警備員の職業病「腰痛」:警備業における労働災害防止のためのガイドライン

警備員の職業病「腰痛」:警備業における労働災害防止のためのガイドライン
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導入:警備業務に潜む身体的リスク

警備員という職業は、施設やインフラ、公共空間の安全を守るという重要な役割を担っています。24時間体制の勤務や不規則なシフト、高い集中力が求められる精神的負荷に加えて、実は「身体的負荷」も非常に大きな職種の一つです。とくに腰痛のリスクは高く、立ちっぱなしや巡回業務により腰部への慢性的な負担が積み重なっている現場も少なくありません。

また、警備業務には突発的な対応や機材の設置・撤去、屋外での交通誘導など、腰を曲げたり体をひねったりする動作が多く含まれます。加齢や基礎体力の低下により、これらの動作が腰部に過度な負担を与える要因となりやすく、蓄積された疲労がいつの間にか痛みに変わることもあります。この記事では、警備員における腰痛の実態とその背景、そして有効とされる対策について、ガイドラインや国内外の研究結果をもとに深掘りしていきます。


現場データにみる警備員の腰痛実態

厚生労働省と中央労働災害防止協会が発行した『警備業における労働災害防止ガイドライン(平成25年)』によれば、警備業界における労働災害の発生件数は年間1,200〜1,300件に上り、その傾向は近年増加傾向にあります。特に注目すべきは、災害の約3割が「転倒」、約12%が「動作の反動・無理な動作」に起因している点です。これらはすべて、腰や膝、下肢など身体の要となる部位に直接的な影響を与えるリスク要因であり、実際に多くの警備員が腰痛を訴えています。

さらに、ガイドラインでは年齢別の発生率にも言及しており、60歳以上の警備員が全体の約30%、50歳以上まで含めると過半数を占めることが示されています。加齢とともに骨密度の低下や筋力の衰え、柔軟性の減少が起こるため、腰痛を含む整形外科的な障害が起きやすくなるのは当然の結果といえるでしょう【20†2013-0524-2.pdf】。

また、労災の発生場所としては「仮設物・建築物・構築物等」や「乗物」が多く、事故型としては「交通事故」「墜落・転落」「はさまれ・巻き込まれ」など多岐にわたりますが、いずれも不意の動作や姿勢保持の難しさが影響しており、腰痛を引き起こすリスクファクターと密接な関係にあるといえます。


国外研究に見る警備員の腰痛リスク

海外においても、警備業務に従事する労働者の身体的負担についての調査研究が進んでいます。パキスタンのRawalpindiおよびIslamabadで行われた研究(2017年)では、約400名の警備員を対象に腰痛の有無や程度を調査。結果として、腰痛を経験している割合は48%にも上り、特に「下位腰痛(lower back pain)」が全体の57.7%を占めていました。

この調査では、長時間の立ち姿勢が腰痛を悪化させる要因として最も多く挙げられ、反対に「休息」が症状の軽減に有効であると回答した割合が76.7%に達しました。つまり、勤務中に座る機会が少ないことや、定期的な休憩を取りにくい職場環境が、腰痛の慢性化を招いていると考えられます。

また、インドのVidarbha地域での調査(2021年)でも同様の傾向が報告されており、警備員の66.2%が中等度から重度の腰痛を抱えているとされています。調査対象者の多くが1日8時間以上の立ち業務に従事しており、しかも定期的な体操やストレッチを行う習慣がないことが共通点として挙げられていました。これらのデータは、警備業という業種特有の勤務形態が身体的リスクを増大させていることを如実に物語っています。


安全衛生ガイドラインに見る予防策

では、こうしたリスクに対して、どのような対策が推奨されているのでしょうか。中央労働災害防止協会のガイドラインでは、警備員の身体負荷を軽減するための対策が多岐にわたって提示されています。

1. 姿勢負荷を減らすための工夫

  • 交代制勤務の導入:長時間の立哨を回避するために、業務の合間に他の業務や休憩を挟むスケジュールを設ける。
  • 携帯イスの活用:山形県酒田市の事例では、警備員が持ち運び可能な簡易イスを使用することで、「腰痛が緩和した」との声が聞かれています。
  • 適切な靴の選定:立ち仕事に適したクッション性と安定性を持つ靴の着用が推奨されています。

2. 教育と啓発活動

  • 姿勢指導と安全教育:施設警備においては、「警備計画書」や「危険箇所の周知」を徹底し、警備員がどこで、どう動くべきかを把握させる。
  • VDT作業(モニター監視)対策:長時間座り続ける業務では、定期的な目の休憩やストレッチが重要とされています。

3. 環境整備とツールの導入

  • 椅子や机の高さ調整:監視業務では、モニターの位置や椅子の高さを調整することで、腰への負担を軽減。
  • 立ち座りを組み合わせた業務配置:常に立っているのではなく、定期的に座ることができる業務配置にする工夫。

現場の声と社会的な取り組み

現場レベルでも少しずつではありますが、身体的負担の軽減に向けた取り組みが進んでいます。

代表的なのは、「座哨(ざしょう)」と呼ばれる、立哨業務を座位で行うスタイルです。リクルートのオフィスビルなどで実験的に導入されており、4ヶ月にわたって4名の警備員が座って警備を行う中で、身体的な疲労感の低減が報告されています。

また、2025年には「アシストスーツ普及推進議員連盟」が発足し、物流や介護業界と並び、警備業界でも身体補助装置の導入が注目されています。これにより、警備員の「立ち続ける」「重い物を動かす」「不意の動作に対応する」といった動作を支援することが可能となり、腰痛予防に寄与する可能性が高いと考えられます。

さらに、女性警備員に関しては「#KuToo」運動が象徴的です。高ヒールの着用が義務付けられることで足裏や膝、腰への負担が増し、身体的な障害につながるという問題意識から始まったこの運動は、労働環境の見直しにも波及しています。


まとめ:腰痛対策は警備品質の向上にもつながる

警備員の腰痛対策は、単なる個人の健康維持を超えて、現場全体の安全性や業務品質の向上に直結する課題です。長時間勤務、立ち仕事、突発的な対応という業務特性に加え、年齢構成の高さや身体的支援の不足といった構造的課題が複合的に影響し、腰痛を引き起こしています。

そのため、対策も単一ではなく、「作業環境の整備」「勤務体制の工夫」「教育の充実」「補助ツールの導入」といった多面的なアプローチが求められます。とくに、厚労省ガイドラインをもとにした安全衛生管理体制の確立や、現場の声を反映した設備・体制の改善は、腰痛予防と定着率向上の両立において重要な要素です。

今後は、企業の安全衛生担当者や管理者が現場の実情に即した対策を推進し、定期的なモニタリングと改善を繰り返すことで、警備員にとっても安心して働ける環境が実現していくことが期待されます。

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立ち姿勢では体重負荷が100%足裏に集中して、足や腰に負担がかかります。スタビハーフは体重を分散して支えるため、足裏への負荷を最大33%軽減することができます。

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立ち姿勢とスタビハーフ使用時における体にかかる荷重を、圧力分布センサを用いて計測したところ、スタビハーフの使用により足裏の荷重が最大30%程度軽減することが明らかになりました。

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スタビハーフの負荷軽減効果検証実験の様子。立ち姿勢とスタビハーフ使用時における体にかかる荷重を、圧力分布センサを用いて計測したところ、スタビハーフの使用により足裏の荷重が最大30%程度軽減することが明らかになりました。

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