【労衛法改正で何が変わる?】元方事業者の安全衛生措置義務が拡大|押さえるべきポイントを徹底解説

【労衛法改正で何が変わる?】元方事業者の安全衛生措置義務が拡大|押さえるべきポイントを徹底解説 | 立ち仕事のミカタ | アルケリス株式会社

建設現場や製造工場では、元請け企業の労働者、下請け企業の労働者、そして一人親方やフリーランスといった個人事業者が同じ場所で作業する「混在作業」が日常的に行われています。こうした混在作業場所において、元方事業者の安全衛生措置の義務はどこまで及ぶのでしょうか。

2026年4月に施行される改正労働安全衛生法(安衛法)では、元方事業者が講じるべき安全衛生措置の対象が、従来の「自社および下請けの労働者」から「個人事業者を含むすべての作業従事者」へと大幅に拡大されます。この改正は、建設業や製造業をはじめとする多くの現場に直接的な影響を与えるものです。

本記事では、元方事業者の安全衛生措置義務の拡大内容と、混在作業場所の管理において事業者が押さえるべきポイントを、2025年7月時点の情報に基づいてわかりやすく解説します。

: 本記事は2025年7月時点の情報に基づいています。省令・告示等の詳細は今後公布される予定のものを含みます。

この記事でわかること

  • 元方事業者の安衛法上の位置づけと従来の義務範囲
  • 2026年4月改正で措置義務の対象が個人事業者を含むすべての作業従事者に拡大される内容
  • 混在作業場所の定義と管理のポイント
  • 統括安全衛生責任者・安全衛生責任者の役割
  • 建設業・製造業の現場で求められる実務的な対応
  • 違反した場合の罰則リスク

元方事業者の安全衛生措置義務とは

元方事業者の定義と安衛法上の位置づけ

「元方事業者」とは、労働安全衛生法第15条に規定される概念で、一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせている事業者のことを指します。一般的にいえば「元請け」にあたる企業です。

安衛法では、元方事業者に対して特別な安全衛生管理上の責任を課しています。その背景には、混在作業場所では複数の事業者の労働者が入り混じって作業するため、個々の事業者だけでは安全衛生管理が完結しないという現実があります。元方事業者は仕事全体を統括する立場にあることから、混在作業場所における安全衛生の「司令塔」として位置づけられているのです。

従来の義務範囲

改正前の安衛法では、元方事業者が安全衛生措置を講じるべき対象は、原則として自社の労働者および関係請負人の労働者に限定されていました。

具体的には、安衛法第29条において、元方事業者は関係請負人およびその労働者が法令に違反しないよう「必要な指導」を行い、違反している場合は「必要な指示」を行うことが求められています。また、安衛法第29条の2では、土砂崩壊や爆発・火災など特定の危険がある場合に、関係請負人の労働者にも必要な措置を講じることが義務づけられています。

しかし、ここでの保護対象はあくまで**「労働者」**でした。同じ現場で同じ作業に従事していても、雇用関係にない一人親方やフリーランスは安衛法上の「労働者」に該当しないため、元方事業者の措置義務の対象外とされていたのです。

保護の空白が生んだ問題

この「保護の空白」が具体的にどのような問題を引き起こしていたのでしょうか。

厚生労働省の「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」報告書(2023年)によると、建設業における死亡災害のうち一人親方の死亡災害が全体の約3割を占めるという深刻な実態が報告されています。一人親方は、雇用労働者と同じ足場の上で作業し、同じ危険にさらされながらも、元方事業者による墜落防止措置や安全指導の法的な対象から外れていました。

厚生労働省はこの課題を「早急に是正すべき制度上の空白」と位置づけ、法改正に踏み切りました。

2026年4月改正:措置義務の対象拡大

改正の核心 ―「労働者」から「作業従事者」へ

2026年4月施行の改正安衛法の最大のポイントは、元方事業者が安全衛生措置を講じるべき対象を、「労働者」から「作業従事者」(個人事業者を含む)に拡大したことです。

これにより、混在作業場所で作業するすべての人 ― 元請けの労働者、下請けの労働者、一人親方、フリーランス ― が等しく元方事業者の安全衛生措置の対象となります。

項目改正前改正後(2026年4月〜)
措置義務の対象自社の労働者+関係請負人の労働者すべての作業従事者(個人事業者を含む)
保護される個人事業者対象外一人親方・フリーランス等も対象
危険場所の立入禁止労働者のみ指示可能個人事業者にも指示が必要
墜落防止設備の利用自社・下請けの労働者が対象個人事業者にも利用させる義務
安全衛生教育雇入れ時教育(労働者対象)個人事業者にも教育機会への配慮
事故時の連絡調整関係請負人間の連絡調整個人事業者を含めた連絡調整
避難訓練労働者を対象に実施個人事業者にも参加を要請

具体的な措置内容

改正後、元方事業者に求められる具体的な安全衛生措置は以下のとおりです。

危険場所の立入禁止指示

クレーン作業中の吊り荷の下、解体作業中の建築物の周辺など、危険が生じるおそれのある場所への立入禁止について、個人事業者にも同様に指示する必要があります。従来は自社・下請けの労働者のみが対象でしたが、改正後は現場にいるすべての作業従事者に対して指示を徹底しなければなりません。

墜落防止設備の設置と利用

高所作業における墜落防止のための手すり、安全ネット、親綱等の設備について、個人事業者にも利用させる義務が生じます。設備の設置だけでなく、個人事業者がそれを適切に利用できるよう指導することも含まれます。

避難訓練への参加要請

火災、爆発、土砂崩壊等の緊急事態に備えた避難訓練について、個人事業者にも参加を要請することが求められます。緊急時の連絡体制や避難経路の周知も、個人事業者を含めて行う必要があります。

事故発生時の連絡調整

労働災害が発生した場合の連絡・報告体制について、個人事業者を含めた連絡調整の仕組みを構築することが求められます。事故の再発防止に向けた情報共有も、個人事業者を含めて実施する必要があります。

安全衛生教育への配慮

元方事業者は、関係請負人が行う安全衛生教育について従来から指導・援助を行う立場にありましたが、改正後は個人事業者に対しても安全衛生教育の機会を提供するよう配慮することが求められます。具体的には、新規入場時の安全教育や、作業手順の説明などに個人事業者を含める対応が想定されます。

混在作業場所の管理ポイント

混在作業場所とは

混在作業場所とは、一の場所において元方事業者の労働者と関係請負人の労働者(改正後は個人事業者を含む作業従事者)が混在して作業を行う場所のことです。

典型的な例としては、以下のような現場が挙げられます。

  • 建設現場: 元請けのもとに複数の専門工事業者が入り、さらに一人親方が混在して作業する
  • 製造工場: 定期修理や設備メンテナンスで外部の協力会社やフリーランスの技術者が入場する
  • 造船所: 複数の業者が同一船内で並行して作業を行う
  • プラント: 建設・改修時に多数の事業者が同一敷地内で作業する

統括安全衛生責任者の役割

混在作業場所の安全衛生管理の要となるのが、統括安全衛生責任者です。安衛法第15条に基づき、特定元方事業者(建設業・造船業の元方事業者)は、一定規模以上の混在作業場所において統括安全衛生責任者を選任しなければなりません。

統括安全衛生責任者の主な職務は以下のとおりです。

  • 協議組織の設置・運営: 元方事業者と関係請負人で構成する安全衛生協議会を設置し、定期的に開催する
  • 作業間の連絡調整: 異なる事業者の作業が相互に影響を及ぼす場合の調整
  • 作業場所の巡視: 混在作業場所を定期的に巡視し、危険の有無を確認する
  • 安全衛生教育の指導・援助: 関係請負人が行う安全衛生教育に対する指導・援助

改正後は、これらの職務において個人事業者も管理対象に含める必要があります。たとえば、安全衛生協議会への個人事業者の参加促進や、巡視時に個人事業者の作業状況も確認することなどが求められます。

安全衛生責任者の役割

一方、関係請負人側で選任される安全衛生責任者(安衛法第16条)は、統括安全衛生責任者との連絡調整を担う役割を持ちます。安全衛生責任者は、統括安全衛生責任者から連絡を受けた事項を自社の労働者に周知し、作業現場における安全確保に努めます。

改正後の実務においては、安全衛生責任者が個人事業者との連絡窓口としても機能することが期待されます。

特定元方事業者の義務との関係

安衛法第30条に規定される特定元方事業者(建設業・造船業の元方事業者)には、一般の元方事業者よりも厳格な義務が課されています。具体的には、以下の措置を講じる義務があります。

  1. 協議組織の設置・運営
  2. 作業間の連絡・調整
  3. 作業場所の巡視
  4. 関係請負人が行う安全衛生教育に対する指導・援助
  5. 仕事の工程に関する計画と作業場所における機械・設備等の配置計画の作成
  6. その他、労働災害を防止するために必要な事項

2026年4月の改正により、これらの措置においても個人事業者を含むすべての作業従事者が対象となります。特定元方事業者は、従来から高い安全衛生管理水準が求められていますが、改正後はさらに管理の範囲が広がることになります。

建設業・製造業の現場への実務的影響

建設業の現場で変わること

建設業は、重層下請構造のもとで一人親方が多数参画する業界です。国土交通省の推計では、建設業における一人親方は全国で約50万人以上とされています。改正法の施行により、建設現場では以下のような実務的な変更が求められます。

  • 新規入場時教育の対象拡大: 一人親方やフリーランスの技術者にも、作業開始前の安全教育を実施する
  • 作業手順書・安全指示の周知範囲拡大: 個人事業者にも朝礼やKY(危険予知)活動への参加を求める
  • 安全設備の利用指導: 足場、手すり、安全帯(フルハーネス型墜落制止用器具)等の使用について、個人事業者にも指導する
  • 災害発生時の報告体制整備: 個人事業者の事故も含めた報告ルートを明確にする

製造業の現場で変わること

製造業では、定期修理(シャットダウンメンテナンス)や設備改修の際に、外部の協力会社やフリーランスの技術者が入場するケースが多くあります。改正後は以下の対応が必要です。

  • 入場管理の見直し: 個人事業者を含むすべての作業従事者を把握する仕組みの構築
  • 危険有害情報の提供: 化学物質のSDS(安全データシート)情報や設備の危険箇所について、個人事業者にも確実に伝達する
  • 保護具の確認: 個人事業者が適切な保護具を使用しているか確認し、必要に応じて貸与・指導する
  • 緊急時対応訓練: 火災・漏洩等の緊急時対応訓練に個人事業者を含める

実務対応のチェックリスト

事業者が2026年4月の施行に向けて準備すべき事項を整理します。

  • [ ] 混在作業場所における個人事業者の把握体制を構築する
  • [ ] 安全衛生協議会の参加対象に個人事業者を含める
  • [ ] 新規入場時教育の対象に個人事業者を追加する
  • [ ] 危険場所の立入禁止措置の周知対象を見直す
  • [ ] 避難訓練・緊急連絡体制に個人事業者を組み込む
  • [ ] 安全衛生に関する掲示物・資料の配布対象を拡大する
  • [ ] 事故発生時の報告ルートに個人事業者を含める
  • [ ] 関係する社内規程・マニュアルを改訂する

違反した場合の罰則リスク

安衛法の罰則規定

元方事業者が安衛法上の措置義務に違反した場合、以下の罰則が適用される可能性があります。

安衛法第29条(元方事業者の講ずべき措置等)の違反については、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります(安衛法第119条)。また、法人の代表者等が違反行為をした場合には、行為者のほか法人にも罰金刑が科される「両罰規定」(安衛法第122条)が適用されます。

罰則以外のリスク

法律上の罰則に加え、以下のようなリスクも考慮する必要があります。

  • 行政処分: 労働基準監督署による是正勧告、使用停止命令等
  • 民事責任: 安全配慮義務違反として損害賠償請求を受けるリスク。判例では、直接の雇用関係がなくても、実質的な指揮監督関係がある場合に安全配慮義務が認められたケースがあります
  • 指名停止: 公共工事における指名停止処分(建設業の場合)
  • 企業の社会的信用の低下: 重大災害が発生した場合の報道、取引先からの信頼喪失

改正法の施行後は、個人事業者を措置義務の対象に含めていなかったことが違反と判断される可能性があるため、施行日までに対応を完了させることが重要です。

よくある質問

Q: 元方事業者と特定元方事業者の違いは何ですか?

A: 元方事業者は、一の場所で行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせている事業者全般を指します。一方、特定元方事業者は、そのうち建設業と造船業の元方事業者を指し、安衛法第30条に基づいてより厳格な安全衛生管理義務(協議組織の設置、作業間連絡調整、作業場所の巡視等)が課されています。なお、製造業については安衛法第30条の2により、特定元方事業者に準じた措置が求められる場合があります。

Q: 一人親方が安全指示に従わない場合、元方事業者の責任はどうなりますか?

A: 改正法のもとでは、元方事業者には個人事業者に対して安全衛生上必要な指示を行う義務があります。指示を行ったにもかかわらず個人事業者が従わない場合でも、元方事業者としては指示の記録を残す繰り返し指導する重大な危険がある場合は作業場所からの退去を求めるといった対応を講じることが求められます。適切な措置を講じていた場合には、元方事業者の責任は軽減される可能性がありますが、具体的な判断はケースバイケースです。

Q: 小規模な工事でも対応が必要ですか?

A: はい。安衛法第29条に基づく元方事業者の義務は、工事の規模に関係なく適用されます。ただし、統括安全衛生責任者の選任義務は一定規模以上(建設業の場合、常時50人以上の労働者が作業する場所等)の現場に限られます。小規模な工事であっても、混在作業場所では個人事業者を含む作業従事者の安全に配慮する義務が生じる点に注意が必要です。

まとめ

2026年4月の改正労働安全衛生法の施行により、元方事業者の安全衛生措置義務の対象は、従来の「自社および下請けの労働者」から「個人事業者を含むすべての作業従事者」へと拡大されます。

この改正は、建設業における一人親方の死亡災害が全体の約3割を占めるという深刻な現実を踏まえ、雇用形態にかかわらず同じ現場で働くすべての人の安全を等しく守るために行われるものです。

元方事業者にとっては、混在作業場所における管理の範囲が広がり、入場管理、安全教育、危険情報の周知、緊急時対応など、さまざまな場面で対応の見直しが必要になります。施行まで残された期間を有効に活用し、自社の管理体制を点検・整備していくことが求められます。

立ち仕事の現場では、長時間の立位作業に伴う身体的負担に加え、こうした安全衛生管理の適切な実施が、働く人の健康と安全を守る両輪となります。法改正の趣旨を正しく理解し、すべての作業従事者にとって安全な現場づくりを進めていきましょう。

参考文献

  1. 厚生労働省, 「労働安全衛生法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第22号), 2025年5月14日公布. https://www.mhlw.go.jp/
  2. 厚生労働省, 「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」報告書, 2023年. https://www.mhlw.go.jp/
  3. 厚生労働省, 「労働安全衛生法」(昭和47年法律第57号). https://elaws.e-gov.go.jp/
  4. 厚生労働省, 「令和5年 労働災害発生状況」, 2024年. https://www.mhlw.go.jp/
  5. 国土交通省, 「建設業における一人親方等の実態に関する調査」, 2022年. https://www.mlit.go.jp/
  6. 厚生労働省, 「元方事業者による建設現場安全管理指針」. https://www.mhlw.go.jp/

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