【2026年10月施行の新ルールを解説】個人ばく露測定の義務化

2026年10月から、個人ばく露測定の義務化が始まることをご存知ですか?これまで日本の作業環境管理は、作業場の空気中濃度を「場」として測定するA測定・B測定が中心でした。しかし、同じ作業場にいても作業内容や姿勢、移動パターンによって、労働者一人ひとりが実際に吸い込む化学物質の量は大きく異なります。
こうした課題を解決するため、厚生労働省は作業環境測定法および労働安全衛生法の関連政省令を改正し、個人サンプラーを用いた個人ばく露測定を新たに義務づけることとしました。本記事では、2026年10月1日施行の新ルールについて、事業者が知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。
※本記事は2025年8月時点の情報に基づいています。最新の政省令・通達については厚生労働省の公式発表をご確認ください。
この記事でわかること
- 個人ばく露測定の義務化の概要と施行スケジュール
- 従来の作業環境測定(A測定・B測定)との具体的な違い
- 個人サンプラーの仕組みと測定の流れ
- 事業者に求められる具体的な対応と費用の目安
- 違反した場合のリスクと罰則
個人ばく露測定の義務化とは
制度の概要
個人ばく露測定とは、労働者の呼吸域(口や鼻の近く)に小型の採取装置(個人サンプラー)を装着し、作業中に実際に吸入する化学物質の濃度を測定する方法です。
厚生労働省は、2024年に作業環境測定法施行規則等の改正を行い、2026年10月1日から個人ばく露測定を一定の条件下で義務化する方針を示しています。これは、2022年から段階的に進められてきた「化学物質管理の自律的管理」への移行の一環です。
改正の背景・目的
従来の作業環境測定制度は1975年の作業環境測定法制定以来、約50年にわたって日本の化学物質管理の基盤を担ってきました。しかし、以下のような課題が指摘されてきました。
- 測定結果と実際のばく露量の乖離: A測定は作業場全体の平均濃度、B測定は発散源近傍の最高濃度を測定するものであり、個々の労働者が実際にどれだけ化学物質を吸入しているかは正確に把握できない
- 国際基準との不整合: 欧米諸国(米国OSHA、EU-OSHA等)では個人ばく露測定が標準的な手法として定着しており、日本の「場の測定」中心の制度は国際的に特殊な位置づけであった
- 作業態様の多様化: 労働者の移動が多い作業、屋外作業、短時間の高濃度ばく露など、従来のA測定・B測定では適切に評価できないケースが増加している
厚生労働省の「個人サンプリング法等による作業環境測定のあり方に関する検討会」報告書(2019年)においても、個人ばく露測定の導入が強く推奨されています。
対象となる事業者・労働者
個人ばく露測定の義務化は、以下に該当する事業者が対象となります。
- 特定化学物質障害予防規則(特化則)の対象物質を取り扱う事業場
- 有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象物質を取り扱う事業場
- 鉛中毒予防規則(鉛則)の対象物質を取り扱う事業場
- その他、濃度基準値が設定された化学物質を製造・取り扱う事業場
製造業、化学工業、塗装業、印刷業、半導体製造、医薬品製造など、化学物質を取り扱う幅広い業種が対象に含まれます。立ち仕事で化学物質を取り扱う現場(製造ライン、塗装ブース、溶接作業場等)は特に注意が必要です。
従来の作業環境測定との違い
個人ばく露測定と従来のA測定・B測定は、測定の考え方そのものが大きく異なります。
| 比較項目 | 従来の作業環境測定(A測定・B測定) | 個人ばく露測定 |
|---|---|---|
| 測定対象 | 作業場の空気(場の測定) | 労働者個人の呼吸域 |
| 測定機器の設置場所 | 作業場内の固定点(A測定:等間隔、B測定:発散源近傍) | 労働者の襟元・肩付近に装着 |
| 評価の単位 | 作業場全体の管理区分(第1〜第3管理区分) | 労働者個人のばく露濃度 |
| 比較基準 | 管理濃度 | 濃度基準値(ばく露限界値) |
| 測定時間 | 10分間程度の短時間測定 | 作業時間全体(通常6〜8時間のTWA) |
| 移動する作業者への対応 | 困難(固定点での測定のため) | 対応可能(作業者とともに移動) |
| 国際標準との整合性 | 日本独自の制度 | 国際的な標準手法(OSHA、EU-OSHA等) |
TWA(Time-Weighted Average:時間加重平均) とは、測定時間全体にわたる化学物質濃度の平均値です。短時間の高濃度ばく露も長時間の低濃度ばく露も、同じ基準で比較できるようになります。
管理濃度と濃度基準値の違い
従来の作業環境測定では管理濃度を基準として管理区分を判定してきましたが、個人ばく露測定では濃度基準値(ばく露限界値)と照合します。
- 管理濃度: 作業場の空気環境を評価するための基準値。「場」の管理レベルを示す
- 濃度基準値: 労働者個人が吸入する化学物質濃度の上限値。8時間TWAとして設定される
厚生労働省は「濃度基準値設定等検討会」において、順次、化学物質ごとの濃度基準値を設定・公表しています(2025年8月時点で約100物質に濃度基準値が設定済み)。
個人サンプラーの仕組みと測定の流れ
個人サンプラーとは
個人サンプラーとは、労働者の呼吸域で化学物質の濃度を測定するための携帯型の採取装置です。一般的に以下の構成で成り立っています。
- サンプリングポンプ: 一定流量で空気を吸引する小型ポンプ(腰ベルト等に装着)
- 捕集材(サンプラー): 活性炭管、シリカゲル管、フィルター等(襟元に装着し呼吸域の空気を捕集)
- 流量計: 吸引流量を確認するための器具
作業者は通常の作業を行いながら、作業時間全体(6〜8時間)にわたって連続的に空気を採取します。採取した試料は分析機関で化学分析され、8時間TWAとして濃度が算出されます。
測定の基本的な流れ
個人ばく露測定は、以下のステップで実施されます。
- 事前準備: 対象化学物質の特定、測定計画の策定、対象労働者の選定
- 機器の準備: 個人サンプラーの校正(流量キャリブレーション)
- 装着・測定: 労働者の呼吸域に捕集材を装着し、作業時間中に連続採取
- 試料の回収・分析: 捕集材を密封し、登録分析機関で化学分析
- 結果の評価: 8時間TWA濃度を算出し、濃度基準値と照合
- 記録・報告: 測定結果の記録・保存(30年間の保存義務あり)
事業者に求められる対応
測定の実施義務
2026年10月1日以降、以下の場面で個人ばく露測定の実施が求められます。
- 濃度基準値が設定された化学物質を製造・取り扱う作業場で、リスクアセスメントの結果、労働者のばく露がばく露限界値を超えるおそれがある場合
- 従来のA測定・B測定で第3管理区分と判定された作業場において、改善措置の効果を確認する場合
- 作業環境測定が困難な作業(屋外作業、移動を伴う作業、発散源が不定の作業等)
測定を実施する者の要件
個人ばく露測定は、以下のいずれかの資格を有する者が実施する必要があります。
- 作業環境測定士(第1種または第2種)
- 個人サンプリング法に係る講習を修了した者
厚生労働省は、作業環境測定士に対する個人サンプリング法の研修を順次実施しています。外部の作業環境測定機関に委託することも可能です。
測定結果に基づく措置
測定の結果、労働者のばく露濃度が濃度基準値を超えた場合、事業者は速やかに以下の措置を講じなければなりません。
- 工学的対策の実施: 局所排気装置の設置・改善、作業工程の変更、発散源の密閉化など
- 管理的対策: 作業時間の短縮、作業ローテーションの見直し、作業手順の改善
- 保護具の使用: 適切な呼吸用保護具(防毒マスク、送気マスク等)の使用。ただし、保護具は工学的対策の補完であり、第一選択とすべきではない
- 再測定の実施: 対策後に再度個人ばく露測定を行い、濃度基準値以下であることを確認
この優先順位は、労働衛生の3管理(作業環境管理・作業管理・健康管理)の原則に基づいており、工学的対策を最優先とする考え方は国際的にも共通しています。ILO(国際労働機関)やNIOSH(米国国立労働安全衛生研究所)も同様の「対策のヒエラルキー」を推奨しています。
費用の目安と外部委託
個人ばく露測定にかかる費用は、測定対象物質の種類や労働者数によって異なりますが、一般的な目安は以下のとおりです。
- 1物質・1名あたりの測定費用: 約2万〜5万円(サンプリング+分析費用)
- 出張費・報告書作成費: 別途1万〜3万円程度
- 個人サンプラー機器の購入費用(自社で実施する場合): サンプリングポンプ1台あたり約5万〜15万円
多くの事業場では、作業環境測定機関への外部委託が現実的な選択肢となります。日本作業環境測定協会のWebサイト等で、登録測定機関を検索できます。
違反した場合のリスク
個人ばく露測定の義務化に関連する違反は、労働安全衛生法に基づく罰則の対象となり得ます。
- 作業環境測定の未実施: 労働安全衛生法第65条違反として、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(同法第119条)
- 測定結果に基づく措置の不履行: 労働安全衛生法第65条の2違反として行政指導・是正勧告の対象
- 記録の未保存: 測定結果の保存義務違反
また、罰則以外にも以下のリスクが想定されます。
- 労災認定時の不利な判断: 適切な測定・対策を実施していなかった場合、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任が認められやすくなる
- 行政監督の強化: 労働基準監督署による臨検監督で是正勧告を受ける可能性
関連する法令・制度
個人ばく露測定の義務化は、以下の法令・制度と密接に関連しています。
- 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号): 化学物質管理の根拠法。2022年改正で「自律的な化学物質管理」への移行を規定
- 作業環境測定法(昭和50年法律第28号): 作業環境測定の方法・測定士資格等を規定。個人サンプリング法の追加が改正の柱
- 化学物質の自律的管理: 2024年4月から段階的に施行されている新制度。リスクアセスメントの義務拡大、濃度基準値の導入、保護具の適正使用などを包括的に定める
立ち仕事の現場では、化学物質ばく露だけでなく、作業姿勢による筋骨格系の負担も重要な課題です。長時間の立位作業による腰痛や下肢の疲労と、化学物質ばく露リスクの両方を管理することが、総合的な労働安全衛生の実現につながります。
まとめ
2026年10月1日から施行される個人ばく露測定の義務化は、日本の化学物質管理において約50年ぶりの大きな転換点です。要点を整理すると、以下のとおりです。
- 個人ばく露測定は、労働者の呼吸域で実際の化学物質ばく露量を測定する方法であり、従来のA測定・B測定の「場の測定」とは根本的に異なる
- 個人サンプラーを用いて作業時間全体のばく露濃度を測定し、濃度基準値と照合して評価する
- 測定結果が濃度基準値を超えた場合は、工学的対策を最優先とした改善措置が求められる
- 事業者は、測定計画の策定、測定機関の選定、費用の確保、社内体制の整備を今から進めておくことが重要
施行まで残り約1年です。「うちの事業場は対象になるのか」「どの測定機関に依頼すればよいか」といった疑問がある場合は、早めに所轄の労働基準監督署や作業環境測定機関に相談されることをおすすめします。
よくある質問
Q: 従来のA測定・B測定は廃止されるのですか?
A: いいえ、直ちに廃止されるわけではありません。当面は従来の作業環境測定(A測定・B測定)と個人ばく露測定が併存する形となります。ただし、厚生労働省は段階的に個人ばく露測定への移行を進める方針であり、将来的にはA測定・B測定に代わって個人ばく露測定が標準的な手法となる可能性があります。
Q: 小規模事業場でも対象になりますか?
A: はい、事業場の規模にかかわらず、濃度基準値が設定された化学物質を取り扱う場合は対象となり得ます。特に、リスクアセスメントの結果、ばく露が濃度基準値を超えるおそれがあると判断された場合は、個人ばく露測定の実施が必要です。小規模事業場では外部の作業環境測定機関への委託が現実的です。
Q: 個人ばく露測定は毎年実施する必要がありますか?
A: 測定頻度は、対象となる規則や化学物質によって異なります。特化則・有機則等の対象物質については、従来と同様に原則6か月以内ごとに1回の測定が求められます。ただし、リスクアセスメントに基づく自律的管理の枠組みでは、リスクの程度に応じた合理的な頻度設定も認められる方向で検討が進んでいます。
参考文献
- 厚生労働省, 「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」, 2024年. https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省, 「個人サンプリング法等による作業環境測定のあり方に関する検討会 報告書」, 2019年. https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省, 「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会 報告書」, 2021年. https://www.mhlw.go.jp/
- 日本作業環境測定協会, 「個人サンプリング法の解説」. https://www.jawe.or.jp/
- 厚生労働省, 「労働安全衛生法 化学物質管理の自律的管理に関する改正の概要」, 2022年. https://www.mhlw.go.jp/
- NIOSH (National Institute for Occupational Safety and Health), “Occupational Exposure Sampling Strategy Manual,” 1977 (updated). https://www.cdc.gov/niosh/
- ILO (International Labour Organization), “Occupational Exposure Limits,” Encyclopedia of Occupational Health and Safety. https://www.ilo.org/

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