高年齢者も新しいことにチャレンジしよう!【大原記念労働科学研究所✖️アルケリス コラボ企画 第三弾】

高年齢者も新しいことにチャレンジしよう!【大原記念労働科学研究所✖️アルケリス コラボ企画 第三弾】 - 立ち仕事のミカタ
目次

高年齢者は新しい機器が苦手?

現代の高年齢者は、パソコン・スマホなどの機器を使いこなしている方も多いと思いますが、全く新しい環境や機器に初めて接するときは、若年齢者より(あるいは自身が若い時より)戸惑う方も多いのではないでしょうか。近年、飲食店では多機能の最新型券売機やスマホを用いた注文システムの導入が進んでいますが、これらの機器が高年齢者には使いにくいということがネット上でも話題になっています。本稿では、少し古い事例ですが、鉄道駅にタッチパネル式自動券売機が社会的に大規模に導入された時期の調査を紹介し、高年齢者と新しい機器の関係を考えたいと思います。

現代の高年齢者は、パソコン・スマホなどの機器を使いこなしている方もいる一方、戸惑う方も多いです。

液晶タッチパネル式券売機:高年齢者の使用実態は?

鉄道駅の液晶タッチパネル式券売機は、JR東日本が1993年に導入開始し、1995年には本格導入が始まりました(1)1998年ころには、JR東日本の駅や東京近辺の私鉄駅など多くの駅に設置されていましたが、高年齢者には使いにくいという声が広がりつつありました。そこで実態を把握するため、高年齢者の利用が多いことで有名なJR線のA駅で、高年齢者の券買行動を観察しました(2)。A駅では13台の券売機が一列に並んでおり、3台がタッチパネル式の新型でした。多くの高年齢者は明らかに新型券売機を避け、従来型券売機に並んでいました。また、新型にトライしたものの、使い方が分からずに周りの(若い)方に教えてもらう例や、操作に失敗し従来型券売機へ移動する例も多数観察されました。

鉄道駅の液晶タッチパネル式券売機

使い易さについて実験してみた!

次に、何故、高年齢者にとって使いにくいのかを探るため、実際に切符を購入する現場作業実験を実施しました(2)。実験参加者は高年齢者(65歳の男女各1名および72歳の男性1名)、若年齢者((22-23歳の男子大学生8名)でした。券買課題は、タッチパネル式券売機で指定の区間の切符を2枚ずつ購入することでした。切符購入時の認知思考過程(意図)を探るため、課題中に頭に浮かんだことをそのまま発話してもらいました(発話思考法)(3)。発話と券買行動は、実験参加者頭部に装着した小型CCDカメラおよび実験者のカメラで記録しました。以下に、高年齢者の券買中の発話(プロトコルと呼びます)の例を示します。

・えーっと、んーっ4番ここ?
・B駅ー、C駅経由で、(+2)○○線は?(+4)
・ちょっとまって、(+4)C駅経由B駅(+3)280円(+2)
・280円(+7)
・えーっと500円玉で、
・うーん、(+5)んーっとB駅経由?(+8)
・うん??(+3)××連絡線
<券売機アナウンス>他の切符をお求めの方は切符の種類を選んで下さい。
・乗り換え、(+4)2枚にして、行き先の会社線
・うーんと、(+2)C駅ちょっとまって、えーっとB駅で乗り換え(+6)
・200、ん、280円?280円だったね(+2)
・よし、(+4)うん?(+6)これでいいのかな?コイン?(+3)
  <券売機アナウンス>投入金が不足しています。
・うん?(+2)投入金が不足?(+9)
・はい、2枚買いました。/(所要時間)01:19:06    注(+9)は空白9秒を示す。

高年齢者の券買行動の特徴

このようなプロトコルごとにその内容を細かく分類し、上位概念にまとめることで分類のカテゴリーを作りました。最終的に(計画、迷い、確認)の3つが「意図」の大項目として残りました。計画とは、「~をします」「C駅経由B駅(の切符を買いたい)」、など行動の計画です。「これでいいのかな?」「え~と」などが典型的な迷いです。「これでOK」「~でした。」など行動結果の認識が確認です。計画と迷いの対象は(行き先、運賃、金銭投入)でした。ビデオ記録に基づき、「行動」は(表示を見ること、硬貨を投入する、ボタンを押す、釣銭/切符の受取、動作準備、確認動作)の6項目となりました。「意図」と「行動」の関係を整理した高年齢者3名の共通特徴を図1に示します。

図1タッチパネル式券売機における券買時の「意図」と「行動」の関係(高年齢者の例)
図1 タッチパネル式券売機における券買時の「意図」と「行動」の関係(高年齢者の例)

「計画」のあとに「迷い」が発生する場合が多く、行動的にも「準備(準備動作)」、「表示(液晶表示を見る)」が他の行動間に挿入されています。「金銭(金銭の投入)」、および「金額ボタン」に関する「迷い」が生じた場合が多く、行動面では各操作の間に「液晶表示」を見ることが要求され、複雑な構造であることが分かります。金額ボタン操作という実行の段階においても「迷い」が生じていることは特徴的で、高年齢者にとっては「意図」と「行動」が乖離しやすいことが示唆されました。「迷い」を助長する要因の一つとして、タッチパネルの感度(意図せず反応する場合があった)や液晶画面の視差(実際に押した位置と見た目の位置のずれ)、画面の階層構造の複雑さ、という機器側の問題も考えられました。

若年齢者と比べてみると

同様の分析から、若年齢者は、「計画」、(行動)、迷い、(行動)、「確認」というサイクルで試行錯誤的に行動することで課題を遂行していることが示唆されました。比較すると、若年齢者は機器とのインタラクション(対話)に対して柔軟性があるのに対して、高年齢者にはインタラクションの固定性、固執性、混乱が見られたと言えます。

液晶タッチパネル式券売機のその後の経緯

液晶タッチパネル式券売機が高年齢者には使いにくいという話はその後、徐々に薄れて社会的に許容されていったように思います。それには少なくとも2つの理由が考えられます。一つは新型券売機普及率が上がり、利用機会が増えたこと。もう一つは、新型券売機の性能向上による作動エラーの低減です。結果として高齢者にとっても券買行動の成功体験が増えていったと思われます。

新しい環境や機器と良い関係を築こう!

焦らず時間をかけて機器との対話を繰り返すことで高年齢者でも新しい環境や技術に対応できる可能性があります。今後も新しい機器が登場し、高年齢者にも使いやすくするための改良も進むと思いますので、新しい機器や事柄には興味を持って挑戦したいと思います(筆者も高年齢者です)。

機器との対話を繰り返すことで高年齢者でも新しい環境や技術に対応できる可能性があります

引用文献

  1. 中村一廣、鉄道における自動券売機の変遷-お客さまへの利便性向上に向けて,JR EAST Technical Review 2003;No.4:pp13-16.
    https://www.jreast.co.jp/development/tech/pdf_4/13-16.pdf
  2. 北島洋樹,鉄道乗車券自動券売機の使いやすさを考える,労働の科学1998;53(11): pp688-691.
  3. VAN Someren MW, Barnard YF, Sandberg JAC. The Think Aloud Method: A practical guide to modelling cognitive processes. London: Academic Press,1994: p19.

著者:北島 洋樹
公益財団法人 大原記念労働科学研究所
副所長
研究部 働く人々の多様性研究グループ
エルゴノミクス研究センター センター長

公益財団法人 大原記念労働科学研究所

✖️

アルケリス株式会社

※本記事は、公益財団法人 大原記念労働科学研究所とアルケリス株式会社 Webメディア「立ち仕事のミカタ」のコラボ企画の記事として執筆されました。

公益財団法人 大原記念労働科学研究所

公益財団法人大原記念労働科学研究所 wikipediaより引用 (c)Sid0327
大原記念労働科学研究所 (c) Sid0327

労働者の健康と福祉の向上を目的に設立された研究機関です。労働環境や作業管理、人間工学などの分野で調査・研究を行い、安全で快適な職場づくりに貢献しています。倉敷紡績社長の大原孫三郎が「倉敷労働科学研究所」として設立。創立100年を超え、現在の拠点は桜美林大学新宿キャンパス内。公式HP

大原記念労働科学研究所とアルケリスのコラボ企画 立ち仕事のミカタで専門家による記事を毎月連載中
立ち仕事のミカタ_banner
Click to Share!
目次