【労働安全衛生法に違反したらどうなる?】罰則と違反リスク|2026年改正で強化される行政指導と書類送検

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「労働安全衛生法に違反したらどうなるのか」――この問いに正確に答えられる事業者はどれくらいいるでしょうか。労働安全衛生法(安衛法)の罰則と違反リスクは、2026年の法改正によって対象範囲が大きく拡大し、「知らなかった」では済まされない時代を迎えています。労基署による是正勧告や改善指導にとどまらず、悪質な場合は書類送検・公表に至るケースも珍しくありません。

この記事では、安衛法の罰則体系から2026年改正で新たに加わるリスク、行政指導のプロセス、さらには民事上の損害賠償リスクまで、事業者が押さえておくべきポイントを体系的に解説します。

: 本記事は2025年7月時点の情報に基づいています。省令・告示等の詳細は今後公布される予定のものを含みます。

この記事でわかること

  • 労働安全衛生法の罰則体系(懲役・罰金の種類と対象行為)
  • 2026年改正で新たに義務化される事項と違反時のリスク
  • 労基署の是正勧告・改善指導から書類送検に至るプロセス
  • 努力義務と法的義務の違い、および民事上のリスク
  • 企業が「知らなかった」では済まされない理由と対策

労働安全衛生法 罰則 違反の全体像

安衛法の罰則はなぜ設けられているのか

労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を目的として1972年に制定されました(安衛法第1条)。この目的を実効性のあるものにするために、法律には罰則規定が設けられています。

罰則は安衛法の第115条以降に規定されており、違反の重大性に応じて懲役刑と罰金刑が段階的に定められています。重要なのは、罰則の対象が法人だけでなく、違反行為を行った個人(事業者、管理者等)にも及ぶという点です。これを「両罰規定」といい、安衛法第122条に定められています。

罰則の種類と対象行為

安衛法の主な罰則を整理すると、以下のようになります。

罰則の重さ刑罰内容主な対象行為条文
最も重い3年以下の懲役または300万円以下の罰金特定機械等の無許可製造、検査拒否等第116条
重い6月以下の懲役または50万円以下の罰金安全衛生措置義務違反(危険防止措置を怠る等)、安全管理者・衛生管理者の未選任、健康診断の未実施 等第119条
中程度50万円以下の罰金各種届出義務違反、作業主任者の未選任、安全衛生教育の未実施 等第120条
法人への加重法人に対し最大1億円の罰金(特定機械関係)/ その他は各本条の罰金法人の代表者・従業者が業務に関して違反した場合第122条

特に注目すべきは、安全衛生措置義務違反(第119条第1号)です。労働者の危険を防止するための措置(安衛法第20条〜第25条)を講じなかった場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。立ち仕事の現場でいえば、転倒防止措置や重量物取扱いの安全対策を怠った場合などがこれに該当します。

2026年改正で拡大する罰則・義務の範囲

個人事業者保護義務違反のリスク

2026年4月施行の改正安衛法では、個人事業者(フリーランス・一人親方等)への安全衛生措置義務が新たに設けられます。これにより、元方事業者が個人事業者の安全衛生を確保するための措置を怠った場合、既存の罰則規定が適用される可能性があります。

具体的には、以下のような場面でリスクが生じます。

  • 建設現場で一人親方に対する安全衛生情報の提供を怠った場合
  • 工場内でフリーランス作業者に対する危険箇所の周知を行わなかった場合
  • 個人事業者が使用する設備・機械の安全措置を講じなかった場合

厚生労働省の通達や指針の詳細は今後整備される予定ですが、従来は「雇用関係がないから義務がない」と考えられていた場面にも罰則リスクが及ぶ点が、2026年改正の大きな変化です。

化学物質管理義務違反のリスク

2026年10月施行予定の化学物質管理の強化により、以下の義務違反が新たに罰則の対象となる可能性があります。

  • リスクアセスメントの未実施:対象物質が約900種から約2,900種に拡大されるため、従来は対象外だった物質についても評価が必要になります
  • 個人ばく露測定の未実施:一定の化学物質を取り扱う作業場での測定が義務化されます
  • 化学物質管理者の未選任:一定規模以上の事業場での選任が求められます

化学物質関連の違反は、安衛法第119条に基づき6月以下の懲役または50万円以下の罰金の対象となり得ます。食品加工業や製造業など、化学物質を日常的に取り扱う立ち仕事の現場では、特に注意が必要です。

ストレスチェック義務化と違反

改正により、従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されます(公布後3年以内に施行)。現行法では50人以上の事業場がストレスチェックを実施しなかった場合、50万円以下の罰金(第120条)の対象となる可能性がありますが、実務上は労基署による是正勧告が先行するケースがほとんどです。

義務化の範囲が拡大することで、小規模事業場であっても行政指導の対象となることを認識しておく必要があります。

労基署の是正勧告・改善指導のプロセス

臨検監督から是正勧告までの流れ

実際に安衛法違反が発覚する最も一般的なルートは、労働基準監督署(労基署)による臨検監督(立入検査)です。厚生労働省の発表によると、2023年度の定期監督等実施事業場数は約13万件にのぼり、そのうち約68%で何らかの法令違反が認められています。

臨検監督から行政処分に至るプロセスは、一般に以下の流れで進みます。

1. 臨検監督(立入検査)の実施

労基署の労働基準監督官が事業場を訪問し、安全衛生管理体制、作業環境、各種書類(安全衛生委員会議事録、健康診断結果、リスクアセスメント記録等)を確認します。監督には定期監督のほか、労災発生時の災害調査、労働者からの申告に基づく申告監督などがあります。

2. 是正勧告書・指導票の交付

法令違反が認められた場合、労働基準監督官は是正勧告書を交付します。是正勧告書には違反条項と是正期日が記載され、事業者は期日までに是正し、是正報告書を提出しなければなりません。法令違反とまでは言えないが改善が望ましい事項については、指導票(行政指導)が交付されます。

3. 再監督と是正確認

是正期日後に再度の監督が行われ、是正状況が確認されます。是正が不十分な場合、繰り返し是正勧告が行われることがあります。

4. 司法処分(書類送検)

是正勧告に従わない場合や、違反が重大・悪質な場合は、労働基準監督官が司法警察員として捜査を行い、検察庁に書類送検します。

書類送検される事例のパターン

厚生労働省は毎年、安衛法違反で送検した事例を公表しています。書類送検に至りやすい典型的なパターンには、以下のものがあります。

  • 死亡災害・重篤な労災が発生した場合:安全措置義務違反(第20条〜第25条違反)として、法人と現場責任者が送検されるケースが多い
  • 是正勧告を繰り返し無視した場合:軽微な違反であっても、是正に応じない姿勢は「悪質」と判断されます
  • 虚偽報告・隠蔽を行った場合:労災かくし(労働者死傷病報告の不提出・虚偽報告)は第100条違反として送検対象です
  • 無資格者による作業:フォークリフトやクレーンなどの特別教育・技能講習を受けていない者に作業を行わせた場合

2023年度の厚生労働省の公表データによると、安衛法違反による送検件数は年間約800件前後で推移しています。送検された事業場名は厚生労働省のウェブサイトで公表されるため、企業の信用・ブランドへの影響も甚大です。

努力義務と法的義務の違いを正しく理解する

努力義務は「やらなくてもよい」ではない

2026年改正では、高年齢労働者(60歳以上)への労災防止措置が努力義務として位置づけられています(エイジフレンドリーガイドラインの法的格上げ)。努力義務とは、「〜するよう努めなければならない」という規定であり、違反しても直ちに罰則は科されません

しかし、努力義務であっても以下の点で重要なリスクがあります。

  • 民事裁判における安全配慮義務の判断基準として用いられる(後述)
  • 行政指導(指導票の交付)の根拠となる
  • 将来的に法的義務に格上げされる可能性がある(ストレスチェックの義務化が好例)

したがって、努力義務だからといって対応を先送りすることは、リスク管理上得策とはいえません。

法的義務の段階的拡大に注意

安衛法の歴史を振り返ると、多くの規制が努力義務から法的義務へと段階的に強化されてきました。ストレスチェックは2015年に50人以上の事業場で義務化され、2026年改正で全事業場に拡大されます。同様に、高年齢労働者への措置も今後、法的義務に引き上げられる可能性があります。

民事上のリスク:安全配慮義務違反と損害賠償

刑事罰だけではない「もう一つのリスク」

安衛法の罰則(刑事罰)とは別に、事業者は民事上の損害賠償責任を負うリスクがあります。労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定しており、これが安全配慮義務です。

安全配慮義務違反が認められた場合、数千万円から億単位の損害賠償を命じられることがあります。特に以下の点が重要です。

  • 安衛法を遵守していても、それだけでは安全配慮義務を果たしたことにはならない(安衛法は最低基準にすぎない)
  • 安衛法の努力義務やガイドラインに対応していなかった場合、民事裁判で「予見可能性があったのに対策を怠った」と判断される材料になる
  • 裁判では厚生労働省の通達・指針・ガイドラインが安全配慮義務の具体的内容を示す基準として参照されることが多い

立ち仕事の現場で想定されるケース

たとえば、長時間の立位作業に従事する労働者が腰痛を発症した場合、事業者が「腰痛予防対策指針」(厚生労働省、2013年改訂)に基づく対策を講じていなければ、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。高年齢労働者が転倒し負傷した場合も、エイジフレンドリーガイドラインに沿った対策の有無が争点になり得ます。

「知らなかった」では済まされない理由

法令の不知は免責事由にならない

「法改正を知らなかった」「うちの業種には関係ないと思った」という弁明は、法的に免責事由とはなりません。刑法第38条第3項は「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない」と規定しており、安衛法違反にもこの原則が適用されます。

事業者が取るべき具体的対策

2026年改正に備え、事業者は以下の対策を講じることが重要です。

  • 改正法の内容を正確に把握する:厚生労働省のウェブサイト、都道府県労働局の説明会などを通じて最新情報を収集する
  • 自社の該当事項を洗い出す:個人事業者との協働、化学物質の使用、高年齢労働者の雇用状況などを棚卸しする
  • 安全衛生管理体制を見直す:安全管理者・衛生管理者の選任状況、安全衛生委員会の運営状況を確認する
  • 記録を適切に保管する:リスクアセスメントの実施記録、安全衛生教育の受講記録、健康診断結果などを整理・保管する
  • 専門家を活用する:産業医、社会保険労務士、労働安全コンサルタントなどの助言を受ける

よくある質問

Q: 安衛法に違反すると必ず書類送検されますか?

A: いいえ、すべての違反が書類送検されるわけではありません。一般的には、まず労基署による是正勧告が行われ、事業者が是正に応じれば刑事処分には至らないケースがほとんどです。ただし、死亡事故が発生した場合や、是正勧告を繰り返し無視した場合、労災かくしを行った場合などは、書類送検に至る可能性が高くなります。

Q: 努力義務に対応しなくても罰則はないのですか?

A: 努力義務違反に対して直接の罰則はありません。しかし、労基署の行政指導の対象にはなりますし、労災が発生した際の民事裁判では安全配慮義務違反の判断材料として用いられます。また、努力義務は将来的に法的義務に格上げされることがあるため、早めの対応が推奨されます。

Q: 罰金を払えば是正しなくてもよいのですか?

A: いいえ、罰金の支払いは刑事罰としての制裁であり、是正義務はそれとは別に存続します。罰金を支払った後も是正勧告に応じなければ、再度の送検や営業停止命令(建設業法等の関連法令に基づく)につながる可能性があります。

まとめ

労働安全衛生法の罰則と違反リスクは、2026年の法改正によって対象範囲が拡大し、事業者に求められる対応がこれまで以上に広がります。個人事業者への保護義務の新設、化学物質管理の強化、ストレスチェックの全事業場義務化など、「知らなかった」では済まされない義務が次々と加わります。

行政指導(是正勧告)の段階で適切に対応すれば、書類送検に至るリスクは大幅に低減できます。一方、安衛法違反にとどまらず、民事上の安全配慮義務違反による損害賠償リスクにも目を向ける必要があります。努力義務であっても、ガイドラインに沿った対策を講じておくことが、将来のリスクを軽減する最善策です。

立ち仕事の現場においては、転倒防止措置、腰痛予防対策、高年齢労働者への配慮など、安衛法やガイドラインが求める措置と日常の安全管理が密接に関わっています。法改正を「コスト」と捉えるのではなく、従業員の安全と健康を守り、企業としての信頼を高める投資として前向きに取り組んでいきましょう。

参考文献

  1. 厚生労働省, 「労働安全衛生法」(昭和47年法律第57号). https://elaws.e-gov.go.jp/
  2. 厚生労働省, 「労働安全衛生法等の一部を改正する法律」, 2025年5月14日公布. https://www.mhlw.go.jp/
  3. 厚生労働省, 「労働基準監督年報(令和5年)」, 2024年. https://www.mhlw.go.jp/
  4. 厚生労働省, 「労働安全衛生法違反の送検事例」, 2024年公表. https://www.mhlw.go.jp/
  5. 厚生労働省, 「職場における腰痛予防対策指針」, 2013年改訂. https://www.mhlw.go.jp/
  6. 厚生労働省, 「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」, 2020年. https://www.mhlw.go.jp/
  7. 労働契約法(平成19年法律第128号)第5条. https://elaws.e-gov.go.jp/
  8. 刑法(明治40年法律第45号)第38条第3項. https://elaws.e-gov.go.jp/

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