以上の労働者を使用する事業場が対象でしたが、2024年1月からは5人以上50人未満の事業場にも適用が拡大されています。
この法律の最大の特徴は、重大な産業災害が発生した際に、安全・保健に関する義務を怠った経営責任者(사업주 또는 경영책임자)個人に刑事責任を問う点にあります。
主な罰則は以下の通りです。
- 死亡事故が発生した場合: 経営責任者に1年以上の懲役または10億ウォン(約1億円)以下の罰金
- 重傷等が発生した場合: 7年以下の懲役または1億ウォン(約1,000万円)以下の罰金
- 法人に対する罰金: 死亡事故の場合、50億ウォン(約5億円)以下の罰金
- 損害賠償: 故意・重過失の場合、損害額の5倍を上限とする懲罰的損害賠償
制定の背景|「危険の外注化」と社会的怒り
韓国でこの法律が制定された背景には、深刻な産業災害の実態と社会的な怒りがありました。
韓国の雇用労働部の統計によると、韓国の産業災害による死亡者数は2020年時点で882人に達していました。人口10万人あたりの労災死亡率は、OECD加盟国の中でもワースト水準が続いていました。
特に社会的衝撃を与えたのが、2018年12月に発生した泰安火力発電所の非正規労働者死亡事故です。下請け企業の24歳の非正規労働者がベルトコンベアに巻き込まれて死亡したこの事件は、「危険の外注化」(위험의 외주화)、すなわち危険な作業を下請けや非正規労働者に押し付ける構造的問題を浮き彫りにしました。
この事故を契機に、経営者が安全管理を怠っても実質的な処罰を受けないという既存の法制度への批判が高まり、与野党を超えた議論を経て重大災害処罰法が成立しました。
経営責任者の義務|4つの安全保健確保義務
重大災害処罰法は、経営責任者に以下の4つの安全保健確保義務を課しています。
- 安全保健管理体制の構築・運営: 専門人材の配置、安全保健に関する業務処理体制の整備
- 予算の編成・執行: 安全保健に必要な人材・施設・装備に対する適正な予算の確保と執行
- 安全保健関連法令の遵守: 産業安全保健法等の法令で定める義務の履行に関する管理上の措置
- 再発防止対策の策定・実施: 重大産業災害が発生した場合の原因調査と再発防止対策の実施
これらの義務は、従来の産業安全保健法が現場の安全管理者に求めていた義務とは根本的に異なり、経営の最上位レベルでの安全への関与を法的に義務づけるものです。
施行後の影響と課題|韓国現場の変化
企業の対応と意識変化
施行後、韓国企業の安全衛生に対する取り組みは大きく変化しました。韓国経営者総協会の調査(2024年)によると、重大災害処罰法の施行後に安全保健への投資を増加させた企業は全体の約70%に達しています。
具体的には以下のような変化が報告されています。
- 安全保健専門人材の採用増: 大企業を中心に、CSO(Chief Safety Officer)を新設する動きが加速
- 安全保健予算の増額: 施行前と比較して平均20〜30%の予算増加
- 下請け管理の強化: 元請企業が下請け労働者の安全管理を直接監督する体制の構築
- 安全教育の拡充: 経営者自身が安全教育を受講する機会の増加
施行後の課題|中小企業への影響と運用上の問題
一方で、施行後3年を経て以下の課題も浮き彫りになっています。
- 中小企業の負担: 50人未満の事業場への適用拡大(2024年)により、安全管理体制の構築コストが中小企業の経営を圧迫しているとの指摘がある
- 「安全の形骸化」への懸念: 処罰回避のために書類上の体制整備に注力し、実質的な安全改善につながっていないケースがある
- 経営者の萎縮効果: 過度な刑事罰への恐れから、企業活動そのものが萎縮するとの経済界からの批判がある
- 立証の困難さ: 経営責任者の義務違反と災害発生の因果関係の立証が困難なケースが多い
韓国の産業災害死亡者数は、施行後も800人台から大幅には減少していないのが現状です(雇用労働部、2024年)。法律の制定だけでは不十分であり、現場レベルでの安全文化の醸成が不可欠であることを示唆しています。
日本の安衛法との比較|罰則と経営者責任の違い
罰則の厳しさ|桁違いの差
韓国の重大災害処罰法と日本の労働安全衛生法を比較すると、罰則の厳しさに大きな差があることがわかります。
| 比較項目 | 韓国(重大災害処罰法) | 日本(労働安全衛生法) |
|---|---|---|
| 死亡事故時の経営者罰則 | 懲役1年以上または罰金10億ウォン(約1億円) | 懲役6月以下または罰金50万円以下(安衛法違反)※ |
| 法人への罰金 | 50億ウォン(約5億円)以下 | 最高1億円(特定の違反行為) |
| 損害賠償 | 懲罰的損害賠償(最大5倍) | 実損害の賠償(民法上の不法行為) |
| 経営者責任の対象 | 経営責任者個人を直接処罰 | 事業者(法人)が主な処罰対象 |
| 安全管理義務の主体 | 経営責任者+安全管理者 | 事業者(総括安全衛生管理者等) |
※ 日本では業務上過失致死傷罪(刑法第211条)により懲役5年以下の処罰が科される場合もあるが、経営者個人が起訴されるケースは限定的。
経営者責任の範囲|「個人」か「法人」か
最も根本的な違いは、経営者個人に対する刑事責任の有無です。
韓国の重大災害処罰法は、「経営責任者等」を法律上定義し、その個人に直接刑事罰を科します。これは、企業内で安全衛生の最終的な意思決定権と予算配分権を持つ者が、その権限に見合った責任を負うべきだという考え方に基づいています。
一方、日本の労働安全衛生法は、主に「事業者」(法人)を義務の主体としています。個人としての事業者や、両罰規定による法人代表者の処罰規定はあるものの、経営者個人が直接的に刑事責任を問われるケースは、重大な法令違反や業務上過失致死傷罪の適用に限られます。
2026年日本の安衛法改正|何が変わるのか
2025年5月に公布された改正労働安全衛生法は、日本の安全衛生法制において重要な前進ですが、韓国型の経営者処罰とは異なるアプローチを採用しています。主な改正ポイントは以下の通りです。
- カスタマーハラスメント防止措置の義務化(2026年10月施行予定)
- ストレスチェックの全事業場への義務拡大(公布後3年以内)
- 高年齢労働者の労災防止の努力義務化(2026年4月)
これらは労働者保護の範囲を拡大する方向の改正であり、罰則強化を主眼としたものではありません。日本の安衛法改正は、処罰の厳格化よりも、予防と管理体制の充実に重点を置いていると言えます。
アジア各国の労働安全衛生動向|広がる法規制の強化
シンガポール|罰則大幅引き上げと「ビジョン・ゼロ」
シンガポールは2024年に職場安全衛生法(Workplace Safety and Health Act)を改正し、罰則を大幅に引き上げました。法人に対する最高罰金額は150万シンガポールドル(約1.7億円)に達します。また、2022年に策定された「Workplace Safety and Health 2028」戦略では、2028年までに労災死亡率を1.0以下(労働者10万人あたり)にするという目標を掲げています。
特筆すべきは、シンガポールが「ビジョン・ゼロ(Vision Zero)」の理念を政策に取り入れている点です。これは、すべての労働災害は予防可能であるという前提に立ち、ゼロ災害を目指すアプローチです。
台湾|職業安全衛生法の適用拡大
台湾は2013年に労工安全衛生法を全面改正し、「職業安全衛生法」(職業安全衛生法)として施行しました。この改正により、適用対象が従来の製造業・建設業中心から全業種の全労働者に拡大されました。
さらに2019年以降の改正では、以下の取り組みが進められています。
- 過労死防止対策の強化: 長時間労働者への医師面接指導の義務化
- 化学物質管理の厳格化: GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に基づく管理体制の整備
- 罰則の引き上げ: 重大な違反に対する罰金上限の引き上げと、再犯時の加重処罰
アジア各国に共通するトレンド
これらの動向を俯瞰すると、アジア各国の労働安全衛生法制には以下の共通トレンドが見えてきます。
- 罰則の強化: 経済成長に伴い、「労災は成長のコスト」とする考え方から「労災ゼロ」への転換が進む
- 適用範囲の拡大: 製造業・建設業中心から全業種へ、大企業中心から中小企業へ
- 経営責任の明確化: 現場管理者だけでなく、経営トップの責任を法的に問う方向へ
- 予防重視への移行: 事後的な処罰から、リスクアセスメント・予防管理体制の構築へ
- メンタルヘルスの包含: 身体的安全だけでなく、精神的健康も安全衛生法の対象に
日本の立ち仕事現場への示唆|アジアの動向から何を学ぶか
経営層の安全衛生への関与を強化する
韓国の重大災害処罰法が示す最も重要な教訓は、安全衛生は経営課題であるという認識です。日本の現行法制度は韓国ほど経営者への処罰が厳しくありませんが、2026年の安衛法改正により、事業者の義務範囲は着実に拡大しています。
立ち仕事の現場では、以下の点が特に重要です。
- 安全衛生への投資を経営判断として位置づける: 疲労軽減マットの導入、作業台の高さ調整、休憩スペースの確保といった人間工学的改善は、コストではなく生産性向上への投資として捉える
- 現場の声を経営に届ける仕組みを作る: 安全衛生委員会の活性化や、現場からのヒヤリハット報告を経営層が直接確認する体制の整備
- サプライチェーン全体での安全管理: 韓国で問題となった「危険の外注化」は、日本の製造業や建設業でも共通する課題。元請企業が下請け労働者の安全にも責任を持つ意識が求められる
「予防」と「処罰」のバランス
韓国の経験からは、処罰の厳格化だけでは産業災害の根本的な削減には至らないことも見えてきます。重要なのは、罰則による抑止力と、予防的な安全管理体制の構築をバランスよく組み合わせることです。
日本の2026年安衛法改正は、ストレスチェックの全事業場義務化や高年齢労働者の労災防止など、予防の観点を重視した改正です。この方向性は、アジアの中でもバランスの取れたアプローチと評価できるでしょう。
まとめ
韓国の重大災害処罰法は、経営者に直接刑事責任を問うという画期的な法律であり、アジアの労働安全衛生法制において大きな転換点となりました。施行後3年を経て、企業の安全投資の増加という成果がある一方、中小企業への負担や形骸化といった課題も明らかになっています。
日本の安衛法は罰則の厳しさでは韓国に大きく及びませんが、2026年改正によりカスハラ防止やストレスチェックの全事業場義務化など、予防と労働者保護の範囲拡大を進めています。台湾やシンガポールも含め、アジア全体で労働安全衛生の法規制が強化される潮流の中で、日本の立ち仕事の現場もこの変化を先取りした対応が求められます。
法律の改正を待つのではなく、経営層が主体的に安全衛生に関与し、現場の声に基づいた予防的な取り組みを進めること――それが、アジアの労働安全衛生トレンドから学ぶべき最も重要な教訓ではないでしょうか。
参考文献
- 韓国法制処, 「重大災害処罰等に関する法律」(중대재해 처벌 등에 관한 법률), 2021年. https://www.law.go.kr/
- 韓国雇用労働部, 「2023年産業災害現況分析」, 2024年. https://www.moel.go.kr/
- 韓国経営者総協会, 「重大災害処罰法施行2年企業対応実態調査」, 2024年.
- 厚生労働省, 「労働安全衛生法の一部を改正する法律の概要」, 2025年. https://www.mhlw.go.jp/
- Singapore Ministry of Manpower, “Workplace Safety and Health Act 2006 (Revised Edition 2024)”, 2024. https://www.mom.gov.sg/
- Singapore Ministry of Manpower, “Workplace Safety and Health 2028”, 2022. https://www.mom.gov.sg/
- 台湾労動部, 「職業安全衛生法」, 2019年改正. https://law.moj.gov.tw/
- ILO, “Safety and Health at the Heart of the Future of Work: Building on 100 Years of Experience”, 2019. https://www.ilo.org/
- OECD, “OECD Employment Outlook 2024”, 2024. https://www.oecd.org/

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