労働安全衛生規則において「立業のためのいす」の設置が義務付けられている?

はじめに:立ち作業と労働者の健康
製造業、サービス業、小売業、医療福祉、警備、物流など、多くの業界では、立ったままの姿勢で作業を続ける「立ち仕事」が日常的に行われています。これらの職場では、従業員が1日数時間から8時間以上、断続的または連続的に立ち姿勢を強いられることも珍しくありません。こうした働き方は、腰や膝、足への継続的な負担をもたらし、慢性的な身体的不調を引き起こす要因になります。
とくに問題となるのは、単なる「疲れ」ではなく、蓄積された疲労が腰痛、膝関節の痛み、足のむくみ、下肢静脈瘤といった症状に進行し、健康障害として定着してしまうことです。医学的には、長時間の静的な立位姿勢は、筋骨格系へのストレスだけでなく、血流の停滞による循環器系への影響も大きいとされています。たとえば、ふくらはぎの筋ポンプが十分に機能しない状態が続くと、末梢の血液循環が悪化し、静脈瘤のリスクが高まるのです。
さらに、身体的不調が集中力の低下や疲労感の蓄積を引き起こすことで、作業効率が落ち、ミスや事故の原因になるケースも少なくありません。こうした身体的・精神的負荷が積み重なれば、離職やモチベーションの低下にもつながり、企業にとっても大きな課題となります。したがって、立ち作業の身体的リスクを軽視せず、継続的な対策と環境整備を行うことが、労働安全衛生管理の観点からもきわめて重要です。
法的背景:労働安全衛生規則第615条の概要と意義
日本の労働安全衛生規則は、労働者の身体的負担を軽減し、安全で快適な職場環境を整えることを目的に策定されています。中でも第3編第6章「休養」に含まれる第615条は、立ち仕事に従事する人のための具体的な配慮を示した重要な条文です。
「持続的立業に従事する労働者が就業中しばしば座ることのできる機会のあるときは、当該労働者が利用することのできるいすを備えなければならない。」
この規定は、立ち仕事の継続にともなう肉体的負荷を最小限に抑えるための予防的な措置です。特に注目すべきは、「完全な座位作業」である必要はなく、「座ることのできる機会」がある場合には、座れる環境を整備することが義務付けられている点です。
このような考え方は、人間工学的にも非常に理にかなっています。立ちっぱなしではなく、断続的に体重を椅子に預けることで、腰椎や下肢の筋肉、血管にかかる負荷を分散させることが可能となるからです。
また、労働衛生の国際的な潮流でも、ISO 45001(労働安全衛生マネジメントシステム)や、欧州労働安全衛生庁(EU-OSHA)のガイドラインなどが重視されています。
ISO 45001は、労働安全衛生マネジメントシステムの国際標準であり、「労働者にとって安全で健康的な職場環境を提供するための枠組み」を企業に提供することを目的としています。この規格では、身体的・心理的リスクの両方を体系的に評価し、継続的改善を図ることが求められています。作業姿勢や身体負荷に関する配慮も、職場環境の改善項目として明記されており、リスクの予防的対応の一つとして「立ち仕事の疲労対策」も含まれます。
一方、EU-OSHA(欧州労働安全衛生庁)は、EU加盟国における職場の健康と安全に関する政策提言やガイドラインを提供しており、「Musculoskeletal Disorders(筋骨格系障害:MSDs)」に関する啓発活動が積極的に行われています。特に、2020〜2022年に実施された『Healthy Workplaces Lighten the Load』キャンペーンでは、立ち仕事や不自然な姿勢がMSDsのリスク要因であることを明確に示し、企業に対して作業環境の改善や補助機器の導入を推奨しています。
これら国際基準や動向は、日本の労働安全衛生規則にも大きな影響を与えており、立ち作業に対して適切な対応を取ることが、グローバルスタンダードに合致した企業姿勢であるといえるでしょう。、作業姿勢の多様性や休憩の重要性が再三強調されています。日本国内の法制度も、このようなグローバルな動きに沿った内容となっていることは注目に値します。
実務上の対応:立業のためのいすをどう導入するか
第615条の規定に基づく実務上の対応としては、単に椅子を設置するだけでは不十分で、現場の作業環境や労働者の身体的特性を踏まえた柔軟な対応が求められます。特に重要なのは、以下のようなポイントです。
適切ないすの選定
- セミスタンディングチェア(半立位サポート型):座面が高く、完全に腰掛けずに体重を預けられる構造。作業の中断を最小限にしつつ、脚や腰の負担を軽減。
- サポートチェア(前傾・寄りかかり型):狭い作業スペースに適しており、立ったままの姿勢を崩さずに一時的に体を休ませる。
- 高さ調節可能なスツール:多様な作業高さに対応しやすく、個人差に合わせて調整可能。
- キャスター付き軽量チェア:移動性に優れ、複数の持ち場を移動する作業にも対応。
導入における工夫
- 使用ルールの整備:誰が、いつ、どのように使用できるかを明文化し、共用ルールも明確化。
- 衛生管理の徹底:共用するいすは、アルコール消毒や定期清掃など衛生的な使用環境を維持。
- 従業員への周知と教育:ただ設置するだけでなく、「なぜ必要なのか」「どう使えば効果的か」を伝える。
- 配置の最適化:作業導線を妨げず、安全かつ効率的に利用できるような設置場所を検討。
導入事例:さまざまな業界での実践と効果
実際に「立業のためのいす」を導入した現場では、さまざまな成果が報告されています。以下に、業種別の代表的な活用例を紹介します。
食品加工業
衛生環境に厳しい食品加工現場では、立ち仕事が基本です。ある中規模の加工工場では、加工作業中にセミスタンディングチェアを設置。高い清掃性と簡易な構造の製品を選ぶことで衛生基準を満たしながら、作業者の身体的負担を軽減しました。その結果、作業後半の疲労感が減り、離職率にも好影響を与えたと報告されています。
医療・介護現場
看護師や介護士など、頻繁に移動しながら立ち作業を行う職種でも、記録作業や点検時に「体を預けるいす」が活用されています。立ったまま体を支えられるチェアを導入することで、短時間でも身体へのリセット効果が得られ、「業務の合間にちょっと腰を休められる」という心理的安心感も得られたという声が聞かれます。
小売・接客業
レジ業務や受付業務など、常に顧客対応の視線を意識する職場では、「見た目を損なわず、業務の妨げにならない椅子」のニーズが高まっています。最近では、インテリア性と機能性を両立した立ち作業向けの椅子も登場しており、実際に導入した店舗では、「接客品質を維持しながらスタッフの体の負担を減らせた」との評価が得られています。
まとめ:立ち作業の未来を変える「立業のためのいす」
立ち仕事は今後も多くの業界で不可欠な働き方であり続ける一方で、その身体的負担は決して無視できない問題です。「立業のためのいす」は、そうした現場の負担を緩和する有効な手段として、法的にも明文化された対策です。
単に椅子を用意するという発想ではなく、作業姿勢の多様性を尊重し、健康的に働き続けられる職場環境をつくる。そのためには、事業者側の理解と工夫、そして現場の声を拾い上げる姿勢が不可欠です。働く人の健康を守るという観点から、今こそ「立業のためのいす」の価値を再評価し、積極的に導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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